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1億2千万人の怒れる日本人   

今回は映画『12人の怒れる男』のお話だけど、現在公開中のリメイク版じゃなくて元ネタのシドニー・ルメット版のお話。


アメリカではアフリカ系アメリカ人が犯罪を犯してニュースになった場合、その肌の黒さの度合いがよくネタになる。O.J.シンプソンの事件なんかが有名だろう。以下はウィキペディアからの引用

タイム誌は彼の皮膚を暗くし、囚人ID番号のサイズを縮小した顔写真を表紙に用いた。一方ニューズウィーク誌はオリジナルの写真を表紙に用い、対照的な二誌が書店のスタンドに並ぶこととなった。タイム誌には市民グループからの抗議が続いた。後に写真を加工したタイム誌のイラストレーター、マット・マフリンは「より巧妙に、より注意を引きたかった」と語った。

つまり、より「黒く」にしたわけだ。

海外の動画サイトで犯罪行為が写っている動画があったりする。それがアフリカ系アメリカ人だったりすると、動画のコメント欄には「やっぱニガーだな」みたいな投稿が載っている。


形は違えどこの風潮は日本でも同じだ。日本で犯罪事件が報道されると、ネット上ではその犯罪者が在日なのかどうかが重要視される。茨城県で8人を殺傷した金川真大という男がいる。彼の名前を検索すると検索結果のTOPに容疑者が日本人かどうか?という知恵袋の質問が出てくる。そんな質問がTOPだという事実も酷いが、回答にはかなり酷い文章があったりする。

金+真大+顔が朝鮮人
以上3つから考えてまあ100%朝鮮人だろう
通名の可能性は高いですね。つか確信あり。
一重で釣り目の気持ち悪い顔している。
あんだけ平気で人間殺せる生き物はシナ人か南北朝鮮人くらい。

酷い論理だし強烈な差別意識が根付いている。
こういった差別意識は普通のニュースにも表れている。「道仁会(暴力団)の事務所の使用を差し止めるために、住民たちが仮処分申請」というニュースにすら、Yahooニュースのコメント機能の上位には
「日本の暴力団員の9割は在日と部落。国外追放にすればいい。」
というコメントがあった。凄まじい決め付けだ。

また今年発生したカナダの猟奇殺人事件だが、犯人のカナダ人が中国系だとわかった途端にYahooではこんなコメントが出てきた。

公害を撒き散らすだけでなく犯罪者までバラまく最低の国、中国。
本気で思う、中国さえこの世界から無くなれば、きっととても平和で美しい世界になるだろうと。
いずれにしても、国際社会は「中国人の隔離」を真剣に考えるべきだな

これらのコメントは原理主義者や独裁者の言い分と同じだ。残念ながらこれらのコメントは同意の投票を得ていて、いずれも上位3位内に入っていた。


で、ようやく映画『12人の怒れる男』の話。『12人の怒れる男』はある殺人事件に評決を下す陪審員たちを描いた傑作でストーリーはこうだ。

容疑者が少年の殺人事件が発生した。12人の陪審員たちのうち、11人が「有罪だ!」とあっという間に結論を出す。だがたった1人主人公だけが「無罪」を主張する。

この映画を未見の人は「冤罪事件を無罪にする話」だと思っていることが多いが、実際は違う。『12人の怒れる男』で話し合われる殺人事件は冤罪事件だと限らない。劇中こんなシーンがある。無罪を主張する主人公が有罪派の陪審員に
「おまえ、本当にあいつがやってないと思っているの?」
と質問される。それに対する主人公の答えはこうだ。

「知らん。」

本当に冤罪なのかどうかは、当たり前だが主人公も知らないのだ。しかしそれでも「有罪か?無罪か?」と聞かれると主人公は頑なに「無罪だ」と主張する。

残りの11人の陪審員が全員「有罪」を主張するのには色々な理由がある。当然ながら少年には不利な証拠や不利な証言がある。単に早く討論を終わらせたいだけの陪審員もいる。だけど「有罪だ」と簡単に結論が出てしまう理由はもう1つある。それは容疑者の少年が移民で、低所得者で、育ちが悪くて、不良だということだ。だから陪審員には偏見で目が曇っている人もいて、証拠や証言の吟味すら考えていない。

そんな状況に危機感を持った主人公はこう言う。
「ここで私が有罪を主張したら、簡単に少年の将来が決まってしまう。とにかく話し合おう」
主人公が無罪と話し合いを主張することでこの映画の物語が始まる。そして映画は証拠や証言の吟味や陪審員の心理状態を巧みに描いていく。主人公の信念が理想的な陪審員の在り方を取り戻す。機会があったら観て欲しい映画だ。


これから日本では裁判員制度が始まる。その時に日本人は『12人の怒れる男』の主人公のように冷静で偏見の無い視点を持つことができるのだろうか?最初に挙げたようなネット上の反応を見ると、僕は「こんなんでちゃんと外国人犯罪や、事情が複雑な事件に対処できるのかなぁ?」といつも不安になる。国民が裁判に参加するということは、部落出身者や在日外国人に対するヒステリックで差別的で攻撃的な反応も裁判に持ち込まれるのかもしれない。もしかしたら人々の差別意識がそのまま判決に反映されるかもしれない。

『12人の怒れる男』には移民の少年をとにかく有罪にしたい男のこんなセリフがある。以下の文章はこのサイトから引用させてもらった

「連中は平気でうそをつく。真実なんてどうでもいいんだ。大した理由がなくても奴らは人を殺す。気にするような人種じゃない。奴らは根っからのクズなんだ」。

ネット上の悪口と同じ言葉だ。↑と同じ考えを持って裁判に参加する裁判員はきっといるだろう。

2008-09-01

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