Archive for the ‘映画の感想’ Category

公然の秘密を映画化『ブロークン・シティ』

土曜日, 10月 19th, 2013

アメリカではよく「なんか怪しい黒人撃ち殺しちゃったけど無罪!」って事件が起きるけど、これはその撃ち殺した白人が主人公の映画

ブロークン・シティ1

ブロークン・シティ

マーク・ウォールバーグ演じる主人公は婦女暴行殺人事件の容疑者である黒人を射殺した警察官。しかし射殺した時に黒人が無抵抗でしかも無実だった可能性もありNYは抗議活動で混乱。主人公は自らの無罪を信じている。そして裁判では主人公の無罪判決が下った。

ラッセル・クロウ演じる保守派のNY知事が主人公と面会し、「君の行動が治安を守ってくれた。しかしこれ以上の政治的混乱は避けたい。」と主人公に辞職を促す。主人公は納得いかないが渋々と従う。ここまでがオープニング。

その7年後。警察官を辞めて浮気調査専門の探偵になった主人公に例のNY市長から仕事の依頼がくる。市長はキャサリン・ゼタ・ジョーンズ演じる妻の浮気を知り、主人公に浮気調査を依頼するのだ。


ブロークン・シティ2

こうやって高級なウイスキーで相手を強引に歓迎するのが、アメリカの保守派のパワーエリートっぽい。

映画本編のネタは黒人射殺事件や浮気調査ではない。NY市長選挙を舞台に繰り広げられる陰謀劇だ。新人の脚本を『フロム・ヘル』『ザ・ウォーカー』のアレン・ヒューズが監督している。俺は説明的にならないギリギリのわかりやすさを保つアレン・ヒューズ作品が好きだったりする。

短くまとまった脚本だけど、ガンガンと社会ネタを織り込んできている。俺はこの映画がかなり気に入ったのでこのエントリ書くときにアメリカでの評価が悪いことを知って驚いた。俺がこの映画が気に入ったのは劇中の陰謀劇が日本社会と結びついたからだ。


以降は中盤のネタバレ。なるべくネタバレにならないように書く。


陰謀のネタとなるのはNYの再開発だ。ラッセル・クロウ演じる市長のモデルはちょっとわからないけど、再開発を推し進めた共和党のジュリアーノ市長の影響があると思う。

悪役となる市長は再開発を推し進めたいが、市長選のライバル候補は再開発に猛反対する。その理由は再開発予定地が低所得者たちの住宅街だからだ。低所得者の中には英語も喋られないスペイン移民がいて、主人公は彼らを救った経緯もある。


ここからはネタバレ。


市長の目的は再開発で高層マンションを建てることだ。もちろん低所得者たちにはそんなマンションの家賃なんて払えないので、彼らは住家を奪われることになる。だから市長は高層マンションの計画を隠している。

マーク・ウォールバーグ演じる主人公は建築会社を調査し、建築会社のゴミを漁って高層マンションのプレゼン資料をゲットする。市長の嘘を暴く貴重な資料だ。殺されそうになりながらも資料の持ち帰りに成功した主人公は、資料を味方になりそうな刑事時代の上司のところへ持っていく。そこで上司が一言。

「うーん、でもそれって公然の秘密だよね」


ぶわははは!確かによくあることだよな。これと似たようなことが日本でも起きているので、俺の頭の中で結びついてしまった。それは放射性廃棄物の中間貯蔵施設だ。国や読売新聞は汚染されている福島第一原発周辺に中間貯蔵施設を立てたくてしょうがない。でも住民たちは「そんなの建てられたら戻れない」と反対している。反対している理由はそれだけじゃなくて、中間貯蔵施設というのは明らかに嘘で真の目的は最終処分場の建設だ。で、専門家たちが中間貯蔵施設の設計書を検討した結果「この設計書って最終処分場だよね」という結論が出たのであった。でも嘘と分かっていても誰も止められない。数年内に中間処理施設が建てられて、数十年後に最終処分場になるだろう。

福島民報:「設計図は最終処分場」 中間貯蔵施設会議 専門家が不備指摘


映画『ブロークン・シティ』の中盤のクライマックスは、再開発をテーマにした市長選の直接討論だ。ラッセル・クロウ演じる保守派の現市長と、バリー・ペッパー演じるリベラルな対立候補がテレビ討論で対決する。ここでラッセル・クロウが見事な演技を見せる。はっきりとビジョンを持った意志の強い政治家として再開発を訴えるのだ。「再開発は財政を助ける」「住民たちは守られる」。強い政治家として自分の再開発計画を強引に進める姿は、日本の石原元都知事とカジノ計画を連想させる。ラッセル・クロウ演じる市長も石原一族も計画のパートナーから選挙資金を貰っている。

