『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』は、どん詰まりのメタルバンド:アンヴィルの姿を追ったドキュメンタリー映画だ。とは言ってもメタルファンや音楽ファンのみに向けた映画じゃあない。タイトルの通り夢を諦めきれない姿が描かれたドラマであり、理想と現実の激しすぎるギャップを笑うコメディであり、長年に渡るアンヴィルのメンバーの友情の映画だ。華やかな世界から離れて辛い現実に生きるという点で、ドキュメンタリー版『レスラー』とも言える。
アンヴィル=金床というバンド名の通り、アンヴィルのアルバムのジャケットには金床がひたすら出てくる。
↑ひどいジャケットだ
↑最新作
このドキュメンタリー映画は1984年の日本から始まる。「SUPER ROCK '84 IN JAPAN」という日本各地で行われた大型ツアーの映像だ。他の超大物バンドと共に日本人たちに熱狂的に迎えられるアンヴィルの映像だが、その時に出てくる字幕が悲しい。
どのバンドも何百万枚も売れた。アンヴィル以外は。
次にメタリカのラーズ・ウルリッヒ、アンスラックスのスコット・イアン、元ガンズ&ローゼズのスラッシュ、スレイヤーのトム・アラヤ、モーターヘッドのレミーといった大物たちが口々にアンヴィルの音楽性を絶賛する。でも彼らは同時にアンヴィルが売れなかった原因を分析し始める。そう、アンヴィルは失敗したバンドなのだ。分析が終わると現在のアンヴィルが出てくる。ボーカルのリップスは給食の配達人になっていた。
ライブをやっても客が来ない。アルバム出したくてもレコーディングする作るお金が無い。レコード会社には門前払いされる。ローンを払うためには普通の仕事もしなきゃならない。髪はロンゲのままだけどハゲも進行中だ。もう音楽の世界に居場所は無いかもしれないのに、ロックスターになる夢を諦められないまま50代になってしまった。
『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』には素敵なシーンが満載だ。
「売れないバンド」をネタにした作品は数多くあるけど、ドキュメンタリー映画として見せられると結構辛い。いや笑えるように編集してあって実際笑えるんだけど、爆笑しつつも胸が締め付けられるような感覚になる。
アンヴィルはオリジナルメンバーであるリップスとロブ(ドラム)の友情の物語でもある。映画の中では「兄弟のようだ」と例えられるリップスとロブの関係だけど、怒りを発散するためにロブに当り散らすリップスと、それにじっと耐えて献身の姿勢を見せるロブの関係は、古い価値観を持った夫婦のようにも見える。
リップスとロブは二人ともユダヤ人で、ロブの父親はアウシュビッツの生き残りだ。リップスは真面目なユダヤ人一家の末っ子だったが、14歳の時にロブとロックに出会ってから学校に行かなくなる。メタル嫌いだったダスティン・ホフマンがこの映画に感動してヘッドバンギングしたというエピソードは、ダスティン・ホフマンもユダヤ人だということに関係しているかもしれない。
この映画のクライマックスで起きる[奇跡]については、ちょっと説明が必要かもしれない。海外の掲示板でも「何であんなことが起きたんだ?」という疑問を投げかけている人もいた。[一概には言えないけど、○○のメタルファンってすごく義理堅くて、一度好きになったらいつまでもいつまでもそのメタルバンドを愛し続ける人が多い。だから過去に名盤を出したことのあるアンヴィルに対して、あんな素敵な奇跡が起きるんです]。
オマケネタ
2009-10-24