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映画が始まってすぐに謎が解ける『謎解きはディナーのあとで』

月曜日, 9月 23rd, 2013

謎解きはディナーのあとで1

『謎解きはディナーのあとで』

極端に出来の悪いミステリーだと最初に殺人事件が起きる前に犯人がわかってしまうけど、本作がまさにそれだった。俺は最初の10分でわかったけれど、勘の良い人は設定とキャスティングだけでわかるんじゃないかな?

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設定は豪華客船内の殺人事件。

『謎解きはディナーのあとで』の予告編では「犯人は必ずこの中にいます」と言いながら、この映画の豪華キャストが紹介される。以下がキャスティングなんだけどさ。これから先は完全ネタバレ。

謎解きはディナーのあとで2

人物相関図。この画像をクリックしてみて、誰が犯人か予想してみてください。

北川景子
ヒロインのレイコ。超大金持ちのお嬢様。18年ぶりに父の豪華客船:プリンセスレイコ号に乗る。
櫻井翔
レイコの執事の影山。
椎名桔平
レギュラーキャラのバカ刑事。
鹿賀丈史
客船の船長。
中村雅俊
客船の客室支配人。レイコが語るには18年間勤めてきた忠実でマジメな男。
生瀬勝久
乗客:企業のボンボン息子でギャンブル狂。
宮沢りえ
乗客:商店街のクジで乗船券が手に入った一般人でギャンブル好き。
竹中直人&大倉孝二
乗客:客船に忍び込んだ泥棒。
桜庭ななみ
客船の歌手で、中村雅俊の娘。
要潤
客船の調理師。
黒谷友香
客船の船医。
甲本雅裕
客船の警備員。
児嶋一哉(アンジャッシュ)
客船のランドリー担当、非日本人。

いや、この設定とキャスティングだと中村雅俊が犯人に決まっているだろうが!18年前に何か起きてそれが動機なんでしょ?中村雅俊が登場した瞬間に中村雅俊が犯人だとわかったよ。まだ誰も死んでないけど。

ちなみにキャスティング的には鹿賀丈史が真犯人という可能性もあるけど、客船が舞台の事件で最高権限を持つ船長が犯人だとミステリーが成立しないので、鹿賀丈史は犯人じゃない。


殺人トリックのほうも酷い。「海に落とされた死体は救命胴衣を着ていた!なぜだ!?」ってトリックがあるんだけど、小学生でもない限りわかるだろう。もちろん「救助活動のために客船を止めさせるため」に決まっている。登場人物たちがこの事実に気が付かないまま「なぜ救命胴衣を着ていたのだろう?」ってクライマックスまで引っ張るので驚いたよ。

もっと酷いのは死体遺棄トリック。
死体にロープを巻きつけて、さらに膨らませた浮き輪をつなげる。浮き輪を窓に引っかければ死体は落ちないけど、浮き輪の空気を抜けば20分後に死体が落ちる。その20分の間に犯人は別の場所に移動する」
このトリック自体はありがちとはいえ、ちゃんとしている。酷いのはロープと浮き輪が都合よく海に消えてしまうのだ。どう考えてもそっちのほうが凄いトリックなんだが、このトリックが明かされることはない。

以上のように、映画の内容は完全に小中学生向け。劇場内も小中学生が多かった。嵐の桜井ファンでもない限り大人の鑑賞に耐えられるものではない。『怪物くん』の時と同じで、コメディシーンで笑う観客がいないのは辛かった。とくに竹中直人のギャグで誰も笑わないのが悲しい。

演出も壊滅的、最近のアイドル映画は演出と演技の勢いをつけるためにCG使ったりするんだけど、これが完全に逆効果。面白くも何ともない。船内のセキュリティ描写がルパンやコナンよりも酷くて緊張感が無いのも痛い。

