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2011年のワースト映画

日曜日, 1月 22nd, 2012

映画秘宝の2011年 映画ベスト&トホホに参加させてもらいました。すでに発売済みの映画秘宝3月号に「破壊屋」名義で載っていますので、興味がある方は是非チェックしてください。

ところで映画秘宝のトホホは三本しか選べなかったので、ワーストテンをここに載せます。

第一位:プリンセス・トヨトミ

あまりにもくだらなさすぎる。堤真一と中井貴一の演技合戦が台無しになるほどの駄作。おっぱいと天然ボケを振りまくだけのヒロインに驚いたけれど、それが映画オリジナルの設定だと知ったときはもっと驚いた。どういう意図でこういうヒロインにしたんだ?いや意図はすごくよくわかるけどさ。

第二位:わさお

犬の難病モノ展開に口あんぐり(老衰だけど)。典型的な地方自治体の経済活性化映画なので自治体イベントのトライアスロンのシーンが長い。こういう映画って地方イベントを延々と写しているから嫌だ。『八日目の蝉』も島のシーンが長かったね、良作だから気にならなかったけど。

第三位:こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE ~勝どき橋を封鎖せよ!~

人情モノとして面白い。っていう評価はわかるんだけど、香取信吾のキャラクター演技がすべてをブチ壊しにしていた。あとこんな偶然の連鎖が許されるのなら(リンク先ネタバレ)人情話が盛り上がるのも当然だ。

第四位:DOCUMENTARY of AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?

興味がないものを観続けるのはキツイけど、これは観た俺が悪い。でもだれ映上位だったから仕方がなく…。

第五位:映画 怪物くん

アメリカ映画に疲れつつあった俺に「日本映画に比べれば何でもマシさ!」という現実を見せてくれた。

第六位:手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく

ブッダは人間救う前に東映を救ってやれよ。何度も映画化してくれるんだから。「シリーズ映画にするつもりが一作目で大失敗!」という点では『エラゴン』を上回る。

第七位:アントキノイノチ

まだDVDが無いので似たようなタイトルで。

前半の展開は結構好きだけど、後半のトンデモっぷりで一気に珍作へ。クライマックスのアレ(リンク先ネタバレ)は俺もやってしまったので、感動よりも笑いをこらえるのが大変だった。っつーかアレでどうやって感動しろと。

第八位:あしたのジョー

プレミアムDVDのジャケットには力石がいない。DVDの購入者を山Pファンのみに絞ってある。

これも前半がまあまあなんだけど、後半で一気に駄作へ。力石戦も酷かったけど、クライマックス(リンク先ネタバレ)はもっと酷かった。

第九位:僕と妻の1778の物語

脚本はまあまあなんだけど、この設定でなんで140分もあるの?

第十位:ランウェイ☆ビート

東京ガールズコレクションの文化祭バージョン。登場人物たちがファッションショーに憧れる情熱が全く伝わらないのに、クライマックスで大金かけたとしか思えないファッションショーが始る。かわいい服を着る楽しさよりも、ファッションの空虚さが表現されていたよ。

日本映画

全部日本映画になってしまった。2011年はアメリカ映画と韓国映画が勢いをなくしてその代わりに良作の日本映画がけっこうあったんだけど……。駄作で比べると日本映画の状況の悪さが継続中なのがよくわかるね。

日本映画はどれも状況説明している前半は面白いんだけど、後半になるとつまらなくなる。

テレビ局映画

テレビ局映画というよりもジャニーズが関わっている映画は、一般の観客のことを無視していて辛い。

テレビ局映画はバラエティ番組っぽい演出で映画を否定しているようなシーンが面白くて、真面目に映画やっているシーンのほうがずっとつまらない。『怪物くん』でその現象が顕著だった。盛り上げる=ダラダラ時間をかけて演出するというのもテレビ局映画最大の欠点。

テレビ局映画の最前線『アンダルシア 女神の報復』が意外と面白かったのは収穫だった。

外国映画ワースト

駄作を並べるとどうしても日本映画だらけになってしまうので、外国映画限定で。どれもそんなに嫌いじゃないので無理やりここに挙げた。だから駄作じゃないよ。

  1. エッセンシャル・キリング
  2. パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉
  3. 世界侵略:ロサンゼルス決戦

