Archive for 映画の感想

一枚のハガキ

2011年のべスト日本映画

一枚のハガキ【DVD】

俺の2011年のベスト日本映画は『一枚のハガキ』なんだけど、キネマ旬報のベスト日本映画でも『一枚のハガキ』が選ばれて嬉しかったので、それを記念して今回はこの映画について書きます。

映画の内容

いきなり何だけどあんまりオススメできる映画でもない。映画の設定は陳腐で…

主人公(豊川悦司)が戦友(六平直政)から預かったハガキを、未亡人となってしまった彼の妻(大竹しのぶ)に届ける

というもの。映画の内容はいかにもキネ旬が大好きそうな映画で、上映時間の半分は農村にある寂れた家の会話のみ。『美しい夏キリシマ』とか『キャタピラー』みたいな農民目線の反戦映画ってキネ旬大好きだよねぇ。まあそれでも俺が『一枚のハガキ』を高く評価する理由はたくさんある。

笑える悲劇

劇中で夫の戦死を「滑稽なこと」として演出しているのに感心した。村人たちの万歳三唱と共に戦地へ行った夫が、次の瞬間骨壺になって帰ってくる編集は吹き出しそうになった(その後骨壺ですらなかったことが判明する)。奇跡的に生き延びたトヨエツが悲劇の里帰りをするのも笑ったし、日本軍の兵士たちが死地に赴く前に昭和天皇から承ったイカゲソをかじっているのもおかしくてしょうがない。

これらは実際に戦友を奪われていった新藤兼人監督だからこそできる荒業だよね。戦後生まれの映画監督たちが日本軍の悲劇をギャグとして描けるとは思えない。

一枚のハガキ

『一枚のハガキ』は反戦映画だけど鑑賞会には平成天皇も参加している。さすが平和を愛するリベラル天皇だ。

以下ネタバレ

日本への不信感

この映画の後半でポイントなるのは日本への不信感だ。大竹しのぶの2人の夫は日本軍のメチャクチャな方針の犠牲となった。トヨエツも戦友がみな死んで、故郷に居場所も無くなった。

2人とも生粋の日本人で日本での生き方以外が考えられないのに、もう日本が信用できなくなってしまった。戦後の2人の姿は現代の日本人にも通じる。

農村について

貧しい農村の描き方も怖い。長男の嫁に頼らざるを得ない両親(柄本明・倍賞美津子)は、長男が戦死すると嫁に土下座して家に残らせる。そして次男と結婚させる。このときの柄本明の土下座しながらほくそ笑む表情が怖い。家に取り憑く不幸という概念も上手く脚本にいかされている。

ちなみに出演者全員の演技が素晴らしい映画で、特に倍賞美津子と大竹しのぶは最高だ。こういう映画観てしまうとアイドル映画がキツくなってしまう。アイドルたちだって映画ではちゃんと演技してたりするんだけどね、やっぱり本物たちに比べると差がデカすぎる。

映画のオチについて

映画のオチはひねりが一切ない上に、ポスターやらジャケットやら公式サイトのTOP画像で完全にネタバレしている。

映画のオチは日本が嫌いになりブラジルへ移住しようとした2人が、それでも日本に残って麦農家を始めるというもの。麦は踏めば踏むほど強くなる。ボロボロになっても多くの死に遭遇しても、日本で生きていくことを選んだ二人の姿は震災後の日本の状況にも重ねることができて味わい深い………けど今の日本はその農地の汚染が問題になっているんだけどね。

新藤兼人監督

俺はこの映画の前情報を何も持ってなくて「新藤兼人の遺作も同然だから観に行くか!(注:新藤兼人は死んでません)」程度の気持ちで観に行ったら、そのパワフルさに驚かされた。99歳にもなってこんな映画が撮れる新藤兼人に感服です。撮影現場では新藤兼人本人じゃなくて孫娘さん(この人も監督)が頑張っていた、という真相を知ったときはショックだったけど、もう映画が撮れなくなる新藤兼人よりも新しい才能が残ったということを歓迎したい。新藤兼人監督、今まで数々の傑作をありがとうございます!お元気で!例えあの世に行っても!