でも好感持てるポイントもけっこう多い。上の設定一覧を見て「クジで当たったとかって、何かの陰謀だよね?」と思った人は勘が鋭い。メインプロットはバレバレだけど、ちゃんとサブプロットを仕込んでいる。サブプロットの「誰が怪盗ソロスなのか?」というネタは、俺も完全に騙された。

また伏線を貼りまくった上で全ての伏線をキレイに回収してくれる。最近のハリウッド映画は深読みする観客を引っかけるために意味のない伏線を貼ったりするけど、それが嫌いな俺には結構楽しめた。泣かせに走らないし、ダラダラしないのもいい。意外と楽しめる点も多い映画だった。

謎解きはディナーのあとで3

この映画で最高の謎は客船がシンガポールに向かう途中で花火が打ちあがるという点。海のど真ん中でどこから打ち上げていたのだろう?

シリーズ最低作『ダイ・ハード ラスト・デイ』

日曜日, 7月 7th, 2013

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シリーズ最低の出来

俺は結構なダイハード信者で、1と2は数えきれないほど観たし3や4も大好きだ。でもダイハード5はダメだった。『ダイ・ハード』の第1作はまさに映画史に残る大傑作だし、2,3,4もそれぞれのアプローチで『ダイ・ハード』の魅力を作り出してきた。しかし第5作となる『ダイ・ハード ラスト・デイ』は、主人公の名前が「ジョン・マクレーン」ということ以外に『ダイ・ハード』たる魅力がまったく無い。ただのC級アクション映画だった。

以降は、ネタバレでストーリーを全解説。

アメリカVSロシア 史上最バカ白人対決
  • オープニングはロシアの拘置所みたいなところ。元政府高官らしきコマロフと、ロシアの高官チャガリンがいがみ合っているだけという、シリーズ史上もっとも工夫の無いオープニング
  • ジョン・マクレーンの息子、ジャックはロシアにいた。ジャックはロシアのキャバクラで人殺しをしていたのだ。人を殺す時のジャックは「コマロフの命令だ!」とわめいていた。
  • ニューヨークにいるジョン・マクレーンに「息子逮捕されて裁判」の知らせが届く。ジョン・マクレーンの娘は、兄が外国で人殺して終身刑間違いなしというのにめっちゃ平常運転。母親に至っては一瞬たりとも登場しない。といっても母親はダイ・ハード2以降、23年間も登場してないけど。
  • ジョン・マクレーンはモスクワに到着した。そこでエルビス・プレスリー好きのタクシーの運転手と面白トーク。映画として面白いのはこのシーンが最初で最後
  • 取り調べ中のジャックは「殺人の指示はコマロフから出された」と自白したので、ジャックはコマロフと同じ裁判に出ることになった。後ほどこれはウソだとわかるんだけど、収監中のコマロフとジャックが会ったことが無いのは調べればわかるよね?すぐウソだってわかるよ。
  • そんな裁判にアメリカでも超有名人のはずのジョン・マクレーンの息子が出ていたら、もっと国際的な大事件になっているはずだけどな。
  • モスクワでコマロフの裁判が始まった。収監中のコマロフは重大な内部告発をするとのことでマスコミは集まっている。コマロフの内部告発は、政府高官のチャガリンにとって都合が悪いものらしい。チャガリンはコマロフに証言させないために裁判所を襲撃する。そんな作戦ありえないだろ!
  • チャガリンのコマロフ拉致計画は恐ろしいほど杜撰なものだった。裁判所の周りに爆弾付きの車を置いて部下ごと爆発させたのだ。爆発の衝撃で、コマロフを監禁していた場所も吹っ飛んだ。これ幸いにとコマロフはそそくさと逃げ出した。計画失敗。
  • 裁判所からのコマロフの脱出をサポートしたのはジャックだった。ジャックは裁判所でコマロフを助けるために、殺人を犯したのだ。しかも確実にコマロフに会うために、殺人の依頼者を勝手にコマロフにしたのだ!何それ。

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左からジョン・マクレーン、息子ジャック、ロシア人のコマロフ。このトリオでロシアを逃げまくる。

