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ミッドナイト・イーグル   ★

『ホワイトアウト』よりはマシだと思うしそんなに嫌いな映画じゃないが、今の日本映画のダメな部分がモロに出ている作品だ。ダメな部分ってのは「無理矢理な泣かせ」と「リアリティの無さ」と「演出がつまらない」という点。

まず「無理矢理な泣かせ」。掲示板に『ミッドナイト・イーグル』の海外の反応を書いてくれた人がいたけど、海外では『ミッドナイト・イーグル』のメロドラマ風味がバカにされていた。この映画のクライマックスは突然メロドラマに転調するのだ。具体的には銃撃戦の最中に大沢たかおの感傷的な台詞が延々と続く。どうしてそんなメロドラマになるのかというと観客を泣かせるためだ。今の日本映画って必ずこれをやらなきゃいけないのか?だから感傷的なイメージが元からある大沢たかおが重宝されるのか?

もう1つは「リアリティの無さ」で、とにかく嘘っぽい作りの映画だ。メインストーリー自体は結構面白いのに、細かいリアリティが無いのでメインストーリーまでもが嘘臭くなってくる。掲示板の指摘では「冬山のシーンの息が白くない」とあったが、本当にその通り。ステルス戦闘機が日本に墜落というノンフィクションをやるなら、周辺を相当なリアリティで固めなきゃいけないのにそれを怠っている。

そして何よりも「演出がつまらない」!一番顕著なのは銃撃戦で「右を向いて銃を撃っている人たち」⇒「左を向いて銃を撃っている人たち」という2つのカットの組み合わせで銃撃戦を表現している。鑑賞していて「どっちが敵だろう?」とすら思わない程酷い。
ビバーク中に突如銃で襲われるシーンには恐怖が一切無いし、死んだと思われていた敵が動き出すシーンも全く驚かない。アクション映画独特の機微が無いのでアクションが実にもっさーとしている

酷すぎて笑えたのはクライマックスの[自衛隊ヘリ部隊襲撃]シーンで

このままでは日本崩壊!

[吹雪の中ヘリ部隊登場!]助かった!しかし着陸ができない!
主人公たち「危ないから帰れ!」

だから帰る!

というオチは笑った。日本が滅ぶかどうかの状況で「帰れ!」はないだろう。僕なんかてっきり「そうか!ここは雪山だから、わざと墜落させて人員を投入する究極の戦法とかが存在するんだな!」と思って勝手に燃えていたのに!

この映画は面白いことをやらずに、わざわざつまらんことやっているのだ。 あと音楽までもが嘘っぽい、っていうかこの映画のBGMってジャンルを間違えてないか?

ところでこういう事書くと原作ファンに怒られそうだが、この映画って
メインストーリーの大沢たかおの物語、
のサブストーリーである竹内結子の物語、
さらにそのまたサブストーリーの朝鮮人工作員の物語のほうが遥かに面白くないか?

この朝鮮人工作員の物語は本当にカッコいいぞ。ちょっと僕が脚色して書くがこういう物語だ!(以下軽めのネタバレ)


男は北朝鮮から逃げて日本で暮らしていた。辛い生活だが愛する女も一緒にいてくれた。
その頃男の祖国はアメリカのステルス爆撃機に脅かされていた。レーダーにも映らない見えない爆撃機に領空を侵犯されているのだ。
男は祖国のために戦うことにした。朝鮮人工作員たちと手を組み在日米軍基地に潜入、ステルス爆撃機に爆弾を仕掛け墜落させることに成功した。工作員たちは日本警察と在日米軍に追われながらも逃亡に成功した。
しかし米軍はなんとステルス爆撃機に核爆弾を搭載していたのだ!そして工作員たちの最終目的は[日本国内での核爆弾の爆発]だった!
「そんなことはさせない!」男は仲間たちの暴走を止めようとする!
祖国の誇りを守るため、日本の平和を守るため、そして何より愛する女とお腹の子を守るため!自衛隊!警察!公安!在日米軍!北朝鮮工作員!全てを敵に回して男は戦いを挑む!


主人公は↑お前や!どう考えても主人公はコイツだろ!大沢たかおいらないじゃん!
映画本編だと男が残した[核爆弾のパスワード]のヒントを竹内結子が聞いて、そこから[核爆弾のパスワード]がわかるという展開である。この男の役目はそれだけ。男はこの壮大な物語を2分位で語って直後に死亡するのだ。死ぬなよ!何で2分なんだよ!こいつの物語に2時間使えよ!この男の物語を崔洋一監督、鄭義信脚本でやってくれたら面白いのが出来るって。その場合のラストシーンはこうだな。


男は核爆発を止めて日本の平和を守った。だがその代償にあまりにも多くの朝鮮人と日本人を殺してしまった。祖国にも住んでいる国にも背いてしまった。もうどの国にもいられない。男は女と共に船で韓国へ逃げることにした。女の故郷は韓国だった。
しかし釜山港に到着した時、銃声と共に女が撃たれて死ぬ。そして見渡す限りの韓国国防軍に取り囲まれた!韓国政府は厄介払いのため、女は殺し男を逮捕して日本政府に引き渡そうとしていたのだ!
最愛の人を失った男はたった一人で韓国国防軍に最後の戦いを挑む!「うぉおおおおお!」と絶叫しながら軍隊に突撃する男の表情がアップになって突然画面が止まり、完!そしてエンドクレジット!(背景は男の顔のまま)


アメリカでの『ミッドナイト・イーグル』は最終的に3つの映画館で3週間公開されて合計6328ドル(72万円)という悲惨な結果だった。最終順序は全米103位。
掲示板で教わったんだけど『ミッドナイト・イーグル』をアメリカで配給しているのは、GLBT専門(ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の映画会社らしい。
全米公開の目的は日本での宣伝用かと思ったら、アメリカのゲイたちに大沢たかおをアピールするためだったのか!(違います)

その映画会社の公式サイトにある大沢たかお達の写真が異常にデカイので、大画面でお楽しみください。 大沢たかお袴田吉彦竹内結子

2007-12-23

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