午後の遺言状 [DVD]新藤兼人の映画は北野武以上に世界的知名度が高い名監督なんだけど、国内では一般的には知られていない。新藤兼人作品にチャレンジしたい人はこの作品が比較的万人向けでオススメ。

原爆の子 [DVD]原爆が落とされても見事に復興した広島だが……。『一枚のハガキ』とは打って変わって今の日本人が観ると暗い気持ちになる。

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宇宙人ポールとサイモン・ペッグとニック・フロスト

真ん中が宇宙人ポールですが、今回取り上げるのは両隣の人です。

宇宙人マニアのイギリス人二人組がアメリカ旅行中にホンモノの宇宙人と遭遇してしまい、宇宙人を守るべく珍道中を繰り広げるというコメディ映画。

イギリス人二人組を演じるのはサイモン・ペッグとニック・フロストで、この二人のコンビの主演作映画はこれで3本目だ。サイモン・ペッグとニック・フロストは実生活でも大変仲が良かったりする。

『タンタンの冒険』のデュポンとデュボン役に決まったお二人。「simon pegg nick frost」で画像検索するとこんなのばっかり出てくる。

せっかくなので過去のサイモン・ペッグとニック・フロストの作品を紹介してみる。

SPACED 俺たちルームシェアリング

これはテレビシリーズで二人のイギリス国内の出世作でもある。劇中では子どものころからの親友同士という設定だ。

いつも仲良くプレステやっていた二人、ニック・フロスト(右のデブ)が昇進するので昇進式をサイモン・ペッグに見てほしいのだが…………

シリーズ後半になってサイモン・ペッグに彼女ができて昇進式を忘れてしまい、ニック・フロストが嫉妬するという笑える名シーン。

ショーン・オブ・ザ・デッド

二人の世界的出世作だけど、やっぱりプレステやっている。

サイモン・ペッグには彼女がいるんだけど、サイモン・ペッグはいつもデートにニック・フロスト(真ん中のデブ)を連れてくるので、彼女が怒っている。

ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!

そして遂に日本初公開作品。いつも「昔から親友」という設定なんだけど、『ホット・ファズ』のみ、劇中で初めて出会って親友になる。画像はニック・フロストがサイモン・ペッグに自分の部屋に寄って行くように誘う甘酸っぱい?シーン。

  1. サイモン・ペッグが主人公
  2. ニック・フロストが相棒
  3. サイモン・ペッグは社交的
  4. ニック・フロストはオタクすぎてサイモン・ペッグ以外に人づきあいがない
  5. サイモン・ペッグに彼女ができてニック・フロストが嫉妬する

というパターンはほぼ全作品に共通する。このようにサイモン・ペッグとニック・フロストは親友というか恋人同士というか夫婦というか、何か説明不可能な関係を演じてきた。しかしそれでもBLっぽさはほとんど無い。


『宇宙人ポール』の前半でも、二人の仲良し過ぎる関係がネタになる。宇宙人オタクがホンモノの宇宙人に遭遇したのだから大喜びするはずなのに、ニック・フロストはなぜか嬉しくない。その原因はなんとリンク先ネタバレ

『宇宙人ポール』の前半にはもう一つ面白いプロットがあって、二人が宇宙人オタク憧れの地であるアメリカに行って喜びで大はしゃぎするんだけど、保守的なアメリカ人たちに「イギリスのゲイ野郎」と扱われてしまう!というもの。俺なんかもそうだけど、アメリカ映画とか観ていると、「いろんな人種や宗教の人たちを受け入れているなんてアメリカ素晴らしいなあ!」って感じる。だけどアメリカには不寛容な部分も強い(劇中に出てくるキリスト原理主義者とか)。だからアメリカへ行ってションボリしてしまう彼らの様子が面白くてしかたなかった。

というかこのプロットは色々と転用できるよね。「韓琉って素晴らしいな!」と思った日本人が韓国へ行ったら「謝罪しろ!」って怒鳴られるとか、「日本のアニメって素晴らしいな!ワンピースは神」と思った韓国人がお台場に行って嫌韓デモに遭遇するとか。

また『宇宙人ポール』はカルチャーギャップの映画でもあり、イギリス人二人組とアメリカ人丸出しな宇宙人ポールとの対比になっている。宇宙人ポールの声優はバカなアメリカ白人を演じさせたらウィル・フェレルの次に上手いセス・ローゲンだ。

