渋谷をミサイルで攻撃する中国のヘリ!こんなシーンは劇中に無い。
- 解説前の注意事項
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幸福の科学プレゼンツの実写映画『ファイナル・ジャッジメント』が公開された。2009年の仏陀再誕以来の新作だ。解説前にまずは注意事項。この映画は色々と配慮して劇中の固有名詞を置き換えているんだけど、破壊屋ではその配慮を無視して、元の表現を使うことにします。以下がその表。
劇中の言葉 俺が勝手に置き換えた言葉 オウラン 中国 幸福維新党 幸福実現党 民友党 民主党 それでは『ファイナル・ジャッジメント』のネタバレ解説に入ります。『ファイナル・ジャッジメント』本編は中国が日本を支配する前半部分と、宗教の力で日本人が立ち上がる後半に分かれている。そして全編に渡って左翼批判と宗教賛歌にあふれている。
- 2009年 幸福実現党敗北、そして政権交代へ
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- 映画が始まる前の予告編、国会議事堂が闇に覆われる映像が流れてくる。この映像は幸福の科学が今年の秋に公開するアニメ映画『神秘の法』の予告編だった。
- 映画が始まると中国国内の自治区が出てきて、ある家族の食事風景を映している。中国は宗教を禁止にしているので「天にまします我らの父よ」と食前の祈りを捧げたら死刑。こうして、この家族の両親は処刑されて娘は引き取られていった。
- 画像はこのシーンの悲しみを歌った大川隆法作詞『振り向けば愛』のPV。ものすごく物語性のある歌詞だ。
- 10年以上経って2009年の渋谷のハチ公前広場。幸福実現党から出馬した鷲尾正悟(わしおしょうご:主人公)が「憲法9条の改正」や「我が国はミサイルを撃たれて国民が死ぬまで反撃できません!」と訴えて選挙活動しているが、日本人たちはガン無視。
- 正悟は誰も自分の演説を聞いてくれないことに無力感を感じる。その時、天から黄金に輝く羽が降りてきた。しかしそれは正悟にしか見えなかった。
- オープニングで両親を処刑された少女リンは成長して日本にいた。リンは幸福実現党の選挙活動を応援することになった。
- 幸福実現党は総選挙で惨敗する。スタッフたちは民主党の政権交代の映像を見てうなだれる。日本人たちに自分の訴えが届かなかったことに絶望しているのだ。
- だけどスタッフの一人であるのぞみは「これは神様が与えてくれた試練!」とポシティブ発言。2009年の衆議院選挙であんたらが負けた原因は、その信仰心に日本人が危機感を抱いたのと、新日本国憲法案がヤバすぎたからだって!
- 選挙に負けて活動が止まってしまった幸福実現党のスタッフたちだが、正悟はリンと恋仲になっていく。
- 正悟の親友で五反田の消防団員でもある憲三は、正悟とお互いの絆を確かめあう。二人の両親は共に左翼政党である民主党の議員で(俺が書いているんじゃなくて、劇中の設定がそうなっている)、二人とも親に反発しているという共通点があるのだ。
- 中国による侵略が始まった
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- 数年後のある日、渋谷上空に中国の戦闘機やヘリコプターたちが大量に現れ、日本は占拠された。ちなみにこの映画を観るときは「自衛隊がいるはずでしょ」「安保条約は?」「外交はどうなっているの?」といった疑問を持ってはいけない。
- どうでもいいけどこの映画には「ちくしょう!中国め!」「中国人は信用できない」「どんな手を使っても中国人を追い出すわ」といった危ないセリフがよく出てくる。(注:「中国」に置き換えるのはこのブログが勝手にやっていることであり、劇中では「オウラン」です)
- 日本を支配するのは中国人のラオ・ポルト(宍戸錠)だ。以下は日本を支配下においた中国の政策だ。
- 警察・自衛隊はオウラン人民解放軍に再編成
- 通貨は6か月以内にオウラン通貨に統一
- 第一言語はオウラン後になる
- 治安が安定するまで夜10時から翌朝5時まで外出禁止
- オウラン国では宗教活動はすべて非合法
- 国家反逆罪は死刑
- それでも日本から宗教は消えない
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- 正悟は選挙活動の仲間たちと再会する。幸福実現党のスタッフたちは地下組織のレジスタンス:ROLEとなっていたのだ。
- ROLEの隠れ家はキリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教などの宗教施設も兼ねている。もし中国にバレたら全員死刑。ところで画面の中に日本最大の宗教団体である創価学会がいなかったのが実に残念です!
- ROLEの隠れ家のボス的存在は、憲三の父親だった。憲三の父親は「人々には神を信じる心が欠けている」と日本人を批判する 。
- 民主党議員である憲三の父親は選挙の票田のために宗教団体と仲良くなろうとしてそのまま宗教にハマっていた。そして民主党議員だったという罪を償うためにROLEの隠れ家を作ったのだ。
- ROLEのメンバーでも一番信仰心が強いのぞみの両親が中国政府につかまった。信仰心を持つ両親は処刑される。信仰心を隠していたのに一体なぜバレたのか?
- ROLEのメンバーとして活躍する憲三は、ライフルを持った中国軍相手に素手や木刀で戦って、中国兵(所帯持ち)を殺したりしていた。
- そして仏の道へ
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- 正悟は憲三の父親の書斎に行き、八正道(釈迦の教え)の本を手にとる。そして大樹の元で座禅を組み悪魔との対決が始まる。
- この展開は劇中では解説されない、っていうか幸福の科学信者にとっては常識なんだけど、成道(悟りを開いて仏になること)なのだ。は釈迦の成道 のエピソードとまったく同じである(リンク先はWikipedia)。
- さて映画『ファイナル・ジャッジメント』では悪魔との対決はどのように行われるのか?まず悪魔は正悟の父親の姿でやってくる。そして悪魔と対話するんだけど…
- 悪魔との対話の内容が………左翼批判!左翼を批判するのは悪魔じゃなくて、もちろん主人公:正悟。
- 正悟の父親は民主党で売国奴として活動したことを深く後悔し「私だって左翼の被害者だ!戦後の左翼思想に侵されたのだ!」と左翼が悪いという前提で正悟の父親(悪魔)と主人公の対話が続いていく。
- 正悟は思想は違えど父親から愛されていたことを思い出し、悪魔が父親の姿をしていることを見破る。正悟が大地に指を触れると悪魔は消滅した(釈迦も同じ方法で悪魔を退けている)。
- そして正悟の肉体から魂が離れていく。そして魂は天高く飛翔して宇宙空間を飛び続ける。
- えー、ここらへんはセリフの説明が一切なくてイメージカットだけで構成されているので、普通の観客には何が起きているかサッパリわからないと思うので、俺が代わりに解説します。
- 幸福の科学の教えだと「多次元宇宙界」というのがあります。また太陽系の外側に霊界があるという考えなんですね。だから正悟の魂は宇宙空間を飛び続けて銀河系以外の星団を目指すわけです。そして最終的に「多次元宇宙界で出会った黄金色の何か」だけど、あれがエル・カンターレ(大川隆法)なわけですよ。っつーか映画観ていて解説無しで映像の意味がわかる自分にビックリしました。俺も立派な信者になれそうだなぁ。
- 救世主となる
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- 中国に弾圧され続ける憲三たちは「仏を信じているのに仏が助けてくれない」という宗教独特のジレンマに悩んでいた。だが憲三の父親がその疑問に答える。
「正悟はキリスト・イスラム・ヒンドゥーを超えて地球を救う救世主なのだ」
すげえセイブ・ザ・ワールド! - セイブ・ザ・ワールドの根拠は、2009年の幸福実現党が行った正悟の演説に世界中が感動したということらしい。ちょっと気になって政党の英名を検索してヒット数を調べてみたけれど
英語名 日本語名 検索ヒット数 Liberal Democratic Party 自民党 1,530,000 New Komeito Party 公明党 53,400 United States Marijuana Party マリファナ党(アメリカ) 44,200 The Happiness Realization Party 幸福実現党 40,900 Sports and Peace Party スポーツ平和党 38,200 2004年に解散したスポーツ平和党とドッコイドッコイだぞ。
- あと、世界中がネットで繋がる描写だけど、ネット上の動画に出てくる外国人たちはきっと稲川素子事務所の人たち。
- こうして正悟は中国に支配された日本人の心を救うべく、地下布教活動を活発させる。正悟に触れられた車イスの少女が立ち上がるなど、正悟はキリストのような力を発揮する。
- 中国に弾圧され続ける憲三たちは「仏を信じているのに仏が助けてくれない」という宗教独特のジレンマに悩んでいた。だが憲三の父親がその疑問に答える。
- 裏切り、そしてROLE壊滅
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- 正悟の布教活動中に中国軍が攻めてきた。正悟は逮捕されてROLEは壊滅する。リンが裏切ったのだ。
