『夢売るふたり』のラストシーンについて

夢売るふたり

『夢売るふたり』を観たけど、すごく良かった。阿部サダヲと松たか子演じる夫婦が結婚詐欺(実際はちょっと違う)に手を染めるというストーリー。脚本・監督である西川美和が初の女性映画を撮ったんだけど、西川美和の女性の人生を見つめる視点が怖すぎるよ。特に巨漢の女性:ひとみ(江原由夏という女優が好演!)のエピソードが素晴らしく、彼女に関するセリフ全部に体中がゾワゾワする感覚を味わった。

さて、この映画のラストシーンはちょっとわかりにくい終わり方なんだけど、俺なりの解釈を書きます。ネットをちょっと調べた感じでは俺と同じ解釈の人がいないので、あまり本気にせず読んでください。以下ネタバレ。


注:完全なネタバレです!


映画のラストシーンには伏線があって、それは松たか子がドブネズミを凝視するシーンだ。詐欺に手を染めてお金を稼いだ阿部サダヲと松たか子は、念願のスカイツリーが見える店舗の購入と改築にこぎつける。二人の夢が叶いそうになる一方で、松たか子はその状況に不安を感じている。そんな時に松たか子がドブネズミを見つけてじーっと見つめるのだ。このドブネズミは松たか子の状況のメタファーだと思う。松たか子は不衛生でコソコソ生きるドブネズミが自分の姿であることに気が付いたのかもしれない。

そしてラストシーン、刑務所に入った阿部サダヲは見えるはずの無いカモメを見る(感じる)。空を飛ぶカモメは希望のメタファーなのかな、阿部サダヲにはまだ希望が残っているのかもしれない。そして同じく港でカモメを見る松たか子、つまりこの夫婦にはまだ通じ合う部分が………と言いたいところだけど、映画のファイナルカットで松たか子が見るのはカモメじゃあない。観客と目が合うんだよ。

『夢売るふたり』は全編に渡って松たか子の視線がポイントになるんだけど、最後に松たか子が観るのが観客なんだよね。登場人物の謎の視線で終わるという点では同じ西川美和作品の『ゆれる』と似ているんだけど、『ゆれる』と違って物語的な深い意味は無いと思う。劇中で松たか子はずっと他人の人生を見続けてきた。ラストシーンで観客はそんな松たか子に自分も見られるという不思議な感覚を味わせられるのだ。

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