『エッセンシャル・キリング』は『アンナと過ごした4日間』の監督の最新作。観ていて修行僧を眺めているだけの感覚に陥った。

『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』よりも、ジョニデがヤバいことになっている。ロブ・マーシャル監督も『善き人のためのソナタ』の監督もジョニデと組んだ途端にハリウッドの平凡な監督になり下がる。

ここ数年圧倒的に面白かったアメリカ映画だけど『世界侵略:ロサンゼルス決戦』を観た時は「あ、ID4やアルマゲドンの時代に戻ったな」と思った。『世界侵略:ロサンゼルス決戦』はFPS(アメリカでずっと流行っているゲームのジャンル)の影響が強いんだけど、今はFPSがどんどん発展している時代なので、こういう映画観るよりもFPSやっているほうが面白い。

好きなんだけど…

監督:スティーヴン・スピルバーグ、脚本:エドガー・ライト、
製作:ピーター・ジャクソン、音楽:ジョン・ウィリアムズ、撮影:ヤヌス・カミンスキーという俺のオールスターが俺の大好きな原作を映画化した『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』がつまらなかったのは残念無念。

『戦火のナージャ』が三部作の真ん中だとはいえ、リンク先ネタバレで映画が終わったのは悪い意味で衝撃的。IMDBでめっちゃ評判悪いのも納得。

でも2011年は発狂するほどつまらない駄作がなくてホッとしたよ。

ピザボーイ 史上最凶のご注文

木曜日, 12月 1st, 2011

ピザボーイ

ハリウッド映画の記号的な演出に「メタリカのTシャツを着ているのはダメな大人」というのがある。他には「リンプ・ビズキットを聴いているのはバカなガキ」「パーカーを着ているのはオタク」とか。リンプ好きでメタリカのTシャツを持っていてパーカーを集めている俺にとっては心が傷つく演出だ。

ピザボーイ

映画でメタリカTシャツを着ているバカ1、メタリカのライブを観ようとして死ぬ(『ダーウィン・アワード』)

ピザボーイ

映画でメタリカTシャツを着ているバカ2、農民(麻薬の密造とも言う)やりながらラップでアメリカデビューを夢見ている男(『コラテラル・ダメージ』)

メタリカTシャツを着ている男が出てくる『ピザボーイ 史上最凶のご注文』は快作『ゾンビランド』のルーベン・フライシャー監督とジェシー・アイゼンバーグ主演コンビの最新作だ。映画の出来はというと、悪ノリで笑わせるコメディなので『ハングオーバー』や『宇宙人ポール』のような構成の上手さは期待しないほうがいい。
劇中で『ダイ・ハード』や『リーサル・ウェポン』を引用している辺りは『ホット・ファズ』に似ているかな。

映画のストーリーは「ピザの配達人が爆弾をつけられて無理やり銀行強盗をやらされる」というもので、現実に同じ事件が起きているのでそのことでも問題になった作品だ。爆弾をくくりつけられる主人公を演じるのは『ソーシャル・ネットワーク』のジェシー・アイゼンバーグで、劇中で彼がフェイスブックに言及するシーンはかなり笑える。主人公の相棒としてインド人が出てくるんだけど、コイツはアメリカのコメディアンでギョロ目をぎらつかせながらワメいてばっかり。主人公とインド人が妹を巡ってケンカするシーンは、褒める意味でかなり酷い。

もう一つのプロットとして、ニートの白人コンビが保守派の父親を殺そうとしてメキシコ系の殺し屋を雇う、というのがある。このニートがメタリカのメタルマスターTシャツを常にを着ているわけ。

二つのプロットに分けたのは面白いんだけど、お笑いネタが掛け合い漫才ばっかりになっているのが残念。でもエンド・クレジット後のオマケ映像は爆笑したしプロットの終わらせ方として上手い。下品すぎるのもビックリしたけど。