ちなみに『宇宙人ポール』の元ネタとして数々の傑作映画やスピルバーグ愛が出てくるのが話題になっているけど、最低限予習が必要なのは『エイリアン2』くらい。いや、予習の必要もないかも。そのくらい本筋の出来が良い。本当に面白いパロディは元ネタを知らなくても十分に楽しめる。『宇宙人ポール』はそんな一本だ。

エイリアン2 [Blu-ray] でも元ネタ知っているとクライマックスの衝撃度が違う…。

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ピザボーイ 史上最凶のご注文

ピザボーイ

ハリウッド映画の記号的な演出に「メタリカのTシャツを着ているのはダメな大人」というのがある。他には「リンプ・ビズキットを聴いているのはバカなガキ」「パーカーを着ているのはオタク」とか。リンプ好きでメタリカのTシャツを持っていてパーカーを集めている俺にとっては心が傷つく演出だ。

ピザボーイ

映画でメタリカTシャツを着ているバカ1、メタリカのライブを観ようとして死ぬ(『ダーウィン・アワード』)

ピザボーイ

映画でメタリカTシャツを着ているバカ2、農民(麻薬の密造とも言う)やりながらラップでアメリカデビューを夢見ている男(『コラテラル・ダメージ』)

メタリカTシャツを着ている男が出てくる『ピザボーイ 史上最凶のご注文』は快作『ゾンビランド』のルーベン・フライシャー監督とジェシー・アイゼンバーグ主演コンビの最新作だ。映画の出来はというと、悪ノリで笑わせるコメディなので『ハングオーバー』や『宇宙人ポール』のような構成の上手さは期待しないほうがいい。 劇中で『ダイ・ハード』や『リーサル・ウェポン』を引用している辺りは『ホット・ファズ』に似ているかな。

映画のストーリーは「ピザの配達人が爆弾をつけられて無理やり銀行強盗をやらされる」というもので、現実に同じ事件が起きているのでそのことでも問題になった作品だ。爆弾をくくりつけられる主人公を演じるのは『ソーシャル・ネットワーク』のジェシー・アイゼンバーグで、劇中で彼がフェイスブックに言及するシーンはかなり笑える。主人公の相棒としてインド人が出てくるんだけど、コイツはアメリカのコメディアンでギョロ目をぎらつかせながらワメいてばっかり。主人公とインド人が妹を巡ってケンカするシーンは、褒める意味でかなり酷い。

もう一つのプロットとして、ニートの白人コンビが保守派の父親を殺そうとしてメキシコ系の殺し屋を雇う、というのがある。このニートがメタリカのメタルマスターTシャツを常にを着ているわけ。

二つのプロットに分けたのは面白いんだけど、お笑いネタが掛け合い漫才ばっかりになっているのが残念。でもエンド・クレジット後のオマケ映像は爆笑したしプロットの終わらせ方として上手い。下品すぎるのもビックリしたけど。

あとこの映画で一番笑ったシーンはネタバレだからリンク先に書くけど、こんなシーンだ

そして『ピザボーイ 史上最凶のご注文』で一番驚いたのは、殺し屋が口走る爆弾の解除コードがアレだったことだ。アレって日本だけじゃなくて世界共通の暗号だったんだね。Wikipediaで調べてみたら、色んな言語で紹介されていたよ…。リンク先ネタバレ⇒アレの正体

ピザボーイ

映画『ゾンビランド』でもフェイスブックネタはある。

ピザボーイ

同じく映画『ゾンビランド』から、俺のお気に入りシーン。ずっとネトゲー(ウォークラフト)をやっている引きこもりの主人公と、ゾンビに襲われて主人公の部屋に逃げてきた美女。主人公は美女にコーヒーを渡すべきなのにマウンテンデューを渡して呆れられる。もちろん主人公はパーカーを着ている。

ゾンビランド [Blu-ray]かなり好きな映画。オープニングはメタリカの『For Whom The Bell Tolls』、『ピザボーイ』のオープニングはハイヴスの『tick tick boom』。

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天空のエロ・ラピュタ『バルテュス ティアの輝き』

バルテュス ティアの輝き

名作『天空の城 ラピュタ』のパクリエロアニメで『バルテュス ティアの輝き(1988)』という作品がある。単なるパクリにとどまらずスタジオジブリのスタッフが関わっていたために、宮崎駿の怒りのバルスがさく裂したとも言われる作品だ。Wikipedia バルテュス ティアの輝きから引用する。

本作は、『天空の城ラピュタ』に似通った設定が見られるが、ラピュタのスタッフが参加している。なお、これに関わったことがバレたスタッフは、スタジオジブリから追放された

パクリ元になっているのは『天空の城 ラピュタ』だけじゃなくて『ルパン三世 カリオストロの城』もネタ元になっていて、特に敵役はムスカよりもカリオストロ伯爵に近いだろう。設定やストーリーやデザインといった要素をラピュタからパクっているんだけど、いや、奴はもっととんでもないものを盗んでいきました。それはシータやクラリスみたいなヒロインの純潔です!