政治家が堂々と嘘をついても止めることができない。でもこれは映画なので主人公に止めるチャンスが与えられる。かつて警察官だった主人公は「NY市民を守るとはどういうことなのか?」という選択を突きつけられる。彼はかつてNY市民である黒人を射殺しているのだ。

民主主義のアメリカや日本だからこそ、こういうブロークン・シティが生まれてしまう。社会ネタとミステリーのバランスが見事な作品だった。

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映画が始まってすぐに謎が解ける『謎解きはディナーのあとで』

月曜日, 9月 23rd, 2013

謎解きはディナーのあとで1

『謎解きはディナーのあとで』

極端に出来の悪いミステリーだと最初に殺人事件が起きる前に犯人がわかってしまうけど、本作がまさにそれだった。俺は最初の10分でわかったけれど、勘の良い人は設定とキャスティングだけでわかるんじゃないかな?

謎解きはディナーのあとで4

設定は豪華客船内の殺人事件。

『謎解きはディナーのあとで』の予告編では「犯人は必ずこの中にいます」と言いながら、この映画の豪華キャストが紹介される。以下がキャスティングなんだけどさ。これから先は完全ネタバレ。

謎解きはディナーのあとで2

人物相関図。この画像をクリックしてみて、誰が犯人か予想してみてください。

北川景子
ヒロインのレイコ。超大金持ちのお嬢様。18年ぶりに父の豪華客船:プリンセスレイコ号に乗る。
櫻井翔
レイコの執事の影山。
椎名桔平
レギュラーキャラのバカ刑事。
鹿賀丈史
客船の船長。
中村雅俊
客船の客室支配人。レイコが語るには18年間勤めてきた忠実でマジメな男。
生瀬勝久
乗客:企業のボンボン息子でギャンブル狂。
宮沢りえ
乗客:商店街のクジで乗船券が手に入った一般人でギャンブル好き。
竹中直人&大倉孝二
乗客:客船に忍び込んだ泥棒。
桜庭ななみ
客船の歌手で、中村雅俊の娘。
要潤
客船の調理師。
黒谷友香
客船の船医。
甲本雅裕
客船の警備員。
児嶋一哉(アンジャッシュ)
客船のランドリー担当、非日本人。

いや、この設定とキャスティングだと中村雅俊が犯人に決まっているだろうが!18年前に何か起きてそれが動機なんでしょ?中村雅俊が登場した瞬間に中村雅俊が犯人だとわかったよ。まだ誰も死んでないけど。

ちなみにキャスティング的には鹿賀丈史が真犯人という可能性もあるけど、客船が舞台の事件で最高権限を持つ船長が犯人だとミステリーが成立しないので、鹿賀丈史は犯人じゃない。


殺人トリックのほうも酷い。「海に落とされた死体は救命胴衣を着ていた!なぜだ!?」ってトリックがあるんだけど、小学生でもない限りわかるだろう。もちろん「救助活動のために客船を止めさせるため」に決まっている。登場人物たちがこの事実に気が付かないまま「なぜ救命胴衣を着ていたのだろう?」ってクライマックスまで引っ張るので驚いたよ。

もっと酷いのは死体遺棄トリック。
死体にロープを巻きつけて、さらに膨らませた浮き輪をつなげる。浮き輪を窓に引っかければ死体は落ちないけど、浮き輪の空気を抜けば20分後に死体が落ちる。その20分の間に犯人は別の場所に移動する」
このトリック自体はありがちとはいえ、ちゃんとしている。酷いのはロープと浮き輪が都合よく海に消えてしまうのだ。どう考えてもそっちのほうが凄いトリックなんだが、このトリックが明かされることはない。

以上のように、映画の内容は完全に小中学生向け。劇場内も小中学生が多かった。嵐の桜井ファンでもない限り大人の鑑賞に耐えられるものではない。『怪物くん』の時と同じで、コメディシーンで笑う観客がいないのは辛かった。とくに竹中直人のギャグで誰も笑わないのが悲しい。

演出も壊滅的、最近のアイドル映画は演出と演技の勢いをつけるためにCG使ったりするんだけど、これが完全に逆効果。面白くも何ともない。船内のセキュリティ描写がルパンやコナンよりも酷くて緊張感が無いのも痛い。

でも好感持てるポイントもけっこう多い。上の設定一覧を見て「クジで当たったとかって、何かの陰謀だよね?」と思った人は勘が鋭い。メインプロットはバレバレだけど、ちゃんとサブプロットを仕込んでいる。サブプロットの「誰が怪盗ソロスなのか?」というネタは、俺も完全に騙された。

また伏線を貼りまくった上で全ての伏線をキレイに回収してくれる。最近のハリウッド映画は深読みする観客を引っかけるために意味のない伏線を貼ったりするけど、それが嫌いな俺には結構楽しめた。泣かせに走らないし、ダラダラしないのもいい。意外と楽しめる点も多い映画だった。

謎解きはディナーのあとで3

この映画で最高の謎は客船がシンガポールに向かう途中で花火が打ちあがるという点。海のど真ん中でどこから打ち上げていたのだろう?