- リンは最初からスパイ目的で近づいていたのだ。リンはラオ・ポルトの義理の娘であり、手柄を立てて中国の党幹部になるのが目的だった。
- オープニングでリンは神様への祈りをしたために、両親が殺された。だからリンは宗教を信じなくなっていたのだ。
- ROLEの主要メンバーは憲三と五反田の消防団が中国軍と戦ってくれたおかげで脱出に成功した。
- 正悟が処刑されることが決まってしまった。ROLEのメンバーは「正悟の演説を世界中に中継する作戦」を立てる。当然ながら「処刑される奴がどうやって演説するんだよ」というツッコミが入るが、とりあえず「奇跡を信じよう」らしい。演説の場所は渋谷の交差点だ。
- 地球を救いエンディングへ
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- 正悟の処刑直前、リンは幽霊となった両親と再会して改心する。
- 正悟は処刑執行室にいる。今まさに首吊りの処刑台の床が開かれるという状況だ。どうやってリンは正悟を助けるのか?普通に連れ出すだけだった。
- 中国軍とリンのカーチェイスが始まる。いわき市にロケ用の私道を作ったらしく、低予算映画としてはかなり頑張っているカーチェイスだ。でも車を停める⇒煙幕を貼る⇒車に乗って逃げる、の流れは説得力がなさ過ぎてイマイチ。止った車のタイヤ撃てばいいのに。
- 憲三は正悟を逃がすために中国軍と戦い戦死する。
- 正悟は渋谷の交差点に到着、幸福実現党の選挙カーのお立ち台に立つ。そして地球を救う演説をする。
- 演説の内容は霊界に関することとか、祈れば天国に行けるとか、間違った思想の持ち主は地獄に落ちるとか、反省すれば助かるよとかだ。
- 演説を聞き入るのはエキストラたちなんだけど、撮影場所はいわき市なので、エキストラのほとんどがいわき市民だろう。
- 俺が劇場で観ているときは数人が泣いていたけど、俺にとっては映画に直接「破壊屋ギッチョ、お前は地獄行き!」と説教されているようなもんだ。中国倒す前に俺を倒したほうがいいんじゃない?
- 演説はさらに続く。戦争とか天変地異が起きるのは信仰心が足りないからだそうだ。そんな演説を真面目に聞くいわき市民のエキストラたち。
- 正悟の演説に感動する世界中の人々、死んだ憲三も幽霊になって正悟の隣に立つ。
- 演説が終わると正悟が拍手喝采を浴びて映画が終わる。え?これで終わりなの?
- 画面が暗転すると「人々が信仰心を持ち出し、紛争は消え、中国は民主化された」と字幕が出る。
- エンドクレジットではリンカーン大統領の霊が作詞したという歌(日本語)が流れてくる。
- エンドクレジットが終わると、幸福の科学映画恒例の信者の会社一覧表が出てくる。
- 『ファイナル・ジャッジメント』の笑いどころ
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幸福の科学映画といえば、映画館で信者に囲まれた状態で観るので、笑いをこらえるのが大変だったりする。『ファイナル・ジャッジメント』は日本が支配されるというシリアスな展開なので笑いどころはほとんど無いけど、超常現象が起きる後半では笑いをこらえるのが大変なシーンがいくつかある。
まずは正悟の父親が空から登場するシーン。登場人物が空から登場するのは、幸福の科学アニメではよくある演出。それを実写で見るとクレーンで吊るされている感が満載で笑ってしまう。わざわざ空から登場させる意味もわからない。
正悟の父親の幽霊が、正悟の演説を見るためにテレビを見ているのも笑ってしまう。幽霊なんだから直接見に行けよ!と思ってしまうが、これはまあ自分の奥さんと一緒にテレビを見たかったのだろう。
最大の笑いどころは死んだ憲三が幽霊になって幸福実現党の選挙カーに乗っているシーン。これから幸福実現党の選挙カーを見るたんびにこのシーンを思い出してしまいそうだ。
- 幸福実現党の日本独立宣言
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「勝手に言葉を置き換えるなんて酷いなぁ」って思うかもしれないれけど、架空の政党であるはずの「幸福維新党」を実在の政党「幸福実現党」に置き換えたPRビデオは本当に製作されているんだぞ!↓
このビデオは幸福実現党(実在)の党員たちがオウラン政府(架空)に処刑されるが、党首のついき秀学(実在)が脱獄して日比谷で日本独立宣言を訴える様子を、CNN(実在)や各種報道機関が報じているというモキュメンタリー。政党の宣伝のためにありもしない処刑や闘争や報道を描いており、プロパガンダだとしてもやっちゃダメなことをガンガンやっているにも関わらず、あまり問題にも思えないところがかわいらしい珍品だ。
- 反中映画としての『ファイナル・ジャッジメント』
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国名を変えているとはいえ反中描写はかなり過激だ。でもアジア映画には反日映画が多いので、『ファイナル・ジャッジメント』はそれの逆バージョンだと思えばあまり気にならない。反日・反米・反中、作品に何かを敵視する思想を入れるのは別に構わないと思う。『ファイナル・ジャッジメント』がよくないのは「俺たちの言うとおりにしないと中国が攻めてくるぞ!」と極端な思想のために、極端な思想を利用している点だ。
逆に良い点は「中国は間違っているが、中国人が間違っているわけではない」という結論に達するところ。映画のラストシーンでは中国人に対して愛を説いて中国の民主化を成功させるのだ。でも「愛こそ全て」をここまで描くのは宗教家というよりも日本のアニオタ的発想かも(この映画を企画した大川隆法の息子はアニオタで有名)。
だけど自分と違う思想と付き合うのに大切なのは、相手を変えることじゃなくて相手を理解することだろ。この映画はその視点が完全に抜け落ちている。
- 宗教映画としての『ファイナル・ジャッジメント』
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つまらない。中盤で「宗教を信じるだけでは何も救われないのか?」という難しい点に踏み込んでいるので、「これは期待できる!」と思ったけれど期待した俺がバカだった。生き仏となった主人公が演説しただけで世界が平和になっていた。「宗教を信じるだけでは何も救われないのか?」という疑問を持っていたキャラたちは演説聞いて感動しているだけだった。
ちょっと話が逸れるけど、近年の映画で宗教と信仰の問題をもっとも上手に描いた映画って『リトル・ランボー』だと思うんだよね。あの映画は宗教を否定するけど、神を信じる心は肯定するという上手い着地点に立つ。
- 『ファイナル・ジャッジメント』の見どころ
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いわき市に作ったという渋谷のスクランブル交差点のオープンセットはかなり効果的に使っていた。この映画一番の見どころだ。ロケ撮影とセット撮影の組み合わせもうまい。
過去の映画だと『容疑者 室井慎次』もいわき市に新宿のオープンセットを作っていたけど、あまり効果的に使われていなかった。『恋人はスナイパー 劇場版』(両方とも君塚良一監督作品)のように渋谷のロケ撮影が失敗している作品もあることを考えると、『ファイナル・ジャッジメント』の撮影はよく頑張ったと思う。
軍用ヘリが首都を攻めるというビジュアルはモロに『パトレイバー2』の影響で、押井守が大好きなビルにヘリが写りこむカットもあり。ここらへんも面白かった。
- リン
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リンを演じたのはスリランカ人女優のウマリ・ティラカラトナ。幸福の科学は「スリランカの有名女優」って宣伝しているけど、実際は稲川素子事務所所属の日大生だ。この女優がかわいくて良かった。
彼女は劇中でファッションがめまぐるしく変わるのが面白い。胸を強調するセーター、迷彩服、ロングスカート、浴衣、共産圏風の軍服とどれも露出が少なくて下品さがないのも良い。
リンが裏切り者という展開はかなり驚いた。某国問題を描いた映画でその某国人が裏切り者という展開は常識的にはありえないからだ。例えばハリウッド映画でアメリカを裏切るのは白人だし、反日映画の裏切り者は中国人や韓国人だ。まあリンの改心を描いてフォローしていたけど。でものぞみの両親が捕まったのってたぶんリンのせいだよなぁ。
- 最後に
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『仏陀再誕』以降の幸福の科学は、信者が1000万人以上いるはずなのに選挙で一議席も取れず大敗したり、教祖様が愛人問題起こして奥さんが週刊誌に暴露記事持ち込んだり、教祖様が離婚したので教義内容が変わったり、教祖様がネバダ州の秘密記事に心霊潜入したという本を定価1万円で買わされたりと、いろいろ大変だ。本当に信仰心を問われているのは俺たち一般の日本人よりも幸福の科学の信者だと思う。
- オマケ
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ファイナル・ジャッジメントのラブソング『振り向けば愛』だけど、歌詞をよく見ると「Play a role in the Army(入隊して役割を果たそう)」だ。この映画を応援するのは、試写会で『ファイナル・ジャッジメント』を観たという故・丹波哲郎。まさに死者会。