みなさん「だれ映」へのたくさんの投票ありがとうございます。ところで今年は「いったい誰が観に行くんだ!?」どころではなくて、本当に「誰も観ることができなかった映画」がいくつかあるので。今回はそんな映画を紹介します。
いきなり「誰も観ることができなかった映画」じゃなくて申し訳ない。『審理』は「上映・DVD使用の自粛」だし、DVDは世間に相当出回った後なので、観た人はそれなりにいるだろう。ただ今後の扱いは実質お蔵入り。
この映画は最高裁判所が企画・制作した映画の第3弾だが、主演の酒井法子がシャブで逮捕されてしまった。「むかし裁判員をやった人が起訴されて被告になる」という事態がこんなに早く実現するとはだれも思わなかった。↑それにしても事件前・事件後でも違和感がないデザインのポスターだな。
ちなみに最高裁判所が企画・制作した裁判員映画の第1弾と第2弾については、最高裁判所と電通との闇取引(さかのぼり契約)が発覚した。裁判所が作る映画が全部黒い話題になってしまったのは恐ろしいことだ。
なお『審理』は原田昌樹監督の遺作でもあるため、切通理作氏や映画秘宝がお蔵入り反対の署名運動を展開している。
黒い話なら押尾学だ。押尾学の裁判では「女性に対する致死かどうか?」が焦点かと思われたが、押尾学は「それでも僕は殺ってない」と主張。結局、女性が死んだ真相を明らかにしないまま執行猶予を得た。数年後には押尾学がだんまりすることで得した人物たちの支援によって、映画や音楽に復帰することだろう。しかし押尾学が出演している今年の映画は大ダメージを受けた。
逮捕前の押尾学は『誘拐ラプソディー』『だから俺達は、朝を待っていた』『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トーキョー』の3本に出演していた。『誘拐ラプソディー』は一部再撮影で来年4月に公開、『だから俺達は、朝を待っていた』はお蔵入り、僕が好きなイザベル・コイシェ監督の『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トーキョー』は公開未定になってしまった。
中でも『だから俺達は、朝を待っていた』のお蔵入りが気の毒だ。誰かフィルムを盗み出してネット上にアップすればいいのに。映画泥棒はこういう時にこそ活躍しろ!
映画『ふうけもん』は公開が差し迫っても製作会社が配給会社の東映にフィルムを渡さなかった。表向きの理由は
「製作費が足りなくてオープニングクレジットとエンクレジットが完成しなかった」
だが、そんなの信じる人間はいない。僕の想像だが撮影したシーン自体がぜんぜん足りなくて、アニメで例えるとガンドレス状態になったのだろう。俳優へのギャラの支払いもほとんどされていないらしい。
しかしこの映画の背景にはもっと別の要素がある。以下はキリスト新聞社の記事からの引用だ。
J&Kの金珍姫(キム・ジンヒ)代表取締役兼プロデューサーは、「関係者や支援者には心配と迷惑をかけて申し訳ない」と話す。製作初期段階から資金面で支援していた中心的スポンサーS氏が今夏、予期せぬ事故に遭い他のスポンサーが手控えてしまったことや、昨今の米国の金融不況のあおりを受け、製作費不足により期日までに本編フィルムを納品できなかったことなどが主な原因だと本紙に語った。
現状は、総製作費(2億2千万)のうち、8千200万が不足。撮影は終了し本編は完成しているものの、タイトル、エンドロールなどの作業ができないままの状態だ。J&Kは、予定されていた1月17日の配給に向け、残りの製作費や配給費用をファンド(出資)で満たそうとしたが、間に合わなかった。金プロデューサーは「これは金儲けのための映画ではない。これまでキリスト者をはじめ多くの人々が協力してきて、やっとここまで来た作品。使命をもってやっている。何としてでも公開させたい」と胸中を明かす。また、「本当の伝道という意味に立ち返り、原作者の意図を汲みたい」とし、さらに完成度の高い作品に仕上げるため、信仰の場面などを追加撮影する方向。脚本の準備を進めているという。
同作品は便利屋として知られるキリスト者の右近勝吉さんの自伝的映画。少年時代ヤクザにあこがれ、組のチンピラになった右近氏だが、ある日、宣教師の「オンリー・ビリーブ」という言葉と出合い、「人の為に生きていこう」と決意する。監督は「釣りバカ日誌」シリーズ(1~10作)を手がけた栗山富夫さんが務めた。中村雅俊さん、浅野ゆう子さんら豪華実力派キャストが出演することからも、キリスト教界で話題となっていた。
年内の配給を目指す金プロデューサーは、「製作費が足りなかったことを冷静に受け入れたい」としながらも、「クリスチャンが一致団結できるかどうか、試される映画になると思う」。資金調達に向け、キリスト教界へ献金などの支援を呼びかけている。
なぜ韓国やキリスト教が登場しているのか説明する。韓国は国民の3割がキリスト教徒で、隣国日本も布教の対象になっている(だからこそ統一教会のような異端も生まれた)。ちなみに韓国映画界は何故か宗教嫌いが多いらしくて、映画の中でも批判的に描かれる場合が多い。今年だと『チェイサー』が印象的だった。
話が逸れた。『ふうけもん』で中村雅俊が演じる「ふうけもん=右近勝吉」は元ヤクザで、キリスト系の宗教に入って改心した実在の人物だ。だから追加撮影でキリスト教絡みの宗教色をさらに強めることで、日韓のキリスト教団体からの追加資金を得ようとしているのだろう。ちなみに同じく右近勝吉をモデルにした『親分はイエス様』もキリスト教界が援助した日韓合作映画である。日本で宗教映画を作るのは何も幸福の科学だけではないのだ。
映画とは全く関係ないが、中村雅俊の息子は今年ハッパで逮捕された。今回「誰も観ることができなかった映画」が観られなくなった背景に、どれもドラッグの存在が見えてくるのが面白い。
2009-12-01