『風立ちぬ』がつまらなかった…

土曜日, 7月 27th, 2013

ツイッターで呟いたので、ここにも載せておきます。

シリーズ最低作『ダイ・ハード ラスト・デイ』

日曜日, 7月 7th, 2013

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シリーズ最低の出来

俺は結構なダイハード信者で、1と2は数えきれないほど観たし3や4も大好きだ。でもダイハード5はダメだった。『ダイ・ハード』の第1作はまさに映画史に残る大傑作だし、2,3,4もそれぞれのアプローチで『ダイ・ハード』の魅力を作り出してきた。しかし第5作となる『ダイ・ハード ラスト・デイ』は、主人公の名前が「ジョン・マクレーン」ということ以外に『ダイ・ハード』たる魅力がまったく無い。ただのC級アクション映画だった。

以降は、ネタバレでストーリーを全解説。

アメリカVSロシア 史上最バカ白人対決
  • オープニングはロシアの拘置所みたいなところ。元政府高官らしきコマロフと、ロシアの高官チャガリンがいがみ合っているだけという、シリーズ史上もっとも工夫の無いオープニング
  • ジョン・マクレーンの息子、ジャックはロシアにいた。ジャックはロシアのキャバクラで人殺しをしていたのだ。人を殺す時のジャックは「コマロフの命令だ!」とわめいていた。
  • ニューヨークにいるジョン・マクレーンに「息子逮捕されて裁判」の知らせが届く。ジョン・マクレーンの娘は、兄が外国で人殺して終身刑間違いなしというのにめっちゃ平常運転。母親に至っては一瞬たりとも登場しない。といっても母親はダイ・ハード2以降、23年間も登場してないけど。
  • ジョン・マクレーンはモスクワに到着した。そこでエルビス・プレスリー好きのタクシーの運転手と面白トーク。映画として面白いのはこのシーンが最初で最後
  • 取り調べ中のジャックは「殺人の指示はコマロフから出された」と自白したので、ジャックはコマロフと同じ裁判に出ることになった。後ほどこれはウソだとわかるんだけど、収監中のコマロフとジャックが会ったことが無いのは調べればわかるよね?すぐウソだってわかるよ。
  • そんな裁判にアメリカでも超有名人のはずのジョン・マクレーンの息子が出ていたら、もっと国際的な大事件になっているはずだけどな。
  • モスクワでコマロフの裁判が始まった。収監中のコマロフは重大な内部告発をするとのことでマスコミは集まっている。コマロフの内部告発は、政府高官のチャガリンにとって都合が悪いものらしい。チャガリンはコマロフに証言させないために裁判所を襲撃する。そんな作戦ありえないだろ!
  • チャガリンのコマロフ拉致計画は恐ろしいほど杜撰なものだった。裁判所の周りに爆弾付きの車を置いて部下ごと爆発させたのだ。爆発の衝撃で、コマロフを監禁していた場所も吹っ飛んだ。これ幸いにとコマロフはそそくさと逃げ出した。計画失敗。
  • 裁判所からのコマロフの脱出をサポートしたのはジャックだった。ジャックは裁判所でコマロフを助けるために、殺人を犯したのだ。しかも確実にコマロフに会うために、殺人の依頼者を勝手にコマロフにしたのだ!何それ。

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左からジョン・マクレーン、息子ジャック、ロシア人のコマロフ。このトリオでロシアを逃げまくる。