あとこの映画で一番笑ったシーンはネタバレだからリンク先に書くけど、こんなシーンだ

そして『ピザボーイ 史上最凶のご注文』で一番驚いたのは、殺し屋が口走る爆弾の解除コードがアレだったことだ。アレって日本だけじゃなくて世界共通の暗号だったんだね。Wikipediaで調べてみたら、色んな言語で紹介されていたよ…。リンク先ネタバレ⇒アレの正体

ピザボーイ

映画『ゾンビランド』でもフェイスブックネタはある。

ピザボーイ

同じく映画『ゾンビランド』から、俺のお気に入りシーン。ずっとネトゲー(ウォークラフト)をやっている引きこもりの主人公と、ゾンビに襲われて主人公の部屋に逃げてきた美女。主人公は美女にコーヒーを渡すべきなのにマウンテンデューを渡して呆れられる。もちろん主人公はパーカーを着ている。

ゾンビランド [Blu-ray]かなり好きな映画。オープニングはメタリカの『For Whom The Bell Tolls』、『ピザボーイ』のオープニングはハイヴスの『tick tick boom』。

駄作『アマルフィ』への報復『アンダルシア』

日曜日, 7月 10th, 2011

アンダルシア

しょう油が垂れたようなフォントも健在

面白かった

『アマルフィ 女神の報酬』を観る会を「アマる会」って呼んでいたんだけど、続編『アンダルシア 女神の報復』が公開されたので再びアマる会が開催された。某日某駅のアンダルシアのポスター前にアマる会メンバーが集合し

「このポスターすげえ!脚本家のところに名前が入っている!」

とくだらないギャグを飛ばしたりしていたけど(『アマルフィ』では脚本の真保裕一が怒って降板したため脚本家がいないことになっている)、映画終わったあとの飲み会ではみんなで『アンダルシア』の良かった点をひたすら挙げていった。それほど『アンダルシア』はふつうに良かった。少女の尿意がすべての始まりだった大駄作『アマルフィ 女神の報酬』から、よくここまでレベルアップできたものだ。今回のエントリはアマる会で出た会話を元に作りました。あとネタバレしまくってます!

ストーリー

物語の起点は二つある。パリのサミットで外交官としての仕事をしているオダルフィ(「織田裕二が演じる外交官:黒田康作」の略称)、サミットではマネーロンダリング規制の話があがるが………。そしてアンゴラ公国(人口7万人のヨーロッパの国)のホテルの一室では、投資家(谷原章介)の遺体と銀行員の黒木メイサがいた。いったい黒木メイサは何に巻き込まれてしまったのか?日本人投資家の殺害事件を通じて在外邦人たちが絡み合っていく。前作『アマルフィ』の「ヨーロッパ某国の軍事政権を日本が支援していた」という珍設定は一体なんだったのだか?というくらいちゃんとしている。

演出が良かった
『アンダルシア』の最大の特徴は気の利いた演出の数々だ。セリフでの説明が少なく演出で語ってくる映画なので、観客は演出を味わいながら意図をかみ砕く必要がある。以下ではそんな演出をいくつか取り上げてみるけど、ネタバレなので注意!

演出:黒木メイサはなぜ車の窓を開けるのを嫌がるのか

伊藤英明と黒木メイサの内面は細かい演出で少しずつ明らかになっていく。黒木メイサは幼いころの交通事故で負った額の傷を見られたくないから窓を開けるのが嫌なんだけど、そのことを劇中一切説明しない。説明しないからこそ、彼女がラストシーンで車の窓を開けるだけの動作に爽やかな感動が生まれる(窓を開ける⇒傷が見える⇒傷が見えても気にしなくなっている⇒トラウマを乗り越えた)。こういう人間の内面の変化をセリフで説明して、ドラマが台無しになっている映画は多い。

演出:オダルフィVS伊藤英明

インターポールの伊藤英明がオダルフィを格闘であっと言う間にのしてしまうシーンは「え!こんなに強いキャラなんだ!」と驚かせてくれるけど、その後彼らが銃撃戦に巻き込まれると、伊藤英明は体がこわばってしまい動けなくなる。「え!このキャラって実は弱かったんだ」と驚かされるれるが、これらの描写もクライマックスで伊藤英明が銃を使うシーンへの伏線になっている。

