最近の駄作映画は観る前から駄作だとわかりきっている……どころか企画の段階から「それって駄作になるよね」とわかりきっているパターンが多い(例:2008年度 この映画はいったい誰が観に行くんだ!?大賞)。しかし『レイン・フォール 雨の牙』は、そんなに駄作だと思っていなかったので不意打ちを食らった気分だ。
映画の内容を一言で表現すると「東京でジェイソン・ボーン・シリーズをやりたかった」に尽きる。『レイン・フォール 雨の牙』のヘタクソな画面構成と編集を観れば、『ボーン・アルティメイタム』などが技術的に非常に優れた映画だということがよくわかる。
ちなみに『レイン・フォール 雨の牙』はソニー資本の日本映画だが、監督のマックス・マニックスと原作のバリー・アイスラーは日本在住暦の長い外国人だ。
以下は同じ『レイン・フォール 雨の牙』被害者のacidtankさんと居酒屋で飲んで、『レイン・フォール 雨の牙』の悪口を言いまくった時の会話を元に作っております。
- 椎名桔平が演じるのは暗殺者ジョン・レイン(以下:キッペー)。キッペーは父親が日本人の日系アメリカ人だ。キッペーはアメリカ軍の秘密工作員だったが、その後フリーランスの暗殺者となった。劇中「殺し屋としての経歴書」というのが出てくるんだけど、それがなんとコンビニとかで売っている履歴書!普通に職歴欄とかが埋まっていて笑える。しかも履歴書の特技欄には「英語が堪能」としか書いてないの。アメリカ人なんだから当たり前だろ!英語が喋れないアメリカ人が増えているからわざわざ明記しているのか?殺し屋の特技が「英語が堪能」というのがスゴイ。
- ちなみにこの映画では、東京は監視カメラだらけでその映像はCIAが監視できるというトンデモ設定になっている。CIAのアジア支局長を演じるのはゲイリー・オールドマン(以下:ゲリマン)。
- CIAは国土交通省の官僚を狙っていた。この官僚(ペースメーカー利用者)はメモリースティック(ソニーの映画なので商品名を使っている)を持っていて、そのメモリースティックには日本を支配することができる恐るべき秘密が隠されているらしい。
- そしてキッペーも同じくメモリースティックを狙っていた。キッペーは官僚を狙って満員の地下鉄に乗る。暗殺者キッペーが使うのは銃やナイフではない、常に自然死に見せかける。今回は満員電車の中でケータイ電話を操作して、ペースメーカーを使っている官僚を殺した(まあ改造ケータイらしい)。
- キッペーは官僚を介抱するフリをしてメモリースティックを探すが、官僚はメモリースティックを持っていなかった。代わりにリンゴを持っていた(←重要な伏線)。
- CIAは地下鉄の中も映像で監視していた。ゲリマンは映像の中でキッペーを見つけると「よし撃て!」とムチャな指示をする。ここは日本だぞ。もちろん部下は従わない。キッペーはその場から逃走する。
- キッペーは消えたメモリースティックを入手するために官僚の娘に会いに行く。しかし娘は何者かに射殺される。
- キッペーは官僚のもう一人の娘に会いに行く。娘を演じるのは長谷川京子(以下:ハセキョー)。ハセキョーはピアニストなので、キッペーは記者のフリをしてハセキョーに接触しようとする。
- ここでのキッペーとハセキョーの笑えるやり取りとその後の展開は、柳下さんの映画評論家緊張日記: レインフォール/雨の牙 (2009)を参照してください。
- こうしてキッペーとハセキョーはCIAに狙われることになった。キッペーはハセキョーを交番に連れて行くが、ハセキョーは何故かキッペーに着いて行く。お前は父親と妹を殺されたんだから警察行けよ!
