僕のちょっとした主義で「金を払った映画はどんなにバカにしてもいい」というのがある。まあ当たり前のことだ。だからどんなクソ映画でもサーチ&デストロイしているわけだけど、それなら散々バカにした『未来予想図』も観なくてはならない。
というわけで行って来たよ『未来予想図~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~ 』!まあ金払って上映中寝てりゃいいんだしさ。
観る直前には職場の人と
僕「今日は眠いんで『未来予想図』行ってきます!寝る気マンマンです!」
職場の人「寝たら勿体ないですよ」
僕「起きてるほうが勿体ないっつーの!」
という会話をしていたほどだったが………、観ていてパニックになるほどのとんでもないケッサク映画だった!眠るなんてとんでもない!5つ星じゃなくて4つ星にしたのは『パンズ・ラビリンス』より高い評価をつけるわけにはいかないからであって、本来なら5つ星クラスの超ド級映画!
何が凄いって映画の製作に完全に失敗しているのが凄い。『未来予想図』は「わざとやっているのか?」と思いたくなるほど映画的要素を排除している。ポップセンスも皆無だし、セックスアピールも一切無い。恋愛映画に必須の「気持ち」すら存在していない。鑑賞中「もしかして今映画観ているんじゃなくて、誰かの妄想を見せられているんじゃないのか?」と考える程、違和感だらけのラブストーリー!この違和感が面白い!『未来予想図』はドリカム・マトリックスなのだ!どこぞのオッサンのドリカム的妄想世界を2時間たっぷり楽しめる作品なのだ。(ドリカム・マトリックスって書くと戦犯がドリカムっぽいけど、戦犯はプロデューサーのオッサンと脚本家)
まず全員演技が下手なんだが(松坂慶子まで下手なのはショック)、演技しているだけまだマシ。主人公がかなりキツい!例えば主人公が疎まれるシーンでは、彼が演技で疎まれているのか地で疎まれているのか区別がつかないほどの大根演技。さらに主人公の目線の位置がちょっとおかしいシーンもある。オーディションで選んだっていうけど、カメラテストやったのか?書類選考(それもダーツ投げ)で決めたんじゃないの?
それと撮影がすげえ下手なので、鑑賞していてちょっと目が辛い。
これより内容解説(いきなりネタバレ)。
『未来予想図』のラストシーンは映画が始まった瞬間にわかってしまう。映画のオープニングが友達の結婚式なんだけど、この編集の仕方だとラストシーンが主人公たちの結婚式であることはバレバレ。それ以前に”打ちあがる花火の中、主人公がスペインからヒロインに会いにやってくる”というクライマックスが予告編からバレバレ。さすが『未来予想図』!タイトル通りに最初っから最後までが予想できる!
まあ映画が始まると大学生の主人公とヒロインが出会うわけである。で、主人公が「星空を見に行こう」とヒロインを誘うと、二人は長時間かけて星空を見るためにバイク旅行に行く。女が知らない男に誘われていきなりそんな旅行に行くか?マトモな脚本だったら、女が「どこか旅したい」と考えている心理描写を入れるはず(例:荒井晴彦)。だが『未来予想図』にそんな気配りは存在しない。
ここでドリカムの歌が流れてきて、プロモ映像風に二人のデート風景が延々と映し出される。そしてヘルメットを5回ぶつけるので二人は愛し合っているのである。←今これを読んだ人は意味わからないと思うが、ヘルメットを5回ぶつければ愛し合っているのである!キスやハグ程度の描写すら一切無しで、ヘルメットを5回ぶつければ愛し合っていることを表現できると思っている製作者達が凄いが、これがドリカム・マトリックス!「ヘルメットを5回ぶつければ愛してるのサイン」だとドリカムがそう歌っているので、この展開は仕方ないのだ。
で、二人は卒業旅行でスペインのサグラダ・ファミリアに行く(桜田家の教会:現代の阿房宮みたいなもん)。このスペインロケは実に意味の無いカットを組み合わせており、「今のカットはどういう意味なんだよ!」と考えると答えが無くなる。デヴィッド・リンチの映画を観ているようだ。
うんでまあ卒業した主人公は就職して下っ端として仕事するのだが、ここでの生活描写が凄い。まず主人公が品川ナンバーの車を持っている。品川に住んでいて都内車通勤ってどういう下っ端だよ!山手線使えよ!ローンと駐車場と家賃で給料無くなるぞ!
しかしこれもドリカムマトリックスなのだ。「ブレーキランプ5回で愛してるのサイン」だとドリカムがそう歌っているのでしょうがないのだ。主人公にマイカーが無いと「ブレーキランプ5回」が再現できないのでお話にならんのだ!奴らはドリカムマトリックスのためなら何でもやる!もしドリカムが「あなたが裸になってアスファルトでヘッドスライディングかましたら愛してるのサイン」と歌っていたら、奴らは絶対やる!
そして社会人生活3年目にして主人公がいきなり120万円の婚約指輪を購入する(相談無し)!こんなの絶対にありえん、結婚資金が無くなるはず。っていうかここまで計画性が無い男と結婚したい女なんていないだろ。
主人公はヒロインと別れたくないので、夢だったはずのガウディ関係の仕事を諦める。ヒロインは主人公の夢を続けさせるために、ムチャクチャな理由をこじつけて強制的に主人公を振る。このシーンはあまりにもわかりやすいので爆笑!さらにフラれた時の主人公の表情が最高!絶望も悲しみも一切感じられず虚無感のみ!
