予告編を一度も観たことが無いし、宣伝も観たことが無いし、話題になった様子も無いし、海外で高い評価を受けているわけでも無い、3年前のスペイン映画『マカロニ・ウェスタン 800発の銃弾』。m@stervisionさんが5つ星つけているのと、ジョン・レスリーさんに薦められたという理由だけで観に行きました。
僕にとって西部劇は結構疎いジャンルで、マカロニ・ウェスタン(イタリア製西部劇)となるとさらに疎い。そんな僕でも楽しめる映画でした。この感動はギャラクエ以来です。
タイトルやこんな感じ↑の公式サイトのTOPからは想像しにくいでしょうが、実はコメディタッチの作品で、しかもケータイやクレジットカードがキーワードになっている現代劇です。
スペインにある廃れた西部劇の撮影所:マカロニ・ウェスタン村。そこでは西部劇のスタントマン達がウェスタンショーを行っていた(ただしスタントマンの数より観客の数のほうが少ない)。ほぼニート状態の彼らの元へ、スタントマンのリーダーであるおじいちゃんの孫のカルロス少年がやってきた。おじいちゃんの息子でカルロスの父親にあたる人もスタントマンだったけど、映画撮影中の事故で亡くなっていたのだ。最初はカルロスが疎ましかったおじいちゃんも、そのうちカルロスと気が合うようになる。
という題名からは想像もつかない至ってマトモなストーリー。脚本をちょっと直せばディズニーの親子映画にも流用できそうな内容です。
この映画は現代劇のはずなのに演出が西部劇風になっていて面白い。空砲を打ち鳴らし、大酒を喰らい、街を馬で闊歩するスタントマン達がまるで本物の西部劇のアウトロー達に見える。
映画は後半になると大きな変化きます。
[カルロスの母親(実業家)がマカロニ・ウェスタン村からカルロスを連れ出してしまう(注:おじいちゃんは性格も素行も最悪なので母親としては当然の行為)。悲しみに浸るおじいちゃんとカルロス。だがそこへカルロスの母親が進めていたスペイン・テーマパーク計画が頓挫してしまう。そのとき母親の目に写ったのはマカロニ・ウェスタン村…。
こうしてマカロニ・ウェスタン村周辺は巨大テーマパークになって、スタントマン達もそこで大勢の観客の前でショーをやって拍手をもらい、おじいちゃんは反省してカルロスと一緒に幸せに暮らす事になりました!]という展開にはなりません。映画秘宝でも指摘されていたけど、既存のハリウッド映画のような展開にはならないんです。映画は意外なクライマックスを迎える事になり、ここで”800発の銃弾”(原題)の意味が判明して、さらに面白くなる。
どうしてスタントマン達はテーマパーク化を否定して”800発の銃弾”を行動として選ぶのか?映画秘宝だと「彼らはタイムカードを押してまでスタントをしたくない(テーマパークできちんとした労働をしたくない)」と面白い指摘をしてました。でも僕はそれよりも、彼らがスタントマンというニセモノの存在から脱却して、本物の西部劇のアウトローへの道を選んだからだと思う。彼らはバカなので後先考えていないけど、もらったお金の事よりもアウトローとしての生き様を選んだ。
[「オレはクリント・イーストウッドの友達なんだ!」と合成写真を誇らしげに語っていたおじいちゃん。「オレは『パットン戦車団』に出てたんだ!」と確認しようがない事を語っていたおじいちゃん。「息子が死んだのはオレのせいじゃない!」と自分の責任(実は過失致死だった)を認めないおじいちゃん。嘘にまみれた人生を送ってきたおじいちゃんは遂に最愛の孫にも愛想をつかされる。そこでおじいちゃんは最後の武器であるクリント・イーストウッドの40年前の電話番号を取り出す。スペイン訛りの下手糞な英語で必死に電話をかけるが…。結局全てを失ったおじいちゃんに残されたのは、マカロニ・ウェスタン村で、つまり西部劇の世界で死ぬ事だった。おじいちゃんは敵となった親友に会い(自殺のための)決闘を挑む。]
現代劇なのにまさか西部劇お約束の1対1の決闘まで再現するとは思わなかった。なんて素晴らしい映画だろう。だけどその後にもっともっと素晴らしいシーンが………映画って夢を叶えるものなんだな。
2005/11/14|▼この記事の直リンク先