『そして父になる』は良作だった。辛い題材でも観客のストレスにならないように細心の注意を払って演出されている。
ところで『そして父になる』と2006年のアメリカのSFコメディ映画『もしも昨日が選べたら』は似ている作品だ。題材も雰囲気もまったく違う両作だけど共通点がやたら多い。
今回のエントリは『そして父になる』と『もしも昨日が選べたら』の同時ネタバレという酷いエントリなので注意。まずは『そして父になる』から。
『そして父になる』のオープニングはお受験の面接から始まる。福山雅治演じる父親:野々宮と6歳に面接官が尋ねる。
「お父さんはどんな人?」
「夏にいっしょにキャンプしました」
お受験面接が終わり、野々宮は息子に尋ねる。
「キャンプ行ってないよな?」
「だって塾の先生がそう言ったほうがいいって教えてくれた」
「へーそんなことまで教えてくれるんだ」
野々宮は、息子に一流の道を歩ませようと教育熱心だ。といっても実際の教育は母親に任せきり。本人は土日も仕事を入れている。
『そして父になる』は富裕層である野々宮と子供の取り違い先である低所得層の家族との対比描写が濃厚で、そこが見どころだ。低所得者層の父親を演じるのはリリー・フランキーだ。彼は社会人としてはイマイチな男だけど、少なくとも子供と本気で向き合っている。
ここからガチのネタバレ
二つの家族は中盤で子供を交換する。ここで野々宮は最大の難関にブチ当たる。血が繋がっているだけで実際は他人同然の子供に父親として接する必要があるのだ。野々宮は土日は休むことにして「どうやって父親として接すればいいのだろう?」と考えるようになる。この問題は時間が解決してくれた。交換した息子が野々宮にジャレつこうと遊びかかってくるのだ。
さらに野々宮は家族を結びつけるためにテントを購入し、キャンプの練習をする。そこで気が付くのだ。交換した今までの子供に対して自分が父親でなかったことを。そして父親になるために、野々宮は今までