僕は
”人が一杯死ぬけど、ちっとも悲しくない”というタイプの映画が大好きなんですが、何故だか
「イン・アメリカ 3つの小さな願い事」「死ぬまでにしたい10のこと」などといったタイプの作品も好きなんです。「エイプリルの七面鳥」も「死ぬまでにしたい10のこと」路線で宣伝しているので観に行きました。
日本版の公式サイトはピンクを基調に、柔らかくて暖かい雰囲気の絵がふんだんに飾ってあります。ストーリー解説も料理の下ごしらえやテーブルセッティングに合わせて解説している。内容は
”ヒロインが仲の悪い母親のために七面鳥料理を作ってあげる”という感じに書いてあります。
ところがあくまでもこれは、
日本独自の宣伝(しかも女性向け)で、実際はケイティ・ホルムズ演じる
凶悪で凶暴だったゴスッ娘が、断絶した家族を迎えるために七面鳥料理に悪戦苦闘するというホームコメディ。
本家公式サイトのTOP画像を見てもらえばちょっとわかると思う。
「エイプリルの七面鳥」の監督・脚本はピーター・ヘッジス。彼は脚本家で本作が初監督作品なわけですが、「エイプリルの七面鳥」にはこいつの
「オレの脚本テクニックすげーだろ!」感が満載。実際メチャクチャ上手い。会話や小道具から映画の設定が少しづつ判明していく手法を使うので、
説明シーンが皆無。また10人以上のキャラが登場してそれぞれにドラマがあるのに、
上映時間が80分というのも上手い証拠。キッチリまとめてある。
映画は二つのストーリーが平行して語られます。一つはエイプリルの家族の物語。
中流白人階級のエイプリルの家族が、エイプリルと感謝祭を過ごすためにNYへ向かう。でもみんなは凶悪だったエイプリルに会うのに不安を抱いている。特に母親はどーやってエイプリルの七面鳥を捨てるかまで考えている。
もう一つはエイプリルの物語。
エイプリルは七面鳥を作ろうとするけど、オーブンが壊れてしまって上手くいかない。そこでエイプリルはアパートの住人達に助けを求めるのだが・・・。
映画評は雑誌上でもネット上でも、みんな
「家族の再生」とか
「母と娘の絆」とかになっている。でもこの映画で一番重要なのは
「感謝祭の意味」のはず。エイプリルにとって感謝祭は
インディアンに対する感謝が元になっている、そしてエイプリルの口から出てくる感謝祭ネタは、
白人がインディアンに対して行ってきた迫害ネタばっかり。
一方でエイプリルの家族は白人社会の人間なので、
黒人が走ってくるだけで悲鳴をあげるような人たち。[
さらにエイプリルの彼氏が黒人だと知った家族はエイプリルを見捨てる。エイプリルを見捨てた帰路の中でエイプリルの母は、トイレで叱られている少女と目が合う。母はエイプリルとの間に何も良い思い出が無い、それでもエイプリルは娘なのだ。母は再びエイプリルの元へ行こうとする、そのためにはバイカーの協力が必要だった]。僕はこのバイカーはインディアンと戦った騎兵隊を意味すると思う、だからこのバイカーが感謝祭(=インディアンに対する感謝)に唐突に参加する。
[
ラストシーン、エイプリルは断絶した家族と繋がる。表面的には宣伝通り「母と娘の絆」が繋がって、「家族の再生」したってことでしょう。でもエイプリルが七面鳥を作り上げるためには、黒人と中国人の協力が必要だった(白人はオタクや菜食主義なので役に立たない)。そして白人も黒人も東洋人もバイカーもみんな一緒に感謝祭を過ごす。繋がったのは家族だけじゃない。]