モスクワ大暴れ
  • ジャックがコマロフと一緒に裁判所の外に出ると、そこに偶然ジョン・マクレーンがいた。「父さん!」。韓流並みの偶然。
  • ジャックとコマロフの二人はとりあえずジョン・マクレーンを置いていくが、ジョン・マクレーンがしつこかったせいで脱出が遅れてしまい二人は敵に追いつかれてしまった
  • ジャックの正体はコマロフを助けるためのCIA職員だったのだ。しかしCIAたちは「ジャックが作戦の時間より6分も遅刻した!」と大騒ぎしている。お前らチャガリンたちが裁判所を襲撃する時間まで把握していたのか?それを黙っていたのか?
  • ジョン・マクレーンも息子を追うために、善良なモスクワ市民からトラックを強奪。ジョンVSジャックVSチャガリンの部下たちの大カーチェイスが始まり、次々にモスクワ市民たちの車が犠牲になる。このカーチェイスが本作唯一の見どころなんだけど、かなりグチャグチャしていて観にくい。
  • 何とか逃げ出したジョン・マクレーン、ジャック、コマロフの三人組はCIAの隠れ家に逃げる。だがそこもチャガリンたちに襲撃され、中にいたCIA職員も殺される。ジョン・マクレーンたちは屋根を伝って逃げるという、やたら古典的な方法で逃亡する。っていうかチャガリンたちはCIAを襲撃するのに屋根を抑えてないのかよ。
  • チャガリンの狙いはコマロフが隠しているファイルだった。ファイルは20年くらい前からホテルのダンスフロアに隠してあるので、三人組はホテルへ向かう。
  • ダンスフロアには、コマロフと一緒に国外脱出するコマロフの娘もやってきた。この娘はオープニングに出てきたセクシーガールなんだけど、編集が下手すぎるのでほとんどの観客は覚えてないだろう。

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チェルノブイリで大暴れ
  • ところがなんとコマロフの娘が父親を裏切った。チャガリン側についたコマロフの娘は、父親であるコマロフを拉致してファイルをゲット。
  • チャガリンたちに武装解除されたジョン・マクレーンとジャックは大ピンチ。ここで『ダイハード1』の名シーンの繰り返しネタがある。追い詰められたジョン・マクレーンが笑い出して、テロリストたちに連られ笑いを起こさせて油断させるあのクライマックス。ところが、このシーンが本当につまらない上に緊迫感も一切ない。単に笑っただけのように見える。
  • チャガリン側はジョンとジャックのいるホテルをMi-26(ハインドの次くらいに有名なロシアのヘリコプター、通称:ヘイロー)が蜂の巣にする。ジョンとジャックはビル火災のときに使う脱出シューターで逃げる。俺はこのシーンで、『ダイハード』がC級娯楽映画までに落ちぶれたことを確信した。
  • こうして武器も車も無くなったジョンとジャックだけど、またロシア人の車を盗んだらラッキーなことにトランクに武器が満載だった!しかも拳銃じゃなくて自動小銃とかが!ラッキーにも程があるだろ。ジャックは「クラブに銃は持ち込めないから、クラブの駐車場の車は武器が入っているんだよ」とロシア豆知識を披露。
  • コマロフとチャガリンの秘密とは、彼らはかつてチェルノブイリでウランの横流しをやっていて、それがチェルノブイリ事故の原因となってしまったのだ。こうしてコマロフは何十年も刑務所に入ることになった。
  • 捕らわれているはずのコマロフが突然にチャガリンたちを殺して主導権を握る!実は全てがコマロフとコマロフの娘の壮大な計画だったのだ。コマロフの目的はウランの横流しでお金を儲けることだった。
  • コマロフはチェルノブイリに行く。チェルノブイリは放射能で汚染されているが、コマロフたちは放射能を中和するガスを持っているので大丈夫らしい。ウランの横流しなんてやらないで、そのガスを東電に売れば大儲けできるよ!
  • 車を盗んだジョンとジャックは車で数時間でチェルノブイリに到着する。モスクワとチェルノブイリは1000キロ離れているので、ありえないんだけど。
  • ジョンとジャックはコマロフの裏切りにまだ気が付いていないまま、チェルノブイリに侵入してコマロフと会話する。これも『ダイハード1』でジョン・マクレーン刑事がアラン・リックマン演じるテロリストと遭遇するシーンの繰り返し演出になっている。
  • しかしジョンとジャックはすぐにコマロフの裏切りに気がつき、コマロフを殺害する。
  • ヘイローを操縦していたコマロフの娘は父親を殺されたのでブチ切れ。コマロフの娘はビルの中にいるジョンとジャックを殺すためにヘリごとビルに突っ込むのだが、この意味不明な行動は何も報われないのでただの自殺行為だった。
  • 映画のラストシーン。チェルイノブイリを歩きながらジョンとジャックが「放射能汚染が心配だなー」「ハゲるかも!」と放射能ジョークを飛ばして映画が終わる。