またこの二人の対決は、『踊る』と『海猿』というフジテレビの大看板を背負っている二人の対決にもなっていて、芸能的な意味でも観ていてハラハラするものがある。以下俺の妄想。

織田「伊藤くん、踊るシリーズのほうが興業収入大きいからって臆することはないよ。」
伊藤「織田さんの大物っぷりには誰も敵わないですよ。共演者トラブルで大ヒットシリーズの続編作らせないなんて!」
織田「伊藤くんは関東連合とつながっているけど大丈夫なの?」
伊藤「っていうか外交官:黒田康作シリーズってあんまりヒットしていませんね、だからこそ俺が呼ばれたんでしょうけど」

演出:ユージュアル・サスペクツ

注意!『ユージュアル・サスペクツ』のトリックのヒントが書かれています!

伊藤英明が黒木メイサの裏の性格を知るシーンの演出は、『ユージュアル・サスペクツ』のトリックを大胆に使っていて面白かった。黒木メイサは警察官にとある男性の容姿を伝えるんだけど、その容姿が……これもセリフでの説明が無いので観客はカメラワークや伊藤英明の視線を読み取って理解する必要がある。『ユージュアル・サスペクツ』では理解できない観客のためにコーヒーカップをうまく使っていたけど、『アンダルシア』ではTシャツの使い方があからさますぎてちょっとイマイチだった。でも観客全員にも理解させるためにはあそこまであからさまにしないとダメなのかも。

演出:ポーカー

オダルフィが黒木メイサの裏の性格を知るシーンの演出も良かった。二人がポーカーで対戦していて、どんどんレイズアップする。しかしポーカーの最中にオダルフィは寝てしまう(どうして眠くなるのかも伏線が貼ってある)。起きたオダルフィが黒木メイサの残したカードを見ると…めっちゃ弱かった!ここでオダルフィは黒木メイサがブラフをかけていたことを知り、彼女の本当の性格に確信を持つのだ。

そういえばオダルフィってポーカーが強いって設定だったね。もう誰も覚えてないけどアマルフィ・ビギンズってのがあった。

演出:コーヒーが飲めない!

オープニングのパリのレストランで、コーヒーが飲めなかったオダルフィ。これは本編で繰り返しギャグとして使われる。国際会議の舞台でも動じないオダルフィが、コーヒーごときで大きなリアクションしてしまうギャップで笑わせてくれる。

演出として効果的なのは列車内でコーヒーが飲めないシーンで、あのシーンは「オダルフィに寄りかかる黒木メイサを起こさないようにコーヒーに手を出さない優しさ」を表現しつつ、「やっぱりコーヒーが飲めないオダルフィ」で笑わせてくれる。

福山雅治

福山雅治は登場シーンが少ないながらも、設定説明する人&観光地紹介する人&ギャグ&お色気をぜんぶ担当している便利っぷりが笑えた。アマる会では「福山雅治はオダルフィのことが好きで、嫉妬させようとしていつも女連れでオダルフィの前に登場するのでわ?」という腐女子会みたいな会話していました。実際、福山雅治のキャラはオダルフィに献身的すぎるだろ。

撮影

日本映画界の大ベテランカメラマンでありながら、『アマルフィ』ではちょっとイマイチな撮影だった山本英夫だけど、今回のアンダルシアやアンゴラの撮影は大画面で見ると本当に美しい。まあ画質いじっているのはちょっと気に食わなかったけど。

外国映画の影響

ジェームズ・ボンドとボーン・アイデンティティーの影響を受けているこのシリーズだけど、『ザ・バンク 堕ちた巨像』も参考にしたと思われる。インターポール捜査官が部外者とコンビを組んで国際銀行の闇を暴くという点では『ザ・バンク 堕ちた巨像』と設定がまったく同じ。

不満点

細かいところで不満点はある。インターポールに左遷された刑事という設定(銭形かよ)や、警視庁から電話かかってくるとiPhoneの画面に警視庁と表示されるシーンは苦笑してしまう。あ、『アマルフィ』と違ってドコモがメインスポンサーから降りたのでiPhoneがバリバリ出てきます。アマる会では地理的なツッコミも出てきた。100人が見れば97人は見破れる「実は生きていた」トリックはイマイチだったけど、そのあとの本当の大オチが効果的だったのでこれは無問題。それよりも大オチを考えると黒木メイサが監視に怯えていたのがちょっとだけ変だ。

