「踊る大捜査線」「恋人はスナイパー」等といった、
トンデモ映画を送り出してきた君塚良一。そんな彼の初監督作品の「MAKOTO」。もちろん脚本も書いてますよ!
以下は前半の解説、序盤のみネタバレ。
東山紀之演じる監察医は死者の霊が見える。死者達は彼に何か伝えたいことがあるのだ。だが霊達は喋ることができない。彼等は見つめるのみ・・・。
監察医達は今日も殺害された死体を解剖する。解剖する部屋は病室というよりも
廃病院。
もちろん照明は切れていて暗い。医者達はみんな
濃い紫の服を着て青いエプロンをしている。死体の解剖が進むたんびに
カメラマン達が死体をパシャパシャ撮影している。・・・まるで
ギャグのような死体解剖シーンです。
素手で解剖するシーンも有るし。君塚脚本は
映画として嘘をつくべきところと、リアリティを追求するべきところをいつも間違えているのだが、それは演出でも同じでした。
ある日東山紀之は少女の霊を見る。つまり少女の死に何か秘密があるのだ。彼は早速病院内にある検死の終わった少女の死体を調べる。そして
少女の体が痣だらけなことに気がつく・・・
検死したんでしょ?誰がどう見ても虐待の痕なわけだが、
ウッカリ死斑と間違えてしまったので虐待に気がつかなかったのだ。この病院の監察医達はみんな医者失格ですね。
もう一つ女子大生殺害事件も起きた。みんな現場に駆けつけるが、現場では土砂崩れが起きそうなので、全員現場から走って逃げ出す(このシーンは意味不明だった)。殺された女子大生はもちろん幽霊になった。女子大生の父親である武田鉄矢は、娘の死体が解剖された病院で刑事の聴取を受ける。普通聴取を受けるのは警察署じゃないの?
聴取の結果、女子大生と交際していた相手が被疑者となった。病院での刑事達の会話
刑事1
「被疑者は行方不明です!」
刑事2
「行方不明!よっしゃ行くぞ!」
どこに行くつもりだ。何でこういう台詞を書く脚本家が大物扱いされるのかなぁ。
東山紀之と同僚の室井滋は、少女の虐待を報告しないで少女の死体を
無許可で解剖する。
それは死体損壊って言うんだよ。とりあえず
少女の頭を壊す東山紀之、その結果少女の脳の奥に傷があることに気がつき、
「この少女は高いところから落ちて、それが原因で死んだ」ことが判明する。どーして
脳の奥に傷があるだけで高い所から落ちたってわかるの?そんなことより
外傷を見ろよ。
東山紀之と室井滋は少女の母親に会いに行くが、何も掴めない。そこで二人は刑事の哀川翔を連れて(以下、この3人を三人組と表記)、少女が泣いていたという公園に行く。公園には
高い台があったので、三人組は少女がこの高い台から落ちたと推測する。
少女の通夜。だけど参列者は誰もいないし、葬儀社の人間以外は全員私服。この辺の
リアリティの無さが「MAKOTO」の致命的な部分です。
三人組は母親に虐待の有無を問いかけ、母親は虐待を認める。刑事は証拠が何も無いけど
「お前が少女を高い所から突き落として殺した」と問い詰める。なんだこの
短絡した推理は?
だが母親は本当に少女を殺してはいないらしい。どうして少女が死んだのだろうか?東山紀之は母親に
「少女(の霊)は公園で待っている」と伝える。そこで三人組と母親は公園に向かう。そして
母親は誰も見ていなかった少女の事故シーンを回想する(何で誰も見ていないのに回想できるの?編集おかしくない?)。そして真実が明らかになった。
母親
「娘は公園の高い台に昇って、
新横浜プリンスホテルを見ていて落っこちたのね」
室井滋
「それが真相だったのね・・・」
オイ!
そんなんで信じるなよ!しかしその瞬間、信じられない、というか僕は爆笑してしまった奇跡が起きる!