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ビルに突っ込んだヘリがドーン!終わり。

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リアル・三丁目の夕日『信さん・炭坑町のセレナーデ』

日曜日, 6月 23rd, 2013

『ALWAYS 三丁目の夕日』や『フラガール』が大ヒットしていたゼロ年代後半、この2作を足しただけの企画映画『信さん・炭坑町のセレナーデ』があった。

信さん・炭坑町のセレナーデ [DVD]

うんざりする構図のポスター

ところがこの映画はかなり出来が良いし、俺も大好きな作品だ。なんせ監督は平山秀幸、脚本は鄭義信という最強コンビ(このコンビの他の作品は『愛を乞うひと』『レディ・ジョーカー』『OUT』)なのだ。そういえばこの二人の手がける作品は「これが本当の昭和だ!」なやつが多いね。

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主人公はマモルという東京から福岡の炭鉱街にやってきた小学生。マモルの母親(小雪)は福岡を出て東京で水商売やっていたが、夫の浮気が原因でマモルを連れて福岡に戻ってきた。

オシャレな襟付きの服を着ているマモルは、転校した学校内でも浮いている。マモルは一際貧しい恰好をしている男の子:リー・ヨンナムに話しかけるが、その子は日本語がわからないらしい。その子は回りから「チョーセン」といじめられていた。

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炭鉱町には子供たちのリーダーである信さんがいた。信さんは両親から折檻を受けており、生傷が絶えない。信さんはいじめられていたマモルを助けるてくれる。この事件をきっかけに信さんはマモルの母親に恋をする。

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マモルはいつもいじめられているヨンナムと仲良くなろうと、ヨンナムの家に行く。ヨンナムの家には金日成の肖像画が飾ってあった。ヨンナムは父親のリー・シゲアキ(岸部一徳)から、「絶対に日本人に手を出すな」と言われていた。

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炭鉱街では指名解雇をきっかけに町民たちの対立が始まっていた。
労働者たちの抗議活動は暴力団や警察が潰した。スト破りをする労働者たちの中にはリー・シゲアキもいたので、抗議活動をしている労働者たちはリーの裏切りにショックを受ける。

ちなみにこれは現実に起きた三井三池炭鉱争議がモデル。現実はもっと酷くて、労働者が作った労働組合と会社が作った労働組合が激突。後者に所属していた暴力団員がストをしていた組合員をドスで殺した。

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数年後、マモル(池松壮亮)はすっかり福岡の男として成長していた。ヨンナム(柄本時生)との友情は続いている。マモルと信さんの妹(金澤美穂、『容疑者Xの献身』に出てくるキラーJK)は喧嘩ばっかりしている。

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信さん(石田卓也)は小学生の頃から働き、母親(大竹しのぶ)を助けていた。信さんの目標は金を稼いで妹を高校に入れることだ。また信さんは子供の頃に恋した20歳年上のマモルの母親を今も想っている。信さんはマモルの母親のために童貞&禁風俗を貫いているので他の労働者にからかわれている。

ここまでが映画の前半。以降はネタバレです。


映画の後半はどんどん寂れていく炭鉱街を舞台に、実ることの無い人々の想いが描かれる。寂しさ漂う映画だ。『ALWAYS 三丁目の夕日』を『フラガール』足しただけと思いきや、脚本が鄭義信なので所々にハードな描写がある。史実的なハードさだけじゃなくて細かい描写もキツい。印象的なのがラストシーンだ。マモルの母親は細々とした洋品店でマモルを育てたんだけど、映画のラストシーンでマモルが母親の作るスーツをバカにして自分でスーツを買ってしまう。妙にリアルだった。アメリカ映画や現代の日本映画だったら「母親の作ってくれたスーツで就職する」が感動のラストシーンのはずなんだけどね。

鄭義信のややハードな脚本を、平山秀幸が一般ウケするように演出していて理想的な映画だ。演技陣は全員絶好調で、画像には無いが情けない男を演じる村上淳や、信さんの父親を演じる光石研も良い。

『ALWAYS 三丁目の夕日』が批判される理由として、過去の過剰な美化がある。現代と比較して昭和を「心温まる時代」のように描いているのが批判された。

脚本の鄭義信は『ALWAYS 三丁目の夕日』のアンチとして演劇『焼肉ドラゴン』(数々の演劇賞を受賞した傑作)を作った経緯がある。『信さん・炭坑町のセレナーデ』も『焼肉ドラゴン』と共通点がある。(このあと焼肉ドラゴンのネタバレ)『焼肉ドラゴン』のラストは、消えゆく町に残された死者が生者たちを見送るというもの。『信さん・炭坑町のセレナーデ』のラストシーンはその逆で、消えゆく町から出て行く生者が残された死者を想うというもの。両作とも、辛い過去を「それでも良き思い出」として結論付ける。過去を懐かしむ方法として最高の方法だ。

参考リンク

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大失敗作だけど、リアル・三丁目の夕日だけは最高に面白い。

『夢売るふたり』のラストシーンについて

火曜日, 9月 25th, 2012

夢売るふたり

『夢売るふたり』を観たけど、すごく良かった。阿部サダヲと松たか子演じる夫婦が結婚詐欺(実際はちょっと違う)に手を染めるというストーリー。脚本・監督である西川美和が初の女性映画を撮ったんだけど、西川美和の女性の人生を見つめる視点が怖すぎるよ。特に巨漢の女性:ひとみ(江原由夏という女優が好演!)のエピソードが素晴らしく、彼女に関するセリフ全部に体中がゾワゾワする感覚を味わった。

さて、この映画のラストシーンはちょっとわかりにくい終わり方なんだけど、俺なりの解釈を書きます。ネットをちょっと調べた感じでは俺と同じ解釈の人がいないので、あまり本気にせず読んでください。以下ネタバレ。


注:完全なネタバレです!


映画のラストシーンには伏線があって、それは松たか子がドブネズミを凝視するシーンだ。詐欺に手を染めてお金を稼いだ阿部サダヲと松たか子は、念願のスカイツリーが見える店舗の購入と改築にこぎつける。二人の夢が叶いそうになる一方で、松たか子はその状況に不安を感じている。そんな時に松たか子がドブネズミを見つけてじーっと見つめるのだ。このドブネズミは松たか子の状況のメタファーだと思う。松たか子は不衛生でコソコソ生きるドブネズミが自分の姿であることに気が付いたのかもしれない。

そしてラストシーン、刑務所に入った阿部サダヲは見えるはずの無いカモメを見る(感じる)。空を飛ぶカモメは希望のメタファーなのかな、阿部サダヲにはまだ希望が残っているのかもしれない。そして同じく港でカモメを見る松たか子、つまりこの夫婦にはまだ通じ合う部分が………と言いたいところだけど、映画のファイナルカットで松たか子が見るのはカモメじゃあない。観客と目が合うんだよ。