最後に

色々褒めたがけど、俺の評価は五つ星中★★★で普通の良作だと思っている。「外国映画だったらこの程度の演出を当たり前にやっているよ…」と思う人は多いだろう。でもフジテレビの映画が、フジテレビらしさを失わずにここまできちんとやっているところが面白い。

このレベルを維持できるのなら、ぜひ第三作以降も作って欲しい。ところが『アンダルシア 女神の報復』はそれほどヒットしておらず興行収入は20億越えといったところらしい。踊る2で170億、海猿3で80億を稼いだ二人の競演作としてはだいぶ寂しいものがある。でも国内ロケなら次回作も撮れるよね?アタミとかアマガサキとかアがつく地名ならどこでもいいんでしょ?

ところで「女神の報復」というタイトルの意味だけど、花火が見られなかったルカちゃんの復讐ってこと?(違う)

ザ・バンク 堕ちた巨像 [Blu-ray]美術館での銃撃戦が美しい

人種衝突映画としてのボルケーノ

日曜日, 8月 29th, 2010

終戦の日が近づくとテレビでは反戦映画を放映するが、防災の日が近づいている今日テレビでは『ボルケーノ』を放映する。今回はロサンゼルスで地震・噴火が起きる『ボルケーノ』の話。

トミー・リー・ジョーンズ主演の『ボルケーノ』は1997年に製作されたディザスター(災害)映画であんまり評判良くない。でも『ボルケーノ』の背景には人種衝突があってその観点で観ると意外と面白いのだ。『ボルケーノ』が人種衝突を題材にした理由は、1992年にロス暴動が起きて白人・黒人・韓国人たちの人種衝突が浮き彫りになっていたからだ。以下はネタバレ込みで『ボルケーノ』の各シーンを解説する。


ボルケーノ
ボルケーノ

ロス暴動といったら「黒人たちが商品を略奪している映像」というのが一番有名なのかな?もちろん『ボルケーノ』にもそんなシーンがある。

ボルケーノ

もう一つロス暴動で有名なのは、白人の警官が黒人を暴行している証拠映像。『ボルケーノ』でも白人の警官と黒人がケンカしているときにマスコミが来ると、こんなセリフになる。

ボルケーノ

このシーンはハッキリとは説明されないけれど、貧困層の住宅街で金持ち白人が高級車で事故を起こし黒人たちが激怒。黒人の牧師が教会に白人を匿ったという状況だ。で、その白人は「俺をパトカーで未開の地から文明国へ戻してくれ!」と黒人に対する嫌味を言っている。

ボルケーノ

これは洗濯モノが燃えているシーン……だけではない。アメリカでは「洗濯モノを干す=乾燥機が無い=貧困層」ということになる。中流以上が住む住宅街では「洗濯モノを干してはいけない」というルールが設けられる場合もある。だからこのシーンは「貧困層の住宅が燃えている」というのが正しい解釈。この後の「美術館は守られているのに、貧困層の住宅街は守られない」という黒人の怒りの伏線にもなっている。アメリカ国旗もちょっと見える。

ボルケーノ

黒人は白人に協力し、白人は黒人の住宅街への救援に向かう。グッとくるシーンのはずだが、120%わかりきっている展開なので思ったより熱くなれない。

ボルケーノ

この韓国系の女性は優秀な医者で、金持ちイケメン白人の恋人から貰ったロレックスを身に付けているという設定。後半だと彼女は全身全霊で人々の治療に当たる。アジア人女性が完璧なエリートキャラを演じているというのは90年代だとけっこう珍しい。そういえばバージニア工科大学銃乱射事件のチョ・スンヒの姉も韓国系エリートだったな…。

ボルケーノ

地下鉄の運転手は二人とも非白人。このあと運転手は災害に巻き込まれるが、キリスト教信者の白人が犠牲となって運転手は助かる。宗教的・人種的に重要なシーンだが、それよりも犠牲となる白人がデロデロと足から溶けていく描写のほうが印象に残る。