- キッペーは東京の路上でハセキョーに「危険を察知する方法」を教える。キッペーが「道路で工具を持っている男が襲ってくるかもしれないんだぞ!」と言うと、画面には道路で工具を持った作業員のお兄さんたちが写る。すごい演出だ。
- 前述したとおり、「東京は監視カメラだらけでその映像はCIAが監視できる」という設定だ。だからキッペーが考えたCIAを欺く作戦とは……とにかく東京中を移動して監視カメラに写りまくる!そうすればCIAは混乱するだろう!このバカバカしい作戦は実施されて、映画の展開は
- キッペーとハセキョーが移動する
- CIAはキッペーとハセキョーの映像を発見する
- ゲリマンがパニックとヒステリーを起こす
の延々ループとなり、かなりウザい。
- CIAはラブホテルなどでキッペーとハセキョーを探すが、「実はアパートに潜伏する」というどうでもいいオチがつく。
- 観客がキッペーとハセキョーが何やっているのかよくわからなくなって来た頃に、話の展開が動き出す。
あの官僚は記者にメモリースティックを渡そうとしていて、そこをキッペーに殺されたのだ。キッペーは受け渡し相手だった記者に接触する。そして記者から告げられた「日本を支配することができる恐るべき秘密」とは……
「日本は公共事業が多い。何故なら公共事業で官僚たちがお金儲けしているから。」
柳下さんところにも書いてあったが、それって日本の秘密じゃなくて日本国民全員が知っている事実だよ!!
- キッペーとハセキョーは飛行機のチケットを買って逃亡しようとする。観客には「実はキッペーとハセキョーは飛行機の中にいない」というオチがわかりきっている。CIAは飛行機の中を検閲するがキッペーとハセキョーはいない。っていうかCIAがそんなマネできるわけないだろ。
- とにかくキッペーはメモリースティックを手に入れる必要がある。キッペーはサイコメトラーみたいな技を使って、殺す前の官僚の行動を思い出す。地下鉄で殺した官僚はリンゴを持っていた。そこでキッペーは官僚がリンゴを買った八百屋さんに行く。そしてリンゴコーナーをよく調べるとメモリースティックが隠されていた。
- こうしてメモリースティックを手に入れたキッペーはゲリマンに会うためにCIAアジア支局に潜入する。しかし潜入シーンは全部省略。
- ついに対峙するキッペーとゲリマン。ゲリマンがわざわざ全てを説明してくれる。今回の騒動全てがゲリマンの陰謀だったのだ。キッペーはゲリマンにメモリースティックを渡して引き上げる。
- キッペーはヤクザを使ってゲリマンを殺させようとする。どうやって殺させようとするかというと……ゲリマンの居場所を書いたFAXをヤクザに送る。カタカタカタカタチーーーーー、次のシーンではゲリマンはもう死体。CIAよりもヤクザのほうが強い!劇中最大の爆笑シーン。
- こうして全てが解決………キッペーがハセキョーの父親を殺したという大問題点が解決していないが、そこらへんはまあうやむやになる。
ここからがエピローグなんだが、『ゆれる』の変形パターンの珍シーンだ。
- ハセキョーはニューヨークでライブをやっていた。キッペーはハセキョーの楽屋にメモを残す。そのメモを見つけたハセキョーが路地に飛び出すと、バス停にキッペーがいる。いつの間にかキッペーのことが好きになっていたハセキョーは喜ぶが、そこにバスが到着。ハセキョーは悲しそうな顔になる。
突然ですがここで問題です。この次のシーンはA,Bのどちらでしょうか?
- A:バスが出発するとそこにキッペーはいない。
- B:バスが出発するとそこにキッペーはいる。
- 正解はB。バスに乗らなかったキッペーを見て喜ぶハセキョー。見つめ合うキッペーとハセキョー。突然徒歩で帰りだすキッペー。やっぱり悲しそうなハセキョー。じゃあキッペーは何でバス停にいたんだよ!
- ラストカットは「キッペーが元気で殺し屋やってますよ」という意味合いだ。画面的には、キッペーが敵の白人たちに囲まれながらニヤッと笑っている。
2009-05-17
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