『紀元前1万年』を観てアメリカがゴメンナサイと謝っている人民革命映画だと思うような人間が、映画批評家を自称していることが恐ろしい。前田有一氏ってもしかしてローランド・エメリッヒがアメリカ人じゃないってことを知らないのか?超映画批評で『インデペンデンス・デイ』を人民革命ムービーと評しているのは笑ったけど。
『紀元前1万年』は確実に『アポカリプト』のフォロワーとして出てきた映画だ。ゴメンナサイとは関係無い。ただ『紀元前1万年』と『アポカリプト』には大きく違う点がある。まどぎわ通信さんの文章を借りれば
コーカソイドのヒーローがモンゴロイドやネグロイドなど全人類連合軍を率い,世界を滅ぼそうとする敵と戦う
ということだ。非白人を主人公にして[白人の侵略までを匂わせた]『アポカリプト』とはここが大きく違う。
『紀元前1万年』は白人酋長モノの要素を持っているとも言える。白人酋長モノという言葉は映画評論家の町山智浩氏がよく使う言葉で、白人が非白人部族のリーダーとなる映画だ。クライマックスで日本人たちが[トム・クルーズに土下座をする]『ラストサムライ』も白人酋長モノと言える。
『アラビアのロレンス』からの流れを受ける『紀元前1万年』も白人の主人公がいろんな民族を率いて敵と戦う。『紀元前1万年』のナレーションは『アラビアのロレンス』に出ているオマー・シャリフだ(『紀元前1万年』で人種のバランスを取るのは、映画に出るたんびに人種のバランスを取っているクリフ・カーティス)。
『紀元前1万年』をわかりやすく説明するために「白人酋長」という言葉を使ったが、『紀元前1万年』には「酋長」的な要素が弱いので、既存の白人酋長モノと同じくくりにすると少しズレてしまう。実際のところ『紀元前1万年』はアメリカ人にとってわかりやすい人間を主人公にした「ヒーローもの」だ。ローランド・エメリッヒ(愛称:エメ公)が今まで作ってきた映画とやってることは同じ。紀元前1万年を舞台にしてもアメリカはこういう映画を作ってしまうんだな。
僕はエメ公の特撮が大好きなので、この映画もそれだけを楽しむつもりだった。しかし『紀元前1万年』は珍作だらけのエメ公のフィルモグラフィーでもブッチギリの珍作だった。以下でストーリーをネタバレ込みで最後まで解説。
- 山奥に住むヤガル族。彼らはマンモスを狩って生活している。動物愛護団体に見せてやりたいですね。
- ヤガル族には婆や(巫女)がいた。その婆やが言うには青い衣………じゃなかった青い目を持つ子供が、ヤガル族を救うという伝説があるらしい。この婆やを見ていると「ラン、ランララ、ランランラン」が聞こえてくる。
- 青い目を持つ子供は成長して主人公デレーの妻となった。ちなみに主人公の名前のデレー(D'leh)を逆さに綴るとheld。「held」は「hero」を意味するドイツ語らしい。
- ある日騎馬に乗った一団がやってきて、ヤガル族の民を捕虜にしてしまう。主人公の妻もさらわれてしまう。
- たまたま助かったヤガル族の人間たちは、4人パーティーを組んで捕虜を解放する旅に出る。
- 4人パーティーの内容は
- 主人公デレー(死亡フラグ無し)
- 現ヤガル族リーダー(死亡フラグ有り)
- 主人公のライバルで妻を巡って争ったことがある男(死亡フラグ有り)
- ガキ(死亡フラグ無し)
だ。
- 騎馬団は捕虜を連れて、自分たちの国を目指していた。そして騎馬団の部隊長は主人公デレーの妻に惚れていた。部隊長は旅の最中に人妻を口説こうとして頑張る。
- 4人パーティーは密林で騎馬団に追いつく。密林では怪鳥が出てくるので面白い。
- 主人公は罠に引っ掛かっているサーベルタイガーを見つける。主人公は
「助けるから俺を食べようとしないでくれよ!」
と言いながらサーベルタイガーを助ける。主人公はサーベルタイガーとダチになる。ライオンとダチになるターザンと全く同じやん。
- 主人公と現ヤガル族のリーダーは、人がいない村を見つけたので勝手にメシを食う。隠れていた村人たちは当然怒り出す。ちなみに村人は全員黒人で、それもヤガル族に比べると土人チックに描かれる。ここらへんから映画は急激に白人酋長の要素が顔を出す。
- 主人公と現ヤガル族のリーダーは、黒人たちに取り囲まれる。しかし主人公のダチのサーベルタイガーが来てくれたので一気に解決。
