清純派歌手のお泊り愛発覚!ファン発狂!1949年のスキャンダル

恋愛禁止のアイドルのお泊り愛(セックスの回りくどい表現)が発覚するとアイドルのイメージが崩れてファンが発狂する。というのはよくある話。でもそれはアイドルブームに限った話ではなくて1950年の黒澤明監督作品『醜聞(スキャンダル)』でも同じ展開があったりするのだ。その展開を紹介します。

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醜聞1
映画の舞台は敗戦から4年後の1949年。三船敏郎演じる新進気鋭の画家は、バイクを飛ばして山の絵を描きに行く。田舎の百姓たちも集まってきたが、そこへバスを逃して困っていた美女もやってくる。ちなみにこの山はPC遠隔操作事件の舞台にもなった雲取山。
醜聞2

美女の正体は人気歌手の西條だった(演じるのは国際派スター:山口淑子)。画家も西条も一人旅でたまたま同じ旅館に泊まる予定だった。旅館では西条を追っかけてきたマスコミ(正確にはカストリ雑誌と呼ばれるスキャンダル雑誌の記者)がいた。マスコミは西条の写真を撮ろうとするが、西条は女中を通じて写真を断る。
醜聞3

西条は画家に旅館まで送ってもらった。そのお礼も兼ねて同じ部屋で少しだけ話をする二人。
醜聞4
画家は西条に観光案内をしようとベランダから指を差す。だがちょうどこの瞬間を旅館の外に張っていたマスコミに撮られてしまう。これは気の毒な事故、信じてあげようよ!あ、でも俺は「朝までプレステしてました(安倍なつみ)」「玄関で水を貰っただけです(高岡蒼佑)」とかまったく信じてないな。
醜聞5

醜聞6

スキャンダル雑誌の社長は部下に命令して写真を元にした恋愛記事をでっち上げる。この恋愛記事は社会騒動となる。記事を書いた部下本人はでっちあげの件を心配しているが、社長は「抗議が来たら謝罪広告を出せばいい」と言う。黒澤明がこの映画で描こうとしたテーマの一つはマスコミの横暴だ。
醜聞7

画家はスキャンダル雑誌の編集部を訪れ社長を思わず殴ってしまう。社会騒動はますます大きくなる。画家は暴力の悪さは認める一方で、マスコミの写真撮影を「辻斬り」とも表現する。
醜聞8

醜聞9

醜聞10

で、歌手がどうなったかと言うと………スキャンダル騒動のおかげでリサイタルのチケットがめっちゃ売れていた。その一方でファンから「淫奔、不道徳、下劣」と叩かれる。さすがに「中古女!」「握手会の金返せ!」ってのは無い。
醜聞11
画家もスキャンダル騒動のおかげで売れっ子になっていた。周囲は誰も怒っていないが、画家は激怒している。

ここまでの展開で最初の30分くらい。怒った画家は出版社を訴えようとして、志村喬演じる悪徳弁護士を雇う。この映画の実質的な主人公は途中から出てくるこの悪徳弁護士で、彼が取る行動が映画のテーマになってくる。アメリカの裁判映画みたいな展開になります。まあそれは観てのお楽しみにしてください。

現代だったらマスコミと芸能事務所は持ちつ持たれつの関係になっているので、こうはならないだろう。でもスキャンダルが宣伝になったりファンが発狂する状況は敗戦直後だろうが大震災直後だろうが同じ。1949年でも2013年でも変わっていない。たぶんこれからも変わらないのだろう。
スキャンダル雑誌の社長の持論「現代は活字が偶像だ。活字になったら真実なんだ」はネット上の情報をすぐ真実だと信じる風潮にも繋がると思う。

黒澤明の映画にしては脚本が弱く、傑作だらけの黒澤明の他の作品よりはやや見劣りする『醜聞』。でも今になって観直すと現代にも通じていて面白い。

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