僕は中学・高校とハンドボールをやっていた。マニアックなスポーツの代名詞だった。ハンドボールは超メジャースポーツのバスケとサッカーを融合させたようなスポーツなので、バスケかサッカーをやれば(見れば)それで済む話のスポーツだった。「街中で出来るから」という理由でバスケから3on3が、サッカーからフットサルが発生して大ブームになったが、最初からコートが小さいハンドボールが何故流行しない!
日本の社会人ハンドボールとかはかなり頑張っているのにそれでも地味だった。おそらく日本中の高校生ハンドボーラーが友人に
「ねえ、ハンドボールのコートでフットサルやっていい?」
と屈辱的なことを言われながらも、思わず仲良く一緒にフットサルをやってしまっていると思われる。ハンドボールはかなり優れているスポーツだと思うのだが…。
しかしあんな事でハンドボールが有名になるとは思わなかった。あんな事とは東国原知事のハンドボールで総体出場の事ではない。北京五輪の予選やり直しである。
突然ハンドボールが話題の的となったので、ハンドボールをどうやって面白がればいいのかわからない人が多いと思う。というわけで今回はハンドボールの解説をする。ハンドボールやっている人は「それちょっと違うだろ!ちゃんと正確に説明しろよ」と言いたいだろうが、今回は面白わかりやすく解説したい。っていうかウチはいつもそうやっているサイトだ。
ハンドボールとは………Wikipediaのハンドボールの項目には「走・跳・投という運動における基本3要素をすべて求められる」と素晴らしいことが書いてあるが、単に手でやるサッカーのことだ。バスケと同じでキーパー以外は全員オフェンス、全員ディフェンダーとなる。
ハンドボール観戦で一番の見所はもちろん連発されるシュートだ。一旦シュート体制に入るとシューターVSキーパーの一騎打ちみたいな状態になる。シューターはあの手この手でキーパーの裏を書こうとする。右に打ち込もうとして左、上に打つと見せかけ下に打つは当たり前。優れたシューターなら空中で2重3重にもフェイントをかける。フェイント一切無しでキーパーが反応する間を与えずいきなりシュートを打つ場合もある。キーパーは高速で反応したり、相手のフェイントを読み切ったりしてシュートを止めようとする。
オフェンスは簡単にシュート体制に入ることはできない。6人のディフェンダーが邪魔をするからだ。ハンドボールのコートにはゴールから6メートルの部分にラインがあり、中に入れるのはキーパーのみだ。だからディフェンスはその6メートルラインに沿って防御する。ただし6メートルラインは地面の話、空中には入れる。だからシューターたちは少しでもゴール近くに飛び込もうとする。どんなに優秀なキーパーでも2,3メートル先から放たれるシュートを止めるには勘に頼らざるを得ない。対してディフェンダーたちはゴールから6~9メートルの距離に壁を作って飛び込みを防ぐ(9メートルのところには目安となる点線がある)。
ハンドボールはバスケやサッカーと違い、体の接触がある程度許されているため、この壁の攻防は激しいものとなる。6人のオフェンスはまずこの壁を崩してシューターに壁を突破させる。壁を突破せずに壁の上から無理矢理ロングシュートを打つのもいい。だが壁があるとシュートコースが限定されるのでキーパーもシュートを止めやすい。やはり壁を突破するのが基本だ。
基本的にはオフェンスが右側を攻めると壁も右側に寄り、左側を攻めると壁も左に寄る。だからオフェンスは突如逆をつけばいい。もちろんディフェンスもそんなことは分かっているので、すぐに新しい壁を作る。壁を突破するためには波状に攻撃をかけたり、パスで混乱させたり、フェイントで壁を崩したり様々な戦法が取られる。壁の中にオフェンスを一人だけあらかじめ配置して、壁を崩すのは一般的な戦法だ。ここらへんの攻防はルールこそ違うがサッカーやバスケも同じ。この壁の攻防が第二の見所だ。
80年代後半のハンドボール界では、ハンドボールの絶対的なルールである6メートルルールの盲点を突いた恐るべき戦法が生まれた。この戦法の歴史を解説する。