モスクワ大暴れ
  • ジャックがコマロフと一緒に裁判所の外に出ると、そこに偶然ジョン・マクレーンがいた。「父さん!」。韓流並みの偶然。
  • ジャックとコマロフの二人はとりあえずジョン・マクレーンを置いていくが、ジョン・マクレーンがしつこかったせいで脱出が遅れてしまい二人は敵に追いつかれてしまった
  • ジャックの正体はコマロフを助けるためのCIA職員だったのだ。しかしCIAたちは「ジャックが作戦の時間より6分も遅刻した!」と大騒ぎしている。お前らチャガリンたちが裁判所を襲撃する時間まで把握していたのか?それを黙っていたのか?
  • ジョン・マクレーンも息子を追うために、善良なモスクワ市民からトラックを強奪。ジョンVSジャックVSチャガリンの部下たちの大カーチェイスが始まり、次々にモスクワ市民たちの車が犠牲になる。このカーチェイスが本作唯一の見どころなんだけど、かなりグチャグチャしていて観にくい。
  • 何とか逃げ出したジョン・マクレーン、ジャック、コマロフの三人組はCIAの隠れ家に逃げる。だがそこもチャガリンたちに襲撃され、中にいたCIA職員も殺される。ジョン・マクレーンたちは屋根を伝って逃げるという、やたら古典的な方法で逃亡する。っていうかチャガリンたちはCIAを襲撃するのに屋根を抑えてないのかよ。
  • チャガリンの狙いはコマロフが隠しているファイルだった。ファイルは20年くらい前からホテルのダンスフロアに隠してあるので、三人組はホテルへ向かう。
  • ダンスフロアには、コマロフと一緒に国外脱出するコマロフの娘もやってきた。この娘はオープニングに出てきたセクシーガールなんだけど、編集が下手すぎるのでほとんどの観客は覚えてないだろう。

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チェルノブイリで大暴れ
  • ところがなんとコマロフの娘が父親を裏切った。チャガリン側についたコマロフの娘は、父親であるコマロフを拉致してファイルをゲット。
  • チャガリンたちに武装解除されたジョン・マクレーンとジャックは大ピンチ。ここで『ダイハード1』の名シーンの繰り返しネタがある。追い詰められたジョン・マクレーンが笑い出して、テロリストたちに連られ笑いを起こさせて油断させるあのクライマックス。ところが、このシーンが本当につまらない上に緊迫感も一切ない。単に笑っただけのように見える。
  • チャガリン側はジョンとジャックのいるホテルをMi-26(ハインドの次くらいに有名なロシアのヘリコプター、通称:ヘイロー)が蜂の巣にする。ジョンとジャックはビル火災のときに使う脱出シューターで逃げる。俺はこのシーンで、『ダイハード』がC級娯楽映画までに落ちぶれたことを確信した。
  • こうして武器も車も無くなったジョンとジャックだけど、またロシア人の車を盗んだらラッキーなことにトランクに武器が満載だった!しかも拳銃じゃなくて自動小銃とかが!ラッキーにも程があるだろ。ジャックは「クラブに銃は持ち込めないから、クラブの駐車場の車は武器が入っているんだよ」とロシア豆知識を披露。
  • コマロフとチャガリンの秘密とは、彼らはかつてチェルノブイリでウランの横流しをやっていて、それがチェルノブイリ事故の原因となってしまったのだ。こうしてコマロフは何十年も刑務所に入ることになった。
  • 捕らわれているはずのコマロフが突然にチャガリンたちを殺して主導権を握る!実は全てがコマロフとコマロフの娘の壮大な計画だったのだ。コマロフの目的はウランの横流しでお金を儲けることだった。
  • コマロフはチェルノブイリに行く。チェルノブイリは放射能で汚染されているが、コマロフたちは放射能を中和するガスを持っているので大丈夫らしい。ウランの横流しなんてやらないで、そのガスを東電に売れば大儲けできるよ!
  • 車を盗んだジョンとジャックは車で数時間でチェルノブイリに到着する。モスクワとチェルノブイリは1000キロ離れているので、ありえないんだけど。
  • ジョンとジャックはコマロフの裏切りにまだ気が付いていないまま、チェルノブイリに侵入してコマロフと会話する。これも『ダイハード1』でジョン・マクレーン刑事がアラン・リックマン演じるテロリストと遭遇するシーンの繰り返し演出になっている。
  • しかしジョンとジャックはすぐにコマロフの裏切りに気がつき、コマロフを殺害する。
  • ヘイローを操縦していたコマロフの娘は父親を殺されたのでブチ切れ。コマロフの娘はビルの中にいるジョンとジャックを殺すためにヘリごとビルに突っ込むのだが、この意味不明な行動は何も報われないのでただの自殺行為だった。
  • 映画のラストシーン。チェルイノブイリを歩きながらジョンとジャックが「放射能汚染が心配だなー」「ハゲるかも!」と放射能ジョークを飛ばして映画が終わる。

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ビルに突っ込んだヘリがドーン!終わり。

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リアル・三丁目の夕日『信さん・炭坑町のセレナーデ』

日曜日, 6月 23rd, 2013

『ALWAYS 三丁目の夕日』や『フラガール』が大ヒットしていたゼロ年代後半、この2作を足しただけの企画映画『信さん・炭坑町のセレナーデ』があった。

信さん・炭坑町のセレナーデ [DVD]