ボルケーノ

ドン・チードルは、この手の映画に必須の「白人をサポートする黒人」を演じる。右にいるタマゴハゲのおっさんはいろんな映画で「タマゴハゲのおっさん」を演じているリチャード・シフという役者。この頭に相応しい役ばっかりだが、実はショーン・コネリー系のカッコいいオヤジである。映画の中で変なキャラを演じている男って、プライベート写真だとすごいイケメンだったりするので油断ならない。
リチャード・シフ
↑リチャード・シフ

ボルケーノ

人種問題とは関係ないシーン。この少女はトミー・リー・ジョーンズの娘役。少女の子守がトミー・リー・ジョーンズに「あなたの娘は首が360度回転する」と報告している。『エクソシスト』は首が回転するホラー映画だが少女の反抗期も描いている。という知識があれば、このシーンで娘が反抗期を迎えていることがわかる。知識がなくてもわかるので安心して欲しい。いい映画とはそういうものだ。

でも『ボルケーノ』が批判される原因は、この娘がピンチになる⇒トミー・リー・ジョーンズが助けるというパターンがくだらなすぎる点である。少女を演じたギャビー・ホフマンは最近消えてしまったが、『ボルケーノ』のヒロインのアン・ヘッシュも消えたな。

ボルケーノ

で、これが映画のオチ。火山灰のおかげでみんなの人種がわからなくなってしまった!人種を超えた救助活動はなんて素晴らしいのだろう!というワケ。このあとトミー・リー・ジョーンズが「この星の住人たちはお互いの個性を認めることができる」と報告して、ジョーンズ星人がBOSSを飲んでいるというシーンは無い。

2001年におきた同時多発テロによるワールドトレードセンタービル崩壊では、色んな人たちが灰にまみれて救助活動をしたけど、あの事件は中東系に対する憎悪と差別を増幅させるきっかけとなってしまった。非常時になると、人種を超えて人々が協力するのか、人種差別が浮き彫りになるのかはわからない。というか両方なんだろう。『ボルケーノ』は一応その両方を描いたが、人種を超えるシーンの描き方が都合良すぎた。

そして2004年に『ボルケーノ』と同じくロサンゼルスの人種衝突を描いた傑作映画『クラッシュ』が製作された。『クラッシュ』は現代のアメリカが人種衝突の問題に答えを出せない状況になっていることを描いていた。ちなみに主人公は先ほどのドン・チードルである。


追伸:映画評論同人誌「Bootleg」で白人映画の中の黒人について書いたけれど、取り上げられなかった作品は大量にある。『ボルケーノ』はその一本で、俺はなんだかんだ言って『ボルケーノ』が割と好きである、同時期に製作されて競作となった『ダンテズ・ピーク』よりはずっと面白いしね。


参考

彼はいま素直になれていません

月曜日, 7月 19th, 2010

上映前に解説が流れる外国映画がある。三国志時代を描いた『レッド・クリフ』やナチスドイツ時代を描いた『ワルキューレ』の上映前には歴史背景の解説がある。この解説はもちろん日本オリジナルだ。『レッド・クリフ』や『ワルキューレ』は外国の歴史を扱った映画なので、日本人向けの解説を入れるのは理解できるんだが……トリック映画の『シャッター・アイランド』の上映前に映画のトリックに関する解説が流れたのは驚いた。そういえば『シックス・センス』が流行っていた頃は本編が始まる前に「結末を誰にもバラさないでください」とハッタリ的な注意書きが出てくる映画があった。『シャッター・アイランド』も同じようにハッタリ的な効果を狙っている(と思う)ので、トリック解説を批判するつもりはない。でも俺はトリック解説よりも別の注意書きの存在にちょっと違和感を感じた。こんな意味の注意書きが出てきたのだ。

