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ポストマン   ★★

長嶋一茂が企画・製作・主演した映画。まず「長嶋一茂って映画屋だったのか!」という点で驚く。次にケビン・コスナーが超一流スターから退くきっかけとなった失敗作と、全く同じタイトルをつけるセンスにも驚く。そして映画の内容が郵便屋さんという点でさらに驚く。今の時期にこんな映画が出てくるなんて郵政民営化関連じゃないのか?郵政が民営化されて郵便局の窓口で映画のチケットが購入できるようになったが、その宣伝に使われたのがこの『ポストマン』だ。

映画の内容もすごい。

田舎町での郵便配達屋さん。彼は「郵便配達はバタンコ(自転車)だ!」という筋金入りのポストマン。今日もバイクを拒否して効率の悪いバタンコ(自転車)で郵便配達を行います。

「田舎町での郵便」とか「効率を無視したバタンコを使う」とか、郵政民営化で真っ先に消えそうなモノを題材にしている。

だが映画を実際に鑑賞してみるとそんなに酷くはない。僕は破壊屋でネタにするために映画館へ行ったんだけど、演出・脚本のルールを守っている映画なのでバカにするのが難しくて困った。初監督作品でこれなら立派だ。

長嶋一茂の演技は感情表現がまるで出来ていない。ところが「感情表現が出来ない」=「普通の人っぽい」ということで、この映画の郵便局員役にはピッタリ合っている。ただ感情を前面に出す演技は失笑するほど酷い。僕が観た劇場でもおじいちゃんおばあちゃんたちが笑い出していた。

脚本は意外とちゃんと出来ている。状況描写的なセリフがちょっと気になるが、今の日本映画の悪しき風潮である「感情をセリフで説明する」をやっていない。省略できる描写もガンガン省略していて小気味良い。

演出は「アナログ」という点をとことん重視している。現代が舞台なのでケータイやパソコンは存在しているが、画面には一切登場しない。演出の統一が図られている。

じゃあ褒めるところ褒めたんでマッドシネマ・スタート!



ちょっと休憩。
この映画は回想シーンにそのまま入る&出るという凄いテクニックを使う。解説しよう。
北乃きいが過去を回想するシーンがあるのだが、これがスゲエ怖い。普通だったら回想シーンに入る&出る際にはカットで画面が切れるので「今は回想シーンなのかどうか」という判断は必要無い。しかしこの映画はそのまま回想シーンに入るので「今は回想シーンなのかどうか」という判断を観客がする必要がある。で、どうやって判断するのかというと、北乃きいの表情から判断するのだ。つまり

という風に笑っていた北乃きいが突然ひきつりだすことで回想シーンが終わったことを判断できるのだ。怖いよ。


そしてここからが衝撃のクライマックスだ!


映画『ポストマン』を観ていて、ガックリきた要素がある。それは郵政民営化に一切触れないことだ。現代を舞台にした映画ってのは社会を写す鏡のはずなのにやらない。例えば『トランスフォーマー』では英語が喋れないアメリカ軍の兵士が出てくるが、英語が喋れないアメリカ人は社会問題になっている要素でもある。どんなに頭の悪い映画でも、現代を舞台にしている限り時事ネタを取り込もうとするものだ。しかし『ポストマン』はそれを一切やらない。代わりにこんなシーンがある。

アナログ人間の主人公と仲が悪いエリート郵便局員。エリート郵便局員は郵便配達なんてやらない。でも主人公がピンチになると
「俺も昔は郵便配達やっていたぜ」
と助けてくれる。

これは今だったら例えば

主人公は郵政民営化に猛反対。エリート郵便局員は郵政民営化に大賛成。でも主人公がピンチになった時に
「民営化しても郵便を届けるのは変わらないよな」
とエリート郵便局員が助けてくれる。

にしたほうが面白いだろう。そこまでしなくても郵便局長がアナログ人間の主人公に「もう民営化したんだからやり方を変えたらどうだ」と言うセリフが一言あればいい。でもそれすらしない。民営化で消える要素を主題に映画を作り、民営化した郵便局が映画のチケットを売る一方で、映画の中では民営化に全く触れていない。ちょっと怖いぞ。


マッドシネマ

2008-04-21

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