- 黒人たちのリーダーはヤガル語というか英語が喋れた。どうやら昔に旅に出た主人公の父親に英語を教わったとのこと。
ヤガル族のガキの会話には文法があるのに、黒人のガキは単語しか喋らないというシーンもある。
- 黒人たちの間にはこんな伝説があった。
「牙と会話する人間が助けてくれる!」
ということでサーベルタイガーがダチの主人公は、いきなり黒人たちのリーダーとなった。ちなみに映画を観た人ならわかると思うが、通訳の黒人のほうがリーダーにふさわしいぞ。
- 次ぎ次ぎに黒人の部族が主人公の傘下に入る。黒人最強の戦士は主人公の傘下になることに疑問を思っていたが、主人公が
「俺ってベイビーフェイスなリーダーだぜ」
と面白くないジョークを言うとバカウケ。結局主人公の傘下になることに承諾。
- こうして各部族で統一軍が結成された。ここらへんは『インデペンデンス・デイ』と同じ。
- 統一軍は徒歩で神の民を追うが、騎馬団はすでに川までたどり着いていた。そして騎馬団は捕虜を連れて船で移動する。
- 船を持たない統一軍は
「追いつくのは無理だ!」
と諦める。
しかし主人公は
「じゃあ砂漠を突っ切ってショートカットしよう!」
というあまり感心できない策を提案。当然統一軍は砂漠をグルグル回る羽目になる。
- しかし星を目指して歩けば真っ直ぐ歩けることに主人公が気がついたので、何とか砂漠を抜ける。
- 砂漠を抜けた先には偉大なる大神(オールマイティー)が奴隷を使ってピラミッドを作っていた。エメリッヒ、お前『スターゲイト』で懲りてなかったのか…。
- 大神は星空を見て、死の予言について語った。”しるし”を持った者が現れると大神が死ぬらしいのだ!
- その”しるし”の形はとは………オリオン座と同じ形の傷だった!!!大神さま、あなたが見たのはたぶん死兆星です。死兆星は北斗七星の近くか。
- 主人公たちは
「そんな”しるし”なんか知らないよ!」
と絶望するが、現ヤガル族リーダーが主人公に
「予言なんて適当に解釈しろよ!」
とアドバイスして死んだ。ちなみにオリオン座と同じ形の傷は偶然にも主人公の妻が持っていたわけだが、本編には驚くほど関係なかった。
- というわけで主人公は予言のことを気にせずにピラミッドの支配者たちに戦いを挑むことにした。
主人公の仲間「敵は多いぞ!」
主人公「敵の奴隷が味方になれば違う!」
と超映画批評の前田有一氏がいかにも反応しそうな展開になる。あの人にとっては反乱⇒人民革命だから。『ロボッツ』の時も「人民革命で左翼だ」って批判していたしな。
- そのころ騎馬団の部隊長は、主人公の妻を口説くために監禁状態の主人公の妻を勝手に解放していた。そしてそれが理由で逮捕される。頑張れ部隊長!
- ピラミッドではマンモスがいっぱい強制労働させられていた。マンモス食って生きていたヤガル族の子供が
「マンモスかわいそう…」
とかほざく。げ、動物愛護団体への配慮があったよ。
- 主人公が立てた作戦はマンモスを怒らせて大暴走させるというものだった。この作戦を成功させるために主人公のライバルが犠牲になったが、主人公が気にしていないところが豪快だ。
- マンモス大暴走が成功し、奴隷たちの反乱も成功した。主人公たち反乱軍は巨大な一団となり、ピラミッドに突撃する!うぉおおおおおおおお!
- しかしピラミッドの前に人質として主人公の妻が出てきた。それを見た主人公は
「みんな止まれー!」
- こうして反乱は止まってしまった。
主人公と大神の停戦交渉となる。が、交渉の最中に主人公は
「あいつ神じゃねーし!」
と大神を殺害する。『300』の[成功バージョン]だね。
- 再び大混乱となるピラミッド前。そのとき、馬に乗って人質だった妻をかっさらったのは………部隊長だった!『卒業』みたいで泣けるぞ部隊長!
- しかし部隊長は逃げている最中に主人公の妻に刺されて落馬。ブチ切れた部隊長は主人公の妻を弓で射殺す。そして部隊長は主人公に殺される。
- 妻が死んでしまい呆然とする主人公。だが目の前にいたマンモスが言う。
「後ろ後ろ!」(言ってません)
- ナレーションが入る。
「青い目の女(主人公の妻)は死んだ。しかし………伝説が始まる!」。
- ナレーションの説明だけで妻復活!ハッピーエンド!何じゃこりゃ。
2008-05-13
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