先ほども書いたが、ゴールから6メートル内は聖域であり入れるのはキーパーのみだ。だが空中ならその聖域を侵すことができる。そして人間の走り幅跳びの世界記録は8メートル95センチだ。優れたアスリートなら跳躍で6メートルを超えることは容易な話。
ケニア出身の伝説的ハンドボーラー:ダダジラース・ヒッポリト選手は8メートル50オーバーの跳躍が可能だった。彼はケニア代表の陸上選手を目指していたが、イギリスのハンドボールチームが彼の跳躍力に目を付けてスカウトした。ダダジラースはイギリス国民になり、イギリス女王にも忠誠を誓った。イギリスチームが考えた戦法はこうだ。
ダダジラース選手が長い助走をつけて、ディフェンスの壁直前で味方からボールをパスしてもらい、ボールを抱えたままゴールまで飛び込むのだ。6メートル+αというゴールまでの距離は、ケニアの大地を自由に駆け巡ったダダジラースにとっては短いものだった。勢いあまってゴールネットに絡まることもあったらしい。
この技は彼の部族の言葉で「象の暴走」を意味する「インティーキ・エハラノオーラ」と呼ばれていた。ディフェンスやキーパーがいても弾丸のように突っ込んで吹き飛ばすので、アメリカでは「黒いトマホークミサイル」と名付けるメディアもあったが、アフリカ系に対する差別だということでその言葉は消えた。
しかしインティーキ・エハラノオーラは現代に残っていない。数々の有効な対策が編み出されたからだ。それぞれの国が編み出した対策には名前がついた。ゴールから9メートルの箇所に壁を作ることで跳躍をゴールまで届かせない「D3M(DirectDefenseDemolitionMen)」や、パスされたボールをディフェンスがカットすることで何も持たないダダジラースが宙を舞う羽目になる「エクスペクトパトロナム」が有名だ。もっとも決定的な対策だったのはソビエト連邦のチームが1990年に編み出した防御法だった。ハンドボール史に残る名将:日系ロシア人の佐野・バビッチ監督は、直線的な動きしかできないインティーキ戦法の弱点をついた。ソビエトチームのディフェンダー全員に組体操の扇型を組ませて、突撃するダダジラース選手を網のように受け止めたのだ。この対インティーキ・エハラノオーラは成功率100%だった。ダダジラース選手は何度も果敢に攻めたので、直撃したソビエトのディフェンダーには大怪我するものもいた。だがソビエトチームの選手層は厚かった。欧州諸国はこの恐るべき防御法を「鉄のカーテン」と名付けた。しかしこのような強力な結束と意思を発揮したソビエト連邦が崩壊するのは翌年の1991年のことだった。
以上、「80年代後半のハンドボール界では~」以降全て真っ赤な嘘です。そんな戦法あるわけないじゃん。
他にハンドボールの特徴として以下がある。
- バスケやサッカーと違ってドリブルがあまり有効なテクニックではないので、パスが重要となる。
- ボールを持ったまま3歩動ける。空中でボールを受け取った場合はさらに1歩、ドリブルすればさらに3歩動ける。この数歩のステップでいかにディフェンスをかわすかが重要となる。
- ポジションの名前には「レフトバック」「ライトバック」「レフトウィング」「ライトウイング」とカッコいい名前がついているんだけど使われない。「ライトバック=右45、逆45」「レフトバック=左45、正45」「ライトウイング=逆サイ」「レフトウィング=正サイ」という変な名称で通ってしまっている。45(ヨンゴ-)はゴールから見て45度の位置にいるから。逆サイ正サイは逆サイド、正サイドの略。
- オフェンスの選手たちが時間差で跳躍しながら空中でボールを投げ合ってシュートを放つことがある。こう書くとや『キャプテン翼』や『テニスの王子様』に出てくる物理学と元ネタのスポーツを無視した必殺技のような気がするが、実際にスカイ・プレイという名前がついている大技である。
- ハンドボールを日本語にすると「送球」なのでカッコわるい。でも「送球部」という言葉は好きだった。
- ハンドボールを題材にした漫画はすぐに打ち切られる。だってマニアックだもんな。
- ハンドボールの退場はたったの2分間。