うんざりする構図のポスター

ところがこの映画はかなり出来が良いし、俺も大好きな作品だ。なんせ監督は平山秀幸、脚本は鄭義信という最強コンビ(このコンビの他の作品は『愛を乞うひと』『レディ・ジョーカー』『OUT』)なのだ。そういえばこの二人の手がける作品は「これが本当の昭和だ!」なやつが多いね。

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主人公はマモルという東京から福岡の炭鉱街にやってきた小学生。マモルの母親(小雪)は福岡を出て東京で水商売やっていたが、夫の浮気が原因でマモルを連れて福岡に戻ってきた。

オシャレな襟付きの服を着ているマモルは、転校した学校内でも浮いている。マモルは一際貧しい恰好をしている男の子:リー・ヨンナムに話しかけるが、その子は日本語がわからないらしい。その子は回りから「チョーセン」といじめられていた。

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炭鉱町には子供たちのリーダーである信さんがいた。信さんは両親から折檻を受けており、生傷が絶えない。信さんはいじめられていたマモルを助けるてくれる。この事件をきっかけに信さんはマモルの母親に恋をする。

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マモルはいつもいじめられているヨンナムと仲良くなろうと、ヨンナムの家に行く。ヨンナムの家には金日成の肖像画が飾ってあった。ヨンナムは父親のリー・シゲアキ(岸部一徳)から、「絶対に日本人に手を出すな」と言われていた。

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炭鉱街では指名解雇をきっかけに町民たちの対立が始まっていた。
労働者たちの抗議活動は暴力団や警察が潰した。スト破りをする労働者たちの中にはリー・シゲアキもいたので、抗議活動をしている労働者たちはリーの裏切りにショックを受ける。

ちなみにこれは現実に起きた三井三池炭鉱争議がモデル。現実はもっと酷くて、労働者が作った労働組合と会社が作った労働組合が激突。後者に所属していた暴力団員がストをしていた組合員をドスで殺した。

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数年後、マモル(池松壮亮)はすっかり福岡の男として成長していた。ヨンナム(柄本時生)との友情は続いている。マモルと信さんの妹(金澤美穂、『容疑者Xの献身』に出てくるキラーJK)は喧嘩ばっかりしている。

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信さん(石田卓也)は小学生の頃から働き、母親(大竹しのぶ)を助けていた。信さんの目標は金を稼いで妹を高校に入れることだ。また信さんは子供の頃に恋した20歳年上のマモルの母親を今も想っている。信さんはマモルの母親のために童貞&禁風俗を貫いているので他の労働者にからかわれている。

ここまでが映画の前半。以降はネタバレです。


映画の後半はどんどん寂れていく炭鉱街を舞台に、実ることの無い人々の想いが描かれる。寂しさ漂う映画だ。『ALWAYS 三丁目の夕日』を『フラガール』足しただけと思いきや、脚本が鄭義信なので所々にハードな描写がある。史実的なハードさだけじゃなくて細かい描写もキツい。印象的なのがラストシーンだ。マモルの母親は細々とした洋品店でマモルを育てたんだけど、映画のラストシーンでマモルが母親の作るスーツをバカにして自分でスーツを買ってしまう。妙にリアルだった。アメリカ映画や現代の日本映画だったら「母親の作ってくれたスーツで就職する」が感動のラストシーンのはずなんだけどね。

鄭義信のややハードな脚本を、平山秀幸が一般ウケするように演出していて理想的な映画だ。演技陣は全員絶好調で、画像には無いが情けない男を演じる村上淳や、信さんの父親を演じる光石研も良い。

『ALWAYS 三丁目の夕日』が批判される理由として、過去の過剰な美化がある。現代と比較して昭和を「心温まる時代」のように描いているのが批判された。

脚本の鄭義信は『ALWAYS 三丁目の夕日』のアンチとして演劇『焼肉ドラゴン』(数々の演劇賞を受賞した傑作)を作った経緯がある。『信さん・炭坑町のセレナーデ』も『焼肉ドラゴン』と共通点がある。(このあと焼肉ドラゴンのネタバレ)『焼肉ドラゴン』のラストは、消えゆく町に残された死者が生者たちを見送るというもの。『信さん・炭坑町のセレナーデ』のラストシーンはその逆で、消えゆく町から出て行く生者が残された死者を想うというもの。両作とも、辛い過去を「それでも良き思い出」として結論付ける。過去を懐かしむ方法として最高の方法だ。

参考リンク

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大失敗作だけど、リアル・三丁目の夕日だけは最高に面白い。