登場人物の表情や目の動きに注意してご鑑賞ください

え?それって注意書きが必要なの?いや、これもハッタリの意味で注意書きを出したんだと思うけど。『シャッター・アイランド』には次のようなやり取りがある。レオナルド・ディカプリオ演じる捜査官が取り調べをしているシーンで
「あなたはレディスという男を知っているか?」
と聞き出す。そこで相手が
「知らない」
と答えるのだが、その表情がわかりやすいくらい強張っている。つまりその人物は「レディス」を知っている上に、「レディス」という質問に何か恐怖しているのだ。怪しい!注意書きを出した理由はこういったシーンがいくつかあるからだろう。でも映画を観るときに役者の表情から感情を読み取るなんて当たり前じゃん!少なくともアメリカ人たちは注意書き無しで『シャッター・アイランド』を観ているのだ。


シャンパン

とあるアメリカ映画の1シーン

とあるアメリカ映画を観に行ったときのお話。友人が自殺してしまった主人公が、友人の家に入って冷蔵庫をガチャっと開けるシーンがあった。そこにはシャンパングラスが2つ冷やされていて、主人公はシャンパングラスをジッと見つめるのだ。で、映画が終わると近くの観客たちが「あのシャンパングラスって結局なんだったの!」「わかんないよねー」と話し会っていた。あのシャンパングラスを見つめる意味は

  1. 自殺した友人は一人暮らし
  2. 友人はとある裁判の原告と合う予定だった
  3. で、シャンパングラスが2つ冷やしてある
  4. そんな時に自殺するのおかしい
  5. 自殺じゃなくて、殺されたのでは?
  6. というかシャンパンを開けて何を祝うつもりだった?
  7. もしかして裁判に大逆転できるほどの証拠が手に入っていたのか?
  8. ってことは殺したのは被告側?

と、冷えたシャンパングラスを映しているだけで、セリフが無くても主人公の推理が観客に伝わってくる素晴らしいシーンだと思った。劇中ではシャンパンにまつわる会話が自殺直後に出てくるので、上記の推理は意識せずとも出来ると思う。でも俺の近くにいた観客はそれが出来なかった。

もちろんこの映画を観たアメリカ人にもシャンパングラスの意味がわからない人はいるだろう。だけど今の日本の大衆向け映画だったら、シャンパングラスを見つめているだけじゃなくて、主人公が説明的な独り言をつぶやく演出をやりそうである。


以下は映画『UDON』の中盤のネタバレ。

映画『UDON』の主人公:ユースケ・サンタマリアは莫大な借金を抱えているのだが、父親が勝手に返済してしまう。ユースケ・サンタマリアと父親は仲が悪いので、ユースケ・サンタマリアは怒り出してしまう。そのシーンを小西真奈美が解説するのだ。

その時の彼は”ありがとう”そう素直に言えない自分に誰よりも腹を立てていたのだと思います。

うどん

『UDON』は全編こんな感じである

いや、そんなの解説する必要ないだろ。それを表現するのが演出であり演技じゃないの?このように『UDON』では、そのシーンの感情や意味を常に小西真奈美が解説する。映画館で観た時はこの解説に唖然とさせられたけれど、もし『UDON』をDVDで観ていたら、唖然とする前に「あれ?小西真奈美のコメンタリー機能がONになったのか?」と思い込んだかもしれない。

大衆向けの日本映画は誰でもわかるように作られており、演技や演出を理解できなくてもセリフで説明してくれる。作り手だけが悪いとは思わないが、俺はこういうセリフを「フールプルーフ」と勝手に呼んでいる。設計用語のフールプルーフとはちょっとズレるけど。ちなみにバッド・ムービー・アミーゴスはこの風潮を、目をつぶって鑑賞しても映画の内容がわかるという意味で「バリアフリー」映画だと批判した。

前述の小西真奈美の解説については「何で破壊屋は批判するの?あったほうがわかりやすいよ」と思っている人もいるだろう。『GOEMON』の紀里谷和明のように、セリフでテーマを説明する脚本を批判されると、「セリフでテーマを説明して何が悪いの?」と逆に聞き返してくる映画監督も出てきた。俺もバカみたいにわかりやすい映画は大好きである。でもドラマを組み立てていくような映画で説明セリフが出てくるとシラける時があるのも事実だ。人間の表情やシャンパングラスを映しているだけでも、雄弁に語ることはできるのに。