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となりからみたトトロ   

外務省が在外日本人向けに出している注意事項にこんなの↓がある。

「父親と娘は一緒に風呂に入るな」

詳しくは「外務省 海外安全ホームページ」から引用した文章を読んでほしい(一部省略)。

世界には、いろいろな考え方や習慣があり、法律も異なっています。日本では問題にならないような習慣でも重大なトラブルに発展することもあるのです。次のケースは、私たち日本人にとっては、「えっ、どうして・・・」と思うことかもしれませんが、事実は小説より奇なりです。

『とある先進国に在住の邦人一家。現地校に通っている娘さんが、作文に「おとうさんとお風呂にはいるのが楽しみです。」と書いたところ、学校から警察に通報され、父親が性的虐待の疑いで逮捕されてしまった。』

『家族で撮った写真のフィルムを現像に出したところ、子供が入浴している写真があるということで、警察に通報され事情聴取を受けた。』

ヨーロッパやアメリカでは、風呂場はプライバシーが強く保たれるべき場所だと考えられており、たとえ親子であっても一緒に入浴することは非常識な行為で、特に父親と娘の場合は、性的虐待が強く疑われることになります。また、児童ポルノに関する規制・処罰が厳しく、入浴中の写真を撮る等子供をポルノの対象にしている可能性があると疑われれば、警察に通報されることもあります。

日本では何でもないと思われることでも、国によっては大きな騒ぎとなり、場合によっては処罰の対象となることもあるのです。

以上のように西洋人にとって他人と一緒に入浴することは親子であっても非常識な行為だ。特に父親と娘の場合は性的虐待が強く疑われる。ということは………あの日本人親子が西洋人にメッチャ疑われるということだ!

そう『となりのトトロ』!今回は『となりのトトロ』公開20周年を記念してというわけでもないが、西洋人から見た『となりのトトロ』について書こうと思う………もう20周年かよ!

うんで上記のシーンだが、これはかなりヤバい。少女の裸がハッキリと映っているので、西洋人から見たらとんでもないシーンである。そしてもう1つ、おとうさんが一緒に入っているというのが輪をかけてヤバい。日本人はそんなこと思わないだろうが西洋人には性的虐待が連想できてしまうのだ。


『となりのトトロ』は海外では傑作アニメの1つとして極めて高い評価を受けている。日本人はあまり意識しないだろうし宮崎駿本人も否定しているのだが、『となりのトトロ』には日本独特の神道が背景にあって、西洋人たちはその点でも『となりのトトロ』を高く評価している。サツキがお地蔵さんに手を合わせたり、神木にトトロの住み家があったりするのが、西洋人にとっては興味深い要素なのだ。

しかし『となりのトトロ』を高く評価する西洋人たちも入浴シーンには戸惑ってしまう。僕は『となりのトトロ』の公開時に海外の『となりのトトロ』の掲示板をチェックしていたが、入浴シーンのせいで掲示板が大荒れだった。いまだに半年に1回位の頻度で入浴シーンネタで荒れる。

荒れる理由にはいくつかある。ほとんど多くの西洋人が「あの入浴シーンは家族の交流を描いた名シーンだ。文句をつけるほうがおかしい!」と思ってくれる。だから文句をつける人たちに猛反撃するのだ。そして文句をつける側に人種差別者や排他的思想の持ち主が登場するので益々荒れる。


入浴シーンの擁護派は以下のような発言をする。

「入浴シーンに戸惑いました」という人は、これらの意見で多分納得していると思う。しかし掲示板というものはここから荒れてしまうものなのだ。入浴シーン否定派が「やっぱり日本人おかしいよ!」と非難すると、「何で外国の文化を理解しようとしないの?」という話になる。そうなると今度は人種差別的な意見が登場して、ひたすら日本の悪口が書かかれていく。食生活(クジラ・馬を食べるから嫌われている)や第二次世界大戦も問題になる。日本人だけではなくて中国人やネイティブ・アメリカンまで標的になったりする。キリスト教保守派っぽい人も登場すると益々ややこしくなる。

荒れる理由は他にもある。それは「児童ポルノ」や「日本製変態アニメ」の存在だ。日本のエロいアニメ文化や児童ポルノは海外で有名なので、その視点から入浴シーンを叩くパターンが多い。『となりのトトロ』の入浴シーンに対して 「やっぱHENTAIの国だな!」 「これは児童ポルノだろ!」 と言ってくる。これに対しては擁護派が 「入浴シーンには性的な意味が一切ない。児童ポルノを連想するお前らのほうがおかしい!」 「他のHENTAIアニメとジブリのアニメを一緒にするな!」 と反論してやはり論争となる。

そして最後にもう1つ西洋人たちが入浴シーンでどうしても戸惑ってしまう要素がある。西洋人たちが 「お風呂が閉鎖的なのは西洋的。他の文化圏ではそうとは限らない。」 ということを理解していても 「でもいくらなんでもこのカットはヤバいんじゃないの!?」 と思わざるを得ない超危険カットがあの入浴シーンに存在するのだ!それが以下のカットだ。