何と死んだ少女の
霊が肉体を持って蘇り復活したのだ。ビックリする室井滋、ビックリする哀川翔。感動している東山紀之。肉体が蘇った少女は母親と抱き合う。母親は虐待を詫び、少女は母親に感謝を告げる。ここは
どうやら感動するシーンのはずなんですが、僕は爆笑。しかし少女の肉体は再び消えて、少女は成仏してしまう。少女が消えるというのに特に何もせず、座ったりして見ているだけの面々。
確かに幽霊が肉体を持って蘇るのは有名なパターンなので何の問題も無い。
夏休みに一緒に仲良く遊んでいたヤツが、夏が終わって消えてしまう。実はヤツはとっくの昔に死んでいたのだってのはよくあるパターンです。でも「MAKOTO」がオカシイのは幽霊が肉体を持って復活するシーンと、再び消えるシーンをC Gで
直接描いてしまう。
それに幽霊が肉体的に蘇って直接メッセージを伝えられるなら、主人公の
幽霊が見える能力の意味が無い。
「シックスセンス」でミーシャ・バートン(少女の幽霊)が復活して父親に真実を説明したのなら、ハーレイ・ジョエル・オスメントの出番がなくなるのと同じ。幽霊は大切な人に思いを伝えることが出来ないから、幽霊が見える主人公にすがるんじゃないの?そのために主人公は苦労するんじゃないの?
もう一つの幽霊である女子大生の殺害事件も進展があった。犯人である交際相手が首吊り自殺していたのだ。監察医の助手で
首絞めマニアのベッキーは大喜び。携帯カメラで死体をパシャパシャ撮る。
東山紀之は解剖をして自殺に間違いないと断定。だが女子大生の死体を縛っていた結び目は運送業者の結び方だった。そして自殺した男は首吊りする時に素人結びをしていた。もう一度交際相手の死体を調べる監察医達。そして交際相手の死体の爪から、誰かと争った相手の皮膚が出てきた。
つまり自殺ではなくて他殺なのか?いやいやそーいう単純な話ではない。もの凄く頭の悪い脚本なので詳細に解説します。事件の真相はこうです。
1:女子大生は交際相手(首吊り自殺)と運送業者(真犯人)で二股をかけていた。
2:だから交際相手と運送業者は殴りあった。
3:運送業者は交際相手を気絶させ、その間に女子大生を殺した。
4:交際相手は、自分が女子大生を殺したと思われるのが怖いので自殺した。
何でいきなり自殺するの?自殺する前に
警察行って供述しろよ!そこで自殺したら、誰がどー見たってお前が犯人じゃないか!脚本書いた奴出て来い!
女子大生の父親である武田鉄矢は、病院の解剖室で、娘の死体と対面する。その時、
今度は女子大生の霊が肉体を持って蘇り復活。おーい、
その部屋にはお前の死体があるのに、何でお前の霊が肉体を持つんだ?何でお前の肉体が二つ存在するんだ?
女子大生の家族はビックリするが(当たり前だ)、三人組は2度目のせいかあまりビックリしない。
そしてまた唖然とするような展開になる!娘の幽霊に
「何男漁りしてたんじゃ」と
武田鉄矢が説教を始めるのだ。さすが金八先生です!、男にメッタ刺しにされて、縛られて、殺された自分の娘の霊を責めるなんて、マトモな神経してないよ!
あんた腐ったミカンだよ!
ショックを受けた娘は
そのままあの世へ行く(この時娘の母親が「どこへ行くの?」と聞くのが思いっきりマヌケ)。
このシーンは「踊る大捜査線2」の
”男に襲われた女子高生の事件を「それだけ?」と言い放つ主人公”を超える糞シーンです。しかも監督脚本の君塚良一は
「原作では実は(犯人の)男が悪かったんだという救いのある話になってる(が、あえて映画ではそうしなかった)」とかホザいてます。ふざけんな!
女子大生をメッタ刺しにした男が悪人に決まっているだろ!何で二股かけただけで、惨殺されて、死んで幽霊になっても拒絶されて、そのままあの世なきゃいけないんだよ。
三輪ひとみが三人組の元へやってくる。ちなみに三輪ひとみは普通の登場人物であって死んでるわけではないのだが、途中三輪ひとみが幽霊なのでは?と思わせるシーンがあって、ここらへんは
映画ファンには嬉しい素敵なアイデアです(三輪ひとみはホラーで有名な女優)。
三輪ひとみの兄は、半年前に東山紀之の妻(事故で死亡)と不倫していて自殺した。だが三輪ひとみは自殺ではなくて、東山紀之の妻が兄を殺したと信じているのだ。そこで三輪ひとみは監察医の東山紀之に、兄の死の鑑定を依頼する。え、半年前の自殺でしょ?
死体が残っているわけないじゃん!っていうかそれは警察の仕事でしょ?