バルテュス

「シータのレイプビデオは本当にあったんだ!」

そう『バルテュス ティナの輝き』にあるのは………『天空の城 ラピュタ』でパズーが死んじゃってラピュタにとり残されたシータがロリコンの本性を表したムスカに凌辱されるとか、『ルパン三世 カリオストロの城』でルパンが助けに来ないのでクラリスが侯爵に犯されまくってまんざらでもなくなってるとか、そんなのダメだけどあんなこといいなできたらいいなという80年代アニメオタクたちの歪んだ夢をかなえるようなシーンである。夢だけど夢じゃなかった。

バルテュス

アニメが始まるとこんな設定が出てくるが本編には関係ない。それよりもここで注目したいのは宮崎駿が『風の谷のナウシカ』と『天空の城 ラピュタ』で言いたかったことを一つにまとめた上に余計な形容詞を追加したこの文章そのものだ。

バルテュス

ヒロインは清純な少女という設定だが、本当に清純だったらこんな恰好はしないだろう。でもまあ女子中学生アイドルグループが露出の高い恰好するのと同じか。ヒロインは飛行石とかブルーウォーターに似たようなもんを持っています。当然ながらその石の秘密とは何らかの動力源です。

バルテュス

悪役に捕まったパズーっぽい人とシータっぽい人。後ろの悪役はムスカのコスプレだと思う。『バルテュス』のストーリーはラピュタで言うところのティディス要塞でのシータ救出戦までをコピっている。だからクライマックスはロボット兵の大暴れ。

バルテュス

まちがいなくムスカのコスプレコンテスト優勝者。言わなくてもわかると思うがこのシーンはシータっぽい人が捕えられて、パズーっぽい人が牢屋に入れられるところだ。このあとパズーっぽい人はレジスタンスたちに助けられるのだが、そのレジスタンスの一人に…

バルテュス

宮崎駿っぽい人が!30分未満の内容にも関わらずレジスタンス一人一人に設定があるのが虚しい。

バルテュス

敵の城は空中城になっている。ハウルの天空の動く城って感じ。

バルテュス

『バルテュス ティアの輝き』というタイトルの意味がわからんが、悪役の汗とかヒロインの愛液とかがイチイチキラキラしているので、きっとそれのことを意味しているんじゃないかな。普通だったらヒロインを捕まえた悪役は主人公が助けにくるまでヒロインに手を出さないのがマナーなんだけど、こいつはさっさと手ごめにする。コイツは真の悪だぜ!

そしてヒロインが強姦で処女喪失した悲鳴と共に飛行石が輝きだしロボット兵が動き出す。リーテ・ラトバリタ・ウルス・アリアロス・バル・ネトリール!

この悪役(声優は玄田哲章!)の仮面が取れるとパズーっぽい人とシータっぽい人が悲鳴あげるんだけど、恐ろしい顔じゃなくてキャプテン・ハーロックみたいなイケメンなんだよなー。なんで仮面で顔隠しているんだろ?

あ、ちなみにラストはすっごく爽やかなハッピーエンドです。

スタジオジブリのスタッフが関わっているだけあって、アニメとしては結構シッカリしている。『天空の城 ラピュタ』のアニメ描写といえばディズニーのアニメーターたちの研修素材になっているほど素晴らしい。それがこんなエロアニメにも活用されているのに苦笑してしまう。ちなみにディズニー社のアニメ『アトランティス 失われた帝国』も『天空の城 ラピュタ』のコピー映画だ。日本では『ふしぎの海のナディア』のパクリとされているけど、『アトランティス 失われた帝国』の監督はナディアの存在はパクリ騒動が起きるまで知らずにいる一方で、『アトランティス 失われた帝国』でラピュタをやろうとしたことはインタビューで自ら語っている。まあとにかく『天空の城 ラピュタ』は偉大な作品だということだ!