- 反則は高度なテクニックである。亀田史郎の言葉ではない。球技で反則がテクニックとなるスポーツは珍しい。サッカーやバスケも反則テクニックはあるがハンドボールほどじゃあないと思う。文章で説明するのは難しいんだが………ハンドボールは相手の行動を妨害すると反則になる。これは当然だ。でもハンドボールはバスケやサッカーよりも体がぶつかってもOKなのだ。そして相手を妨害とまでは言わずとも邪魔するためには、体をぶつけるのが非常に有効な戦法だ。これが反則のテクニックとなる。
カードを貰う覚悟でタックルじみたぶつかり方をする場合もある。
Wikipediaのハンドボールの項目には「裏をとる」と書いてあって、「裏をとる」が何なのかを全く説明していないけど、これは相手の背中を取ることだったりする。ハンドボールでは背中を取ると相手を無力化できる。バスケの場合、背中を取ってもそのままのしかかることはできないので「背中を取る=単なるマーク」だ。でもハンドボールではのしかかっても反則にならない場合があるので「背中を取る」のが有効だ。この「場合がある」がクセモノ。次で解説。
- ハンドボールは審判によって反則の取り方にちょっとだけ差がある。中東だと凄い差があったので大問題になった。この問題は珍しく日韓が仲よく共有している問題認識である。いつも仲よくできりゃいいのに、明日日韓戦が終わる頃にはまたネット上で仲が悪くなるな。
話が逸れた。だから選手も監督も試合の序盤で、今日の審判が反則に対して緩めなのか厳しめなのかを感じ取る。つまり前述の「場合がある」が、「どんな場合」なのかを認識するのだ。「それって不自然じゃないの?」と思うかもしれないが、12人がスピーディーにぶつかり合う激しいスポーツなので反則の基準を明示できないのだ。審判側もはっきりと「俺はこの程度の反則では笛吹かないぞ」という意思を持ってやっているので、大抵問題にはならないんだけどねぇ。
この審判問題は僕が中学高校とハンドボールをやってきて感じたことなので、ハンドボール全体ではどうなっているかはわからない。
- ハンドボールの試合を見ていてみんなが疑問に思うのは多分「審判はディフェンスに対してどの反則で笛を吹いているのか?」だ。実はアレはプレーのやり直しを命じているだけだ。
ハンドボールはディフェンスが重い反則をすると、オフェンス側に7メートルスローが与えられる。これはサッカーのペナルティーキックと同じだ。
しかしちょっとした反則でも7メートルスローを与える一方、オフェンスを抱きしめるような凶悪なディフェンスでも7メートルスローが与えられない。これは行為の解釈の仕方が違うからだ。ハンドボールでは、オフェンスが完全にシュート体勢に入った状態で動きを止めることが重い反則になる。だからオフェンスが中途半端なシュート体勢だったら、激しく止めても軽い反則だと見なされる。っていうか反則ですらない。審判が笛を「ピッ」と吹いてプレーのやり直しを命じるだけなので、一切のペナルティはない。
いくらなんでも抱きしめたり腕をからめるのはやりすぎのように思えるが、それもハンドボールだと行為の解釈が違う。あれはオフェンスに対する妨害ではなくて、あくまでもオフェンスのボールを奪うための行為だと解釈されるのだ。これもプレーのやり直しを命じられるだけだ。
- ハンドボールの攻撃はガンダムに出てくるジェットストリーム・アタックのような連続した攻撃がメインだ。チームワークがないと攻撃が成立しない点は、バレーボールに似ているかもしれない。だけどディフェンスはもっと高いチームワークが要求される。オフェンスはあの手この手で壁を崩そうとするが、それに対抗するディフェンスは常に最適な壁であり続けようとする。6人の選手が常に連動して変化する壁になるには、高い運動能力よりも高度なチームワークのほうが重要だ。ここでのチームワークとは信頼関係というよりも「きっとアイツがこう動いて守るから、オレはこう動いて守る」という判断と連携を行い続ける技術だ。
- ハンドボールにはサッカーで言うところのオフサイドがない。だから速攻はバスケと同じような形になる。ドリブルが有効ではないので、ダッシュで移動しながら行うパスが重要となる。