ちなみに君塚監督は
「心情は天候で表現した」と言っていて、そりゃあもちろん
雪や雨がバンバン振る映画になっているわけですが、この鑑定の依頼シーンは何故か競技場で撮影。
CGの暴風吹き荒れる中(少林サッカー風)での依頼シーンになってました。もちろん依頼の
書類は全部風で吹っ飛びます。
東山紀之と室井滋とベッキーは、三輪兄の自殺現場と死体の写真を検証する。三輪兄は飛び降り自殺をしたのだが、死体は落下点から真下に落ちたわけではなくて、何メートルか離れて落ちていた。死体の右手も何となく延びていた。
自殺していたら三輪兄の幽霊は出ない、だがもし東山紀之の妻が
三輪兄を殺していたのなら三輪兄の幽霊が出てくる。東山紀之は三輪兄の部屋行くと・・・
三輪兄の幽霊がいた。だが東山紀之は幽霊が見えないと嘘吹き、
「やはり自殺だった」と鑑定をする。
夏祭りの最中に飛び降り事件が起きた。マンションで男と女がケンカをしていて、男がマンションから落ちて死んだ。状況から言って女が犯人に決まっているが、死体を鑑定した三人組は
幽霊が見えないので自殺と断定する。お前等本当に警察と監察医なのか?そして飛び降り事件の死体は三輪兄と同じく、落下地点から何メートルか離れて落ちていて、死体の右手は何となく延びていた。
東山紀之はこれが自殺ではなく他殺だと気づいていた。だがそれを言ったら同じ状況の三輪兄も他殺になり、自分の妻が殺人犯になってしまう。その時何故か東山紀之の妻の幽霊が出てきた。そして・・・
1:妻の幽霊。
2:東山紀之のアップ。
3:花火の打ち上げシーン。
の1から3の編集が何度も何度も繰り返される。これは東山紀之の心の葛藤を表しているらしいのだが、
心の葛藤のメタファーとして打ち上げ花火を選ぶセンスが理解できない。打ち上げ花火はどっちかというと感情の発露を示すメタファーでしょう。
結局決心した東山紀之はこー言う。
「死体が壁から離れて落ちているのは、女に押されたから。自殺だったら真っ直ぐ落ちる。腕が伸びているのは頭を守ろうとしたため。自殺だったら腕はそーいう形にならない。だからこれは他殺だ。」
腕が伸びる=他殺ってどーいうこと?それに女が何十キロもある男を何メートルも押し飛ばしたの?もしこのアホトリックが成立するならさ、
あの時窪塚洋介が死んでいたら、のんちゃんが殺人犯になっちゃうよ!
まるで納得いかないが、これで
東山紀之の妻は殺人犯になった。東山紀之の妻は被疑者死亡のまま書類送検される。
東山紀之は三輪ひとみと再会する。三輪ひとみは、浮気されても妻の責任を償おうとする東山紀之に驚く。そこで三輪ひとみは東山紀之の妻と会話した内容のレコーダーを東山紀之に残す。
レコーダーの中で妻は、東山紀之を裏切ったことを後悔し、霊が見える東山紀之の苦悩を理解をしていた。そのとき東山紀之の妻の
霊が肉体を持って蘇り復活。
東山紀之と妻は渚でデートをする。
ジ・エンド・・・[
エンディングで死人とデート]って
「恋人はスナイパー 劇場版」と同じですね。
ちょっとネタとしてバカにしてまった。でもこの映画はトンデモ映画ではあるけど、クソ映画の類ではない。上映中は途中退出の客が何人かいたが、僕は最後まで飽きずに観れた。統一された撮影のトーンや、演出の抑揚は観ていて気持ちがいい。主人公が霊を見ることができる能力を持ちながら「人の死はミステリアス」という結論に落ち着くのも良い。脚本も部分部分がとんでもないことになってるけど、他の君塚脚本と違って方向性は定まっている。「シックスセンス」と同じ事やっておきながらパクリ感が無いのも良い(「踊る大捜査線の時にこれをやってれば・・・)。哀川翔とベッキーのキャラが使いこなせていないのは残念。
他にウケたシーン:
○:気分転換にレストランに行った東山紀之と室井滋。でも
どこのレストランでも必ず死人がいるので、デートは取りやめ。
○:夏祭りで主人公を追いかけるカメラ。撮影が上手い映画なのに、夏祭りのシーンだけビックリする位撮影が下手になる。カメラが主人公を追いきれていない。