注:ネタバレを隠していません
めったに観に行かない池袋で観たのですが、上映事故でフィルムがガクガク揺れていました。最初は効果かと思ったけど、字幕も一緒に揺れているので事故だと気がつきました。
891年の中国。捕吏のアンディ・ラウは、反政府組織の人間がキャバクラにいることを知る。そこで部下の
金城武に潜入捜査を命じる。だが
次のシーンでは既に金城武は任務を忘れてキャバクラを心の底から楽しんでいる。そして金城武は自分が抑えられなくなり、踊り子(チャン・ツィイー)に襲い掛かる。
「やめて下さい!この娘はそーいう娘じゃないんです!」と特別出演の
女子十二楽坊が、金城武を必死に止めようとする。結局アンディ・ラウに
「何やっとんじゃお前」と取り押さえられた金城武。だがこの時点で既に観客は騙されていて・・・。
「謀」という文字が示すように、「LOVERS」にはトリックが仕掛けられています。でもトリック映画というのは、
「登場人物が騙される=観客が騙される」という構図が正しいのですが(シャマラン映画におけるB・ウィリス)、「LOVERS」は
直接観客をダマすという一番やってはいけないルール違反をやっている。
牡丹坊ではトリックを仕掛ける側が、二人っきりの時も戦っている(しかも実は恋人同士だし、牡丹坊の女将も仕掛ける側)。これじゃあ観客は騙されて当たり前、伏線になっていない。また飛刀門のトリックの意図もサッパリわからない。飛刀門は自分のトリックによって敵軍に囲まれ、それ以降どうなったのか全く説明がつかない。少なくとも飛刀門が反撃に出ようとする一瞬くらいは用意しておくべきなのに。
「LOVERS」はトリック映画ではない、チャン・イーモウの目的は観客を騙すことだけ、トリック映画を作ろうとはしていない。チャン・イーモウが「LOVERS」で描きたかったのは、愛が謀となり、謀が愛となる。一途な想いこそが一番の謎。そんな物語なのです。
「藪の中」をやりすぎた「HERO」よりはずっと見やすいので、オススメできます。
● 金城武
「オレにとっちゃ女を騙すなんて楽勝だよ!」と普段から吼えているけど、実は思いっきり女に騙されているという、金城武にピッタシの役。
● チャン・ツィイー
シャオメイを演じる。美少女で
か弱いのに最強戦闘キャラで、漢字だと
小さい妹と書く、アキバのオタク達の妄想が現実になったようなキャラ。
男たちに襲われピンチになって金城が助けに来るたびに、
「ああ!王子様が助けに来てくれたのね!嬉しいわ」
というようなカワイイ表情をするが、その直前までチャン・ツィイーは男たち相手に
大暴れしている。
そして盲目、かつ布を自在に使って攻撃するので、「スパイダーマン2」の
ドク・オックに似ている。
● アンディ・ラウ字幕だと名前がわかるのはめっちゃ後半。実は「インファナル・アフェア」と同じ役。原作ではあの後、年老いた劉が「LOVERS」の物語を書く。
● 女子十二楽坊0.5秒位女子十二楽坊だと思っていましたが、みんな楽器が同じなので違うと気づいた。
● 飛刀
決死の逃亡中に
「ああ!私の大切な飛刀が無いわ!」
「よし僕が探してあげよう!」
そんなもんほっとけよ!と思ったけど、まさかあんなに重要なアイテムになるとは・・・。
● 飛刀門秘密組織だが全身緑なので目立つ目立つ。こいつらの飛刀乱れ撃ちが決まると、蚊だらけの部屋でバルサン焚いたみたいに、中国人が空から一杯落ちてくる。
● 捕吏スーパーマンが胸に”○のS”と書いてあるのと同じように、胸に”○の捕”と書いてあるのでわかりやすい。
● 血あのラストは「(アンディ・ラウの)血が(チャン・ツィイーの)飛刀に当たる」=「チャン・ツィイーはアンディ・ラウの飛刀を止めようとしていた」という意味なんですが・・・。血って飛刀と同じくらい早く飛ぶのか。
● 雪
観客全員心の中でずっこける迷シーン。理由はウクライナで撮影したため、突然大雪に降られたらしい。
映画の撮影苦労話に「いやー天気が大変だったよ」というのがしょっちゅうあるけど、みんな
ちゃんと天気を統一して撮影してくれるから、普通は映画観ていてもそんな苦労は気にならない。でもそーいう努力をしないとこの映画のようになる。
● 仙人岐路
踊り子の技量を試す舞、超高度。
1:まず太鼓を大量に並べる。
2:誰かが太鼓に向かって豆を投げて、太鼓を鳴らす。
3:踊り子は鳴った太鼓を、舞いながら布で打ち再び太鼓を鳴らす。
4:豆の投げ手は、太鼓を
ジャンプ・ショット(跳弾)で鳴らす。つまり豆を一個投げただけで、次々に太鼓が鳴る。
5:それで踊り子は鳴った太鼓を布で打つ。
こうやって踊り子の技量を試すのですが、どー見ても
豆の投げ手のほうが高度な技を使っている、最後はヤケになって豆を全部投げてるし。
● チャン・イーモウ
僕が尊敬する中国の映画監督。サッカー大会での反日運動を受けて「LOVERS」を批判する人達がいるらしいが、チャン・イーモウの傑作で僕のベスト・オブ・中国映画の「紅いコーリャン」は、造り酒屋の純愛が何故か突然抗日運動になるという、素晴らしい恋愛映画だぞ。
どーでもいいが、チャン・ツィイーが金城武を処刑するのを止めるシーンを観て「ああ、なるほど。
セックスしてから殺すのか。」と思ってしまった僕には、愛の映画は無理ですね。一生「キャット・ウーマン」でも観てます。