どこが危険かというと、おとうさんの股間を娘が隠しているところがヤバい。そうだよなぁ、洋ピンってモザイクを使わないで花瓶とかで性器を隠すんだよなぁ。ディズニーが出す映画で洋ピンと同じことやっちゃマズイ。


掲示板でよくあがるその他の論争についても取り上げる。

吹き替え
入浴シーンも大論争になるが、実は一番の論争になるのは吹替えについてだったりする。『となりのトトロ』は日本公開後にアメリカでFOX社のVHS版が販売された。その後ジブリ(正確には徳間書店)がディズニーと提携し、2004年にディズニーが『となりのトトロ』を公開した。ディズニー版ではサツキとメイの声優にダコタ・ファニングとエル・ファニングのファニング姉妹を起用した。FOX版とディズニー版の2種類の吹替えが存在するために、どちらの吹替えが良いのか意見が分かれるのだ。
サツキとメイは白人?

もう一つ論争を呼ぶのがサツキとメイのデザインだ。こんな質問が何度も出てくる。

  • 「何で日本に西洋人のサツキとメイがいるの?」
  • 「あの家族は人種がバラバラなんだよね?」
  • 「サツキとメイは養子だよね?」

西洋人の中には『となりのトトロ』を「西洋人のサツキとメイが昔の日本の町にやってきて、そこで日本の神様と出会う映画」だと思っている人もいる。なんでこんな誤解をしてしまうのかというと、サツキとメイの顔が東洋人の顔をしていないからだ。西洋人にとってマンガ的な東洋人とは切れ目の黒髪しか考えられない。そのために目が丸くて髪の毛が茶色のサツキとメイが日本人に見えないのだ。とくにメイの髪の毛の色は他の家族とだいぶ違う。だから「この娘は西洋人の養子なんだな」という風に解釈してしまう。宮崎ヒロインの髪の色はいつも明るい感じなんだけどな。

もちろん誤解してしまう人は少数派なので、掲示板のレスで他の人が誤解を説明する。誤解に対する説明にはすごく適切なのがあったりして面白い。
「日本のアニメキャラの髪の毛は着色がすげーんだよ。ピンクとか青とかあるもん。茶色くらいどうってことないよ。」


西洋人にとっては人間に人種や民族の違いがあるのが当たり前のことだ。映画やアニメにももちろんそれが反映される。年末から4部作として公開されるディズニーの大作アニメ『ティンカーベル』には、ティンカーベルの仲間たちがたくさん登場するんだけど、その中には黒人やアジア人がいたりする。(あ、「人」じゃないから黒妖精や亜妖精か)。 だからこそ人種や民族的特長が無い日本のアニメキャラは馴染みにくい。また宮崎アニメのキャラはヨーロッパが舞台だろうが日本が舞台だろうが全部同じ系統の顔をしている。海外では今敏のアニメが有名なので、日本人顔をきちんと描ける今敏と宮崎駿の比較論もよく出てくる。

アカンベー
西洋人が見てもよくわからないのが、舌を出すシーンである。『となりのトトロ』にはアカンベーが何度か出てくるのだが、これが何の意味かがよくわからないのだ。まあ日本人も「motherfucker(近親相姦野郎)」という言葉が何で最大級の侮辱なのかよくわからないよね。
サツだ!!
映画の導入部分の「サツキとメイがおまわりさんから隠れるシーンの意味がわからない。」という質問もたまに見かける。荷台に人を乗せていたら怒られるからなんだけどね。
おかあさんの病気は?
この質問も結構多い。宮崎駿の配慮で病名(結核)を特定させなかった。これが誤解を招いた。日本人から見れば病気療養のためだというのがわかるのだが、西洋人から見るとそれがわからない人がたまにいる。しかもエンド・クレジットに赤ちゃんが出てくるので、おかあさんが妊娠していたと思ってしまうのだ。
おとうさんの印象

サツキとメイのおとうさんについては2種類の印象がある。英語版ウィキペディアの『となりのトトロ』には「日本人の父親は平日に子供と会わない」「日本人の父親は家庭よりも仕事が大事」という解説があり、そんな日本人の父親像に合ってないサツキとメイのおとうさんに好印象を持っている。しかしその一方で西洋人たちには、おとうさんがわずか10歳のサツキに家族の朝ごはんや昼ごはんを用意させているのに違和感を感じている人もいる。日本人から見るとあのおとうさんは「凄く良い人」にしか見えないんだけどね。

でもこんな悪そうな表情もできる人なのよ。


もちろん僕たち日本人が外国映画を見てもよくわからない描写が非常に多い。アメリカ映画に出てくるキャラクターが移民なのかどうかは重要な要素だったりするのだが、多くの日本人がそこまで気にして映画を見ていない。
僕が映画を観るのが楽しくてしょうがない理由の一つに外国の文化に触れられるということがある。外国の人たちも『となりのトトロ』を観て、受け入れられるかどうかはともかくとして日本の文化に触れている。最近の「洋画離れ」のニュースを聞くと、世間ではそんな楽しみ方が減っているのかなとも思う。

2008-09-23

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