(予告編でもこのシーン有り。っていうかコレ↓。コレが愛した女に突然フラれる衝撃シーンでの主人公の演技。)
ところでムチャクチャな理由とは、「実入りが少ないから」だった。主人公は散財しているんだから確かに理由になると思う。
主人公は一人でスペインに行き、ヒロインはケータイ番号を変えて主人公と縁を切った。でもヒロインは心の底では主人公のことを想ってる。
ヒロインは編集者になるために東京でとらばーゆを読む毎日。これ以降映画から主人公が消え、ヒロインの日々の就職活動や仕事がずっと描かれる。長いので観るときは耐え忍ぶように!ここでポップセンスを出せずにドリカム・マトリックスのまま日常描写をするのが『未来予想図』の欠点である。いや、それが面白いんだが。
ヒロインは主人公のダチと偶然出会う。そして主人公をフッたことをダチになじられる。何気ないシーンだが、後で致命的なストーリーのミスを生むことになる。
ところでこの映画は劇中10年の月日が流れているわけだが、時の移ろいを全く感じない。90年代のアイコンなんて登場しないし、俳優の加齢も全く表現していない。
恋が叶う花火を作る花火師が登場する。凄い花火師だな。どうして恋が叶うのかというと、花火大会に行って成立したカップルがブログ上にその事を書いたら、「恋が叶う花火」という噂が広がったからだ。何万人もいる花火大会で成立するカップルなんてそりゃ普通いるだろ![僕だって横浜の花火大会で成立したことが過去にあったわい]。
ヒロインは恋が叶う花火師にインタビューするために、花火師をつけまわすようになる。何故つけまわすのかというと花火師がインタビューに応じないからだ。この時のヒロインの神出鬼没っぷりが凄い!何せ花火工場内部に突然現れて「何でこんなところにいるんですか!?」と花火師に逆ギレ説教かます!
花火師がインタビューを必ず断るのは何か秘密があるらしい。その秘密とは………最近奥さんと仲が悪い!だからなんだっつんだ!!
花火師は花火を作るのにハマってしまい、小学生の子供をおざなりにしていた。これが奥さんと不仲になっている最大の原因だった。奥さんが怒っている理由は、最近花火師の周辺にヒロインが出没しているからじゃないの?
ヒロインは「花火師さん、それじゃあいけないわ」ということで、子供の親子運動会に花火師と一緒に行く。自分の夫が若い女と一緒に子供の運動会に来るわけなので奥さん当然怒る。この時の奥さん役の西田尚美の殺気に満ちた眼光も爆笑ポイント。
こうして子供に構ってあげないという夫婦間の地雷を除去したヒロインは、代わりに浮気問題という夫婦間の核弾頭を配置する。
夫婦間の溝はさておき、花火師は親身になってくれたヒロインのインタビューを受けることにした。こうしてヒロインの編集者としての仕事は成功した。夫婦間の亀裂は深まったがヒロインにとってはオッパッピ。
ところで松坂慶子の難病物語について書くのを忘れていたんだが、そんなの関係ないよね?省略。
花火師のインタビューを終えたヒロインは、想う人への気持ちが再び強まって来たのでスペインに行く。スペイン観光していたら偶然主人公を見つける!主人公はヒロインに気がつかなかったが、子供と奥さんを連れていた。その子供と奥さんは主人公の上司の奥さんと子供なわけだが、ヒロインはショックを受ける。そして次のカットでいきなりヒロインは東京にいる!と思ったらそこは福岡だった!何なんだよこのカットの繋ぎ方は?編集下手過ぎ。
スペインにいる主人公は「もしかしたらヒロインがスペインに来ていたのでは?」と思い、東京にいるダチに電話をかける。そこで衝撃的な事実が判明する!ダチはヒロインに「主人公は結婚した」と嘘をついていたのだ!ええ?それってずっと前にヒロインとダチが偶然出会った時のこと?(主人公もダチもヒロインの電話番号知らない)。じゃあヒロインは何でスペインに行ったの?ダチはどうしてそんな嘘をつく必要があるの?そして脚本的にも何でこのタイミングで嘘が判明するの?っていうか今までの展開は全部「恋人に別の人と結婚された女の物語」だったのか。
ヒロインが書いた花火師の記事はネットにも掲載された。ネットやっててそれを見つけた主人公は日本へ帰ることにした。何で帰るの?
ヒロインが書いた花火師についての記事は素晴らしいものだった。あまりにも素晴らしすぎたのでヒロインは花火師の奥さんと和解できた。だから何で和解できるの?
映画のクライマックスの舞台は横浜の花火大会だった(げ、僕もドリカム・マトリックスの住人だった)。ヒロインは花火師の花火を観るためにベイクォーターに行った。帰国した主人公もその事を知ってベイクォーターへ向かう。そして主人公とヒロインは花火大会の中で再会し、二人は抱き合う。
「THE END」
ええええええええええええええええええええ!?突然これで終わり?主人公が結婚しているという誤解を解かないまま?それ以前に二人の気持ちはどうなっているの?住む場所が地球規模で違うのにこの後どうするの?この終わり方はここ数年観てきた映画の中でも最大級の脚本ミスだ。
しかーーーし!これが最高なのだ!物語的には到底納得いかないが、納得行く行かないの問題ではない。画面上ではドリカム・マトリックスが全開しているのだ!クライマックスをもっと詳しく解説しよう、主人公が帰国するシーンから再び解説。
僕は映画館の中で抱腹絶倒しながら拍手喝采していた。時空を超越してまで映画のテーマを全て一つの画面に無理矢理押し込んだラストカット!ここまでやり過ぎるとカッケーよ。これは間違いなくケッサクだ!
2007-10-18