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駄作『アマルフィ』への報復『アンダルシア』

アンダルシア

アンダルシア

しょう油が垂れたようなフォントも健在

面白かった

『アマルフィ 女神の報酬』を観る会を「アマる会」って呼んでいたんだけど、続編『アンダルシア 女神の報復』が公開されたので再びアマる会が開催された。某日某駅のアンダルシアのポスター前にアマる会メンバーが集合し

「このポスターすげえ!脚本家のところに名前が入っている!」

とくだらないギャグを飛ばしたりしていたけど(『アマルフィ』では脚本の真保裕一が怒って降板したため脚本家がいないことになっている)、映画終わったあとの飲み会ではみんなで『アンダルシア』の良かった点をひたすら挙げていった。それほど『アンダルシア』はふつうに良かった。少女の尿意がすべての始まりだった大駄作『アマルフィ 女神の報酬』から、よくここまでレベルアップできたものだ。今回のエントリはアマる会で出た会話を元に作りました。あとネタバレしまくってます!

ストーリー

物語の起点は二つある。パリのサミットで外交官としての仕事をしているオダルフィ(「織田裕二が演じる外交官:黒田康作」の略称)、サミットではマネーロンダリング規制の話があがるが………。そしてアンゴラ公国(人口7万人のヨーロッパの国)のホテルの一室では、投資家(谷原章介)の遺体と銀行員の黒木メイサがいた。いったい黒木メイサは何に巻き込まれてしまったのか?日本人投資家の殺害事件を通じて在外邦人たちが絡み合っていく。前作『アマルフィ』の「ヨーロッパ某国の軍事政権を日本が支援していた」という珍設定は一体なんだったのだか?というくらいちゃんとしている。

演出が良かった
『アンダルシア』の最大の特徴は気の利いた演出の数々だ。セリフでの説明が少なく演出で語ってくる映画なので、観客は演出を味わいながら意図をかみ砕く必要がある。以下ではそんな演出をいくつか取り上げてみるけど、ネタバレなので注意!

演出:黒木メイサはなぜ車の窓を開けるのを嫌がるのか

伊藤英明と黒木メイサの内面は細かい演出で少しずつ明らかになっていく。黒木メイサは幼いころの交通事故で負った額の傷を見られたくないから窓を開けるのが嫌なんだけど、そのことを劇中一切説明しない。説明しないからこそ、彼女がラストシーンで車の窓を開けるだけの動作に爽やかな感動が生まれる(窓を開ける⇒傷が見える⇒傷が見えても気にしなくなっている⇒トラウマを乗り越えた)。こういう人間の内面の変化をセリフで説明して、ドラマが台無しになっている映画は多い。

演出:オダルフィVS伊藤英明

インターポールの伊藤英明がオダルフィを格闘であっと言う間にのしてしまうシーンは「え!こんなに強いキャラなんだ!」と驚かせてくれるけど、その後彼らが銃撃戦に巻き込まれると、伊藤英明は体がこわばってしまい動けなくなる。「え!このキャラって実は弱かったんだ」と驚かされるれるが、これらの描写もクライマックスで伊藤英明が銃を使うシーンへの伏線になっている。

またこの二人の対決は、『踊る』と『海猿』というフジテレビの大看板を背負っている二人の対決にもなっていて、芸能的な意味でも観ていてハラハラするものがある。以下俺の妄想。

織田「伊藤くん、踊るシリーズのほうが興業収入大きいからって臆することはないよ。」
伊藤「織田さんの大物っぷりには誰も敵わないですよ。共演者トラブルで大ヒットシリーズの続編作らせないなんて!」
織田「伊藤くんは関東連合とつながっているけど大丈夫なの?」
伊藤「っていうか外交官:黒田康作シリーズってあんまりヒットしていませんね、だからこそ俺が呼ばれたんでしょうけど」

演出:ユージュアル・サスペクツ

注意!『ユージュアル・サスペクツ』のトリックのヒントが書かれています!