ポジション解説で後述するが、速攻で主役となるポジションがある。キーパーは全速力で走る速攻選手に、的確なロングパスを投げる必要がある。速攻している選手はそのロングパスを走りながらキャッチする。バスケよりもアメフトのクォーターバックのパスのほうに近いかも。全速力のままゴール前に飛び込んで放つシュートは強烈だ。誰もやらないが、インティーキ・江原のオーラもやろうと思えば出来るかもしれない(危険行為・ふさわしくない行為とみなされ即退場になるって)。
- 高校時代に、部活のハンドボールをやっていたら陸上部員たちが集まって「お前らが絶対に破れない戦法を編み出した!」とハンドボール部に挑戦状を叩きつけた。その戦法とは6人が円陣を組んで小さい輪を作り、その中でパスをしながらトコトコ動いてゴールを目指すものだった(アメフトコメディ映画『リプレイスメント』の動きと同じ)。そして確かに僕たちディフェンスは手を出せなかった!(反則だけど)
ポジションについて
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キーパー
- ハンドボールのゴールは小さい。だからキーパーの体の大きさが重要となる。ゴールの縦×横の値で、人間の表面積(身長*横幅)を割る。この値が大きいとキーパーの素質がある。平均的な男子高校生の場合16%だが、大柄だと20%を超え、30%を超えるデブだとハンドボール部にスカウトされる。この行も嘘です、さっきからゴメンなさい。でも時々嘘書かないとギャグが入れられないんです。
実際は持久力以外の全ての高い運動能力が求められるポジション。さらに他のポジションと違って柔軟性のある体も求められる。アクロバティックな動きでシュートを止めるからだ。チーム全体に指示を出すので判断力も必要。数メートル先から繰り出されるシュートを止めるので精神力も強くないと。力もメンタル面も要求される。キーパーの重要度はサッカーよりも高い!
あとキーパーのジャージは特別仕様なのでお値段が高い(サッカーのグローブも高いよね)。部活レベルだとジャージを2重に着て軍手で済ます場合もある。
- ポスト
- 攻撃時にディフェンスの壁内にいるスパイみたいなやつ。色々とディフェンスの邪魔をする。反則を取らない審判だと調子に乗ったディフェンスからガンガン体をぶつけられる。ポストは必然的にディフェンスに囲まれているので跳躍できない。だから倒れながらシュートを打つ。倒れることで1メートルでもゴールに近づこうとして、勢いをつけてシュートを打つ。
僕のポジションだった。
- センター
- 中心のポジション。位置が中心なので攻撃の中心、パス回しの中心となる。作戦の起点となる司令塔だ。ハンドボールの数々の高い技術が必要なのはもちろんのこと、チーム内で信頼されているような人間がこなすポジションだ。
- 45
- ななめの位置にいるポジション。シュートをもっとも多く放つので得点元となる。だからチーム内で運動能力が一番高い人がなる場合が多い。ハンドボールは野球のピッチャーやサッカーのフォワードみたいに花形ポジションがないが、あえて言うならこの45が花形ポジションだ。特にルール知らないでハンドボールを鑑賞するなら、45のファンになれば大丈夫。
- サイド
- コートの端にいるポジション。サイドが強いとディフェンスはコートの端にまで守備を割かなければいけないので、逆に中心が弱くなる。ディフェンスが中心ばっか守っていると、サイドが横から強烈なサイドシュートをお見舞いする。でもサイドシュートは成功率が低いので最後の手段的だ。サイドが強いチームは攻撃が多彩になる。さらにサイドは速攻で主役となる。
このサイトの画像を見てもらうとわかるが、ハンドボールってのはコートの端っこのポジションだと走る距離が長い。サイドはセンターの2倍近く走る。そんでもって速攻でも活躍しなきゃいけない。体力面では非常に疲れるポジションだ。
2008-01-30
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