『夢売るふたり』は全編に渡って松たか子の視線がポイントになるんだけど、最後に松たか子が観るのが観客なんだよね。登場人物の謎の視線で終わるという点では同じ西川美和作品の『ゆれる』と似ているんだけど、『ゆれる』と違って物語的な深い意味は無いと思う。劇中で松たか子はずっと他人の人生を見続けてきた。ラストシーンで観客はそんな松たか子に自分も見られるという不思議な感覚を味わせられるのだ。

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バトルシップ

水曜日, 9月 5th, 2012
バトルシップ

バトルシップ

宇宙戦艦に立ち向かう男(バカ)の背中!

最高のバカ映画

この映画は大スクリーンで観ろ!じゃなきゃDVDで何か他のことしながら適当に観ろ!と言いたくなるほど豪快かつ単純で中身の無い映画だった。DVDが発売されるということなので、ストーリーを最後まで紹介しますが、いかんせん観たのがだいぶ前なのでかなり省略してます。

状況説明

映画が始まるといきなり小学生SFのような以下の字幕が出てくる。

「地球外生命体を探すために5倍強い電波を発信するビーコンプロジェクトが始まった」

次に科学者が出てきて

「例えば地球外生命体がコロンブスで、俺たちが先住民だったら?」

と言うので、この映画の状況説明は完了した。こうして宇宙人と地球人が戦うのだ!便利だなぁ、先住民虐殺の歴史って。

ハワイでニート

ハワイに住むとある兄弟。兄:ストーンはアメリカ海軍の立派な軍人という死亡フラグが立っている男。弟:アレックスは主人公でニート。アレックスは今日も兄から説教を受けている………最中にブロンド美女を見つけたために兄を無視してブロンド美女をナンパ。美女が「ブリトー食べたい」と言ったために、閉店後のコンビニを破壊してブリトーを購入する。料金はきちんと置いているんだけど、コンビニは破壊されたために見事逮捕される。

ニート出世

場面が代わって5年後、ニートのアレックスは海軍の戦略下士官になっていてブロンド美女と結婚前提で付き合っていた。立派なお兄さんはあまりにも立派すぎるので艦長になっていた。この映画をテレビで放映したら「おいおい、いくら何でもカットしすぎだろ!展開早すぎ!」というツッコミが多そうだけど、ここらへんの展開は全部ノーカットだ。

ハワイで環太平洋合同演習(リムパック)が始まった。アレックスは艦隊の記念式典にバッチシ遅刻した上に、そこらへんのガキに戦艦がいかに強いかを得意げに説明したため大遅刻する。アレックスは相変わらず人間のクズだった。

日本人襲来

日本の自衛隊とアメリカ軍の親善サッカー試合が始まった。卑怯な戦略に定評のある日本人たちが優勢だった上に、浅野忠信がアレックスの顔面に蹴りを入れる。浅野忠信は自衛隊の護衛艦みょうこうの艦長という設定だ。

日本チームとアメリカチームの戦いの行方だが、チームプレイがとても大切であるはずのサッカーにおいて仲間と協力するという発想がないアレックスのせいでアメリカの敗北

試合後にアレックスは浅野とトイレで鉢合わせたので、その場で殴り合いの大ゲンカが始まる。この映画のプロットにはツッコミどころが多いけれど「まあ宇宙人が攻めてくる映画だし」の一言で片づけられるもんだけど、アメリカ軍の戦略下士官と自衛隊の艦長という役職の高い2人がトイレで殴り合うっていう展開だけは、ありえないだろう。

数々の問題を起こしてきたアレックスは演習後の解任が決定となる。

宇宙人襲来

リムパックの演習が始まったが、そのとき真珠湾南に宇宙からの巨大飛来物がやってくる。飛来物の調査に米軍の駆逐艦ジョン・ポール・ジョーンズ(以下:JPJ)とサンプソン、自衛隊のみょうこうの日米合同駆逐艦隊が向かう。サンプソンの艦長はアレックスのお兄さんだ。だがアレックスが勝手に飛来物に触ったところ飛来物が動作を開始した。

