映画をたくさん観ている人なら 「映画の観賞中に真犯人がわかった」という経験は何度かあると思う。たいていは「動機もトリックもわからないけど、アイツが一番怪しくないから逆にアイツが怪しい」というような思考から犯人を導く。数年前に公開された某映画では「この映画の真犯人は絶対にわからない!」と宣伝した。おかげで「じゃあ真犯人は主人公だろ!」と宣伝だけで犯人がわかった人が多かったそうだ。
だからトリックモノの映画の脚本は、深読みする観客を引っかけようとする。深読みを逆手に取ったレニー・ハーリン監督の『マインドハンター』という映画があった。評判悪い映画なので逆手に取られてたのは僕だけかもしれんが、ネタバレにならない程度に解説する。
『マインドハンター』は孤島での連続殺人事件を描いた映画だ。映画ファンは連続殺人事件モノの真犯人はたいてい白人であるということを知っている。そして『マインドハンター』では一人だけ黒人(LL・クール・J)が出てくる。だから僕は「LL・クール・Jは犯人じゃない」と思った。しかし劇中でLL・クール・Jが必死に他人を助けようとするシーンがあるので、逆に「怪しくないからLL・クール・Jが怪しい!」と思ってしまうのだ。相反するトリックのパターンをぶつけることで、観客をミスリードさせてくる面白い脚本だと思った。
ちなみに非白人のマイノリティが真犯人だというパターンはもう珍しくない。禁じ手のように思われる「実は子供が殺人者だった」というハリウッド映画もわずかながら存在する。残されたトリックは「観客が真犯人だった」くらいか。そういえば以前『ホット・ファズ』のトークショーで映画監督の中野貴雄さんが
「コイツ↓が真犯人の映画を作れないかな?」
と言っていた。
もしもこのトリックが実現できれば映画が始まる前から伏線が貼られているわけだ。(参考:王子様に乗った白馬:太陽とムスコビーン)
「怪しくない人が真犯人」は映画に限らず全てのミステリーの共通パターンだ。しかし映画独特のパターンで、脚本と編集のタイミングで真犯人がわかるパターンがある。こんな感じだ。
サスペンスが高まるシーンが続いた後に、ホッと一息つくシーンに場面転換する。この時に画面に映っている人が真犯人。
僕は今までこんな↑パターンの映画を何度か観てきた。
蛇足だけど、映画じゃなくて火曜サスペンス劇場なら、俳優のキャスティングだけで真犯人がわかるというのが有名なネタだ。
僕は映画のトリックを読むことに映画鑑賞の楽しさを感じているが、本当に映画のトリックが読めてしまう人は何も考えないようにして鑑賞している場合もある。わざと引っかかったほうが楽しいのだ。だから「この映画、犯人の正体わかった!」なんて自慢していると、逆にバカにされることもあるので注意。
とはいってもトリックが稚拙すぎてバレバレの映画もたくさん存在する。犯人キャラが初登場した瞬間にそいつが犯人だとわかるトム・ベレンッジャーの『シェイド』という映画がある。ネタバレになるが今回のオマケとして『シェイド』のトリックを解説する。
『シェイド』で起きる事件は、森の中で男の死体が発見されて不倫相手の女が失踪するというものだ。そして女の亡霊が「私を探して」と主人公に訴える。男女を殺した犯人は不倫の関係者なのか?と疑わせるが、真相は映画が始まって30分くらいの時点でバレてしまう。主人公が森の管理人のところへ聞き込みに行くと、森の管理人がスコップを持っているのだ。犯人はお前だ。スコップを持っているだけでスコップを使うシーンが無いんだから、犯人はお前しかいない。どうせお前が男と女を殺して女を森の中に埋めたから、女が亡霊になったんだろ!案の定クライマックスでは主人公が
「そういえばアイツはスコップ持ってた!」
ということを思い出して真犯人がわかるのであった。ちなみに森の管理人と殺された男が実は悪党同士で、動機はその仲間割れ。
2009-05-20