伊藤英明が黒木メイサの裏の性格を知るシーンの演出は、『ユージュアル・サスペクツ』のトリックを大胆に使っていて面白かった。黒木メイサは警察官にとある男性の容姿を伝えるんだけど、その容姿が……これもセリフでの説明が無いので観客はカメラワークや伊藤英明の視線を読み取って理解する必要がある。『ユージュアル・サスペクツ』では理解できない観客のためにコーヒーカップをうまく使っていたけど、『アンダルシア』ではTシャツの使い方があからさますぎてちょっとイマイチだった。でも観客全員にも理解させるためにはあそこまであからさまにしないとダメなのかも。

演出:ポーカー

オダルフィが黒木メイサの裏の性格を知るシーンの演出も良かった。二人がポーカーで対戦していて、どんどんレイズアップする。しかしポーカーの最中にオダルフィは寝てしまう(どうして眠くなるのかも伏線が貼ってある)。起きたオダルフィが黒木メイサの残したカードを見ると…めっちゃ弱かった!ここでオダルフィは黒木メイサがブラフをかけていたことを知り、彼女の本当の性格に確信を持つのだ。

そういえばオダルフィってポーカーが強いって設定だったね。もう誰も覚えてないけどアマルフィ・ビギンズってのがあった。

演出:コーヒーが飲めない!

オープニングのパリのレストランで、コーヒーが飲めなかったオダルフィ。これは本編で繰り返しギャグとして使われる。国際会議の舞台でも動じないオダルフィが、コーヒーごときで大きなリアクションしてしまうギャップで笑わせてくれる。

演出として効果的なのは列車内でコーヒーが飲めないシーンで、あのシーンは「オダルフィに寄りかかる黒木メイサを起こさないようにコーヒーに手を出さない優しさ」を表現しつつ、「やっぱりコーヒーが飲めないオダルフィ」で笑わせてくれる。

福山雅治

福山雅治は登場シーンが少ないながらも、設定説明する人&観光地紹介する人&ギャグ&お色気をぜんぶ担当している便利っぷりが笑えた。アマる会では「福山雅治はオダルフィのことが好きで、嫉妬させようとしていつも女連れでオダルフィの前に登場するのでわ?」という腐女子会みたいな会話していました。実際、福山雅治のキャラはオダルフィに献身的すぎるだろ。

撮影

日本映画界の大ベテランカメラマンでありながら、『アマルフィ』ではちょっとイマイチな撮影だった山本英夫だけど、今回のアンダルシアやアンゴラの撮影は大画面で見ると本当に美しい。まあ画質いじっているのはちょっと気に食わなかったけど。

外国映画の影響

ジェームズ・ボンドとボーン・アイデンティティーの影響を受けているこのシリーズだけど、『ザ・バンク 堕ちた巨像』も参考にしたと思われる。インターポール捜査官が部外者とコンビを組んで国際銀行の闇を暴くという点では『ザ・バンク 堕ちた巨像』と設定がまったく同じ。

不満点

細かいところで不満点はある。インターポールに左遷された刑事という設定(銭形かよ)や、警視庁から電話かかってくるとiPhoneの画面に警視庁と表示されるシーンは苦笑してしまう。あ、『アマルフィ』と違ってドコモがメインスポンサーから降りたのでiPhoneがバリバリ出てきます。アマる会では地理的なツッコミも出てきた。100人が見れば97人は見破れる「実は生きていた」トリックはイマイチだったけど、そのあとの本当の大オチが効果的だったのでこれは無問題。それよりも大オチを考えると黒木メイサが監視に怯えていたのがちょっとだけ変だ。

最後に

色々褒めたがけど、俺の評価は五つ星中★★★で普通の良作だと思っている。「外国映画だったらこの程度の演出を当たり前にやっているよ…」と思う人は多いだろう。でもフジテレビの映画が、フジテレビらしさを失わずにここまできちんとやっているところが面白い。

このレベルを維持できるのなら、ぜひ第三作以降も作って欲しい。ところが『アンダルシア 女神の報復』はそれほどヒットしておらず興行収入は20億越えといったところらしい。踊る2で170億、海猿3で80億を稼いだ二人の競演作としてはだいぶ寂しいものがある。でも国内ロケなら次回作も撮れるよね?アタミとかアマガサキとかアがつく地名ならどこでもいいんでしょ?

ところで「女神の報復」というタイトルの意味だけど、花火が見られなかったルカちゃんの復讐ってこと?(違う)

ザ・バンク 堕ちた巨像 [Blu-ray]美術館での銃撃戦が美しい

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