飛来物は広大な無敵バリアを張り巡らし、日米合同駆逐艦隊は主力艦隊から孤立してバリア内に閉じ込められてしまった。そんなすごい無敵バリアは飛来物の周囲に張るべきであって、バリアー内に日米合同駆逐艦隊がいたらバリアーの意味が無いと思うのだが。

愛の戦士たち

こうしてバリアー内で宇宙戦艦3隻VS日米合同駆逐艦隊の戦いが始まるのだが、圧倒的火力を持つ宇宙人戦艦はサンプソンとみょうこうをあっという間に撃沈。正直どうやって勝つんだ?感じなんだけど、「宇宙人は攻撃してくる脅威に対して反撃する。」というルールで動いていることが判明するので、観客視点で言わせて貰えれば何とかなりそう。どうやってルールが判明するかというと、脅威は赤色で非脅威は緑色で表示するので3歳でもわかるレベル

お兄さんは何もしないまま戦死し、浅野忠信たち日本人は海に投げ出された。JPJも被弾し、JPJの艦長・副館長は死んだ。もう瀕死の状態の日米合同駆逐艦隊だけど、さらに最悪なことが起きる。階級上、JPJの艦長を務めるのはバカのアレックスなのだ。

観客の「何もしなければいいんじゃないの?」という意思を無視して、バカのアレックスは残ったJPJで宇宙戦艦に特攻するという宇宙戦艦ヤマトみたいな作戦を思いつく。部下たちの「それよりもみょうこうから落ちた日本人たちを助けるべきでは」という意見を無視して、バカのアレックスはガンガン特攻!部下たちがキレ気味になってきたので、アレックスは仕方なく日本人たちを助ける。その中には浅野忠信もいた。

津波も宇宙人も日本人なら戦える

何もしなければ宇宙戦艦は攻撃してこないので、みんなとりあえず休憩。宇宙戦艦にミサイルを当てるには宇宙戦艦の位置解析が必要だ。浅野忠信は津波検知用ブイを使えば波の揺れで宇宙戦艦を検知できると提案。というか自衛隊はアメリカとの演習でもこっそりとそのブイを使って有利に戦っていたのだ!さすが卑怯な日本人。

アメリカ人たちが浅野忠信の意見に全面的に従ったところ、JPJはみごとに宇宙戦艦にミサイルを当てる。

アレックスは日本人の優秀さに感心して艦長の職を浅野忠信に譲る。同盟国とはいえ、他国の艦長に指揮権を投げるなんてありえないだろ!

地球ではオマエの悲鳴は聞こえない

アレックスたちは捕まえた宇宙人を調べる。宇宙人の目が爬虫類っぽいことから爬虫類好きの下士官が「太陽の光に弱いはず!」とアドバイス。っていうかマスクをしている時点でマスクが弱点だよね?『ダークナイト・ライジング』のべインにも同じツッコミが言えるけど。まあ映画『サイン』のように、リンク先『サイン』のネタバレ

ちなみに宇宙戦艦の動きは人間でいうところのバタフライなので波も音もすごくデカいので検知しやすいと思う。さらに宇宙戦艦で遠距離攻撃ができるのは歯車攻撃のみで、ほかの攻撃は全部視界の範囲でしか当たらない。宇宙人に至っては接近戦しかできない。あのー宇宙人ってもしかして弱い?さらに宇宙人の判断基準は「攻撃が自分に向いてない=安全」なので、人間からしょっちゅう反撃食らう羽目に。

明日に向かって撃て!

アレックスが宇宙戦艦を倒す作戦を立てた。日の出に合わせて宇宙戦艦の操縦席っぽい窓を銃で狙撃すれば大ダメージだ!
「あ、その程度で倒せるんだ」
という観客のガックリ感はさておき、この作戦は何の伏線も貼っていなかったけど実は狙撃の達人だったアレックスと浅野忠信がライフル構えて寝そべって「うふふ」「あはは」みたいに友情を高めあいながら発砲したことにより大成功(アレックスが成長して仲間と協力するようになったことを意味するシーンでもある)。こうして宇宙戦艦は撃沈する。しかし宇宙人の歯車攻撃によりJPJもついに撃沈する。

全ての戦力を失ったアレックスだが彼は諦めなかった。今は退役して観光船となった戦艦ミズーリを復活させるのだ!ついでに退役した元軍人の老人たちも復活!正直、このシーンが全然盛り上がらないのがこの映画の最大の欠点だと思います。なんでこのシーンで思いっきり興ざめしてしまうのだろう。伏線もちゃんと貼ってあるんだけどなぁ。

まあこのあと色々あってアレックスたちが宇宙人に勝ちます。以上、ストーリー解説終わり。

サイドストーリー

アレックスのバカっぷりが際立っているので、他の登場人物が紹介できなかったけれど、サイドストーリーとして黒人とユダヤ人が力を合わせて宇宙人と戦うという『インディペンデンス・デイ』と同じパターンの物語があったりして、そっちもかなり面白い。『インディペンデンス・デイ』の黒人とユダヤ人の描かれ方が「アメリカ的良心を持った男性たち」になっているのに対して、『バトルシップ』だと黒人=怖くて近寄りがたい男、ユダヤ人=臆病者で逃げ出す男という酷い描き方。でもまあ白人=バカ、日本人=卑怯者、スコットランド人=田舎のバカといろんな人種がそれなりにバカにされている映画なので、問題視する観客はいないはず。

他にも主人公のブロンド美女の彼女や、その厳しすぎる父親のリーアム・ニーソンや、優秀すぎる兄(スウェーデン人の役者なので、弟と人種が違う)などおいしいキャラが一杯いるけど、一番注目したいのは痩せすぎていて軍人に見えないリアーナ!『バトルシップ』は今年のサマーソニックのトリを飾ったリアーナの女優デビュー作だ。超大物歌手なのに実写スト2でキャミィを演じて女優デビューが大失敗に終わったカイリー・ミノーグよりかはずっと賢い出演作選びだと思う。

バトルシップ

『インディペンデンス・デイ』の主役コンビ。

アレックス

この映画で戦闘シーン以外の最大の特徴とも言えるアレックス、演じるテイラー・キッチュは同時期に歴史的大赤字をひり出した『ジョン・カーター』でもいきなり宇宙人を殺す男を演じていて、宇宙人が地球にやったらもっとも封印しておくべき男だと思います。

日本の扱い

俺がこのストーリーで一番驚いたのは、主人公が日本人に艦長の職を譲るシーンだった。「白人の主人公がマイノリティのために活躍の場を譲る」っていうパターンの映画はすごく多いんだけど、それはあくまでも「同じアメリカ市民だから」ということを意味している。でも他国の人間に「艦長」という責任が極めて強い職を譲るというのは、本当に驚かされた。俺はこのシーンを観たとき
「もしかして『グラン・トリノ』のラストシーン並みにすごい瞬間を目撃したのでは?うん、それは無いな、ただのバカシーンだ」
と自分を納得させたよ。

でも最初に「中身が無い」って書いたけど、意外と今の日米関係が見えてくる作品かもしれない。日中韓が海上の領土問題で揺れている今この時期に『バトルシップ2』が作られたらどういう設定になるのだろう?二回連続日本人を活躍させるはずはないので、他の国になると思うんだけど………韓国海軍だったりして。韓国国内では日本が活躍する『バトルシップ』はやはり反感を買っていて、監督がソウルの記者会見で続編にイ・ビョンホンを出すと言い訳したんだよね。

ちなみに最後に大活躍する戦艦ミズーリは日本の降伏文書調印式が行われた戦艦だ。

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