『人生の特等席』のラストシーンの補足説明 公立と私立

『人生の特等席』を観た。俳優引退宣言したクリント・イーストウッドがなぜか主演している作品で、彼の引退宣言は宮崎駿の引退宣言同様「死なない限り現役」だと思っておいたほうが良さそうだ。

人生の特等席

『人生の特等席』はガンコもの同士の父娘を描いた平凡極まりない良作だった。平凡極まりないかと思ったら、「父娘が仲悪くなった理由」が思わず声を漏らしそうになったほど特異な理由だった。

原題の『Trouble With the Curve(カーブ絡みの問題)』の通り「カーブ」がポイントになっていて野球のバッターがカーブに対応できるかというのがポイントになっている。年老いたクリント・イーストウッドが道路のカーブに対応できるかというのも。でも『人生の特等席』という邦題も映画のテーマに即していて上手いと思った。


以下はネタバレ


ラストシーン近くでクリント・イーストウッドと対立していた球団の幹部がクビになり、そのとき彼が「クビはやめてください!お願いします!子供を私立に入れたんです!」って嘆願するシーンがある。さすがに子供絡みとなると可哀相に感じるけど、でもここは映画の意味がわかる重要なシーンでもある。

アメリカでは私立と公立の差は日本以上に違う。極端なことを言うけど生徒の人種が違う。もちろん公立のほうが様々な人種がいて私立には白人が多い。そのため白人の家庭の親は一生懸命お金を稼いで子供を私立に入れようとする。

公立高校の実話を映画化した『フリーダム・ライターズ』が一番わかりやすい。もともとは名門校だったのが様々な人種を受け入れるようにしたところ(というか1992年まで通える高校が人種などで分けられていたのだ!)、黒人やメキシカンやカンボジア人の生徒(一部はギャングの手先)がやってきて校内は荒れ放題。そんな状況を受けて優秀な生徒たちの大半が逃げ出して転校してしまった。ヒロインが担当するクラスで白人の生徒は一人しかいない。でもヒロインは「様々な人種を受け入れるなんてアメリカの理念に即した高校です」と赴任を決意したというのが物語の出発点だ。ちなみに映画のオープニングはロサンジェルスの人種衝突暴動の実写映像だ。

フリーダム・ライターズ

フリーダム・ライターズの出発点。

ハワイを舞台にしたジョージ・クルーニーの『ファミリー・ツリー』では、ジョージ・クルーニーの長女は私立に通っているためにハワイの原住民系の住民と交流が無くなった。ハワイの原住民系の住民は公立に通っているのだ。そのことに対してジョージー・クルーニーが「ハワイ在住のアメリカ人としてそれは正しいのか?」と疑問を感じることがクライマックスの決断に繋がっていく。

またアメリカとイスラムの関係を描いた某映画ではクライマックスで主人公(アメリカ人)の子供が生まれる。そして主人公が「僕はこの子を公立に入れる!」と宣言するのがラストシーンだ。つまりアメリカとイスラムの断絶に直面したアメリカ人の主人公は、この問題を解決するためには多種多様な人種・宗教・思想を受け入れる人間を育てることだと訴える。そのために私立ではなくてあえて公立に入れると宣言するのが感動のラストシーンなわけ。(ネタバレしても構わない人向けに、その映画のタイトルはこれです

『人生の特等席』で球団幹部がスカウトする選手は白人の悪いイメージを集めたような男だ。で、トドメを刺すように彼の子供が私立に入っていることがわかる。それに対してクリント・イーストウッドはマイノリティの友人を持ち、彼がスカウトする選手もマイノリティのメキシカンだ。『人生の特等席』はアジア人にアメリカを託した『グラン・トリノ』と同じく、クリント・イーストウッドが次なるアメリカ人を発掘するという側面もある映画なのだ。実際に発掘するのはクリント・イーストウッドじゃなくて、彼の娘だというところがクリント・イーストウッドの引退寸前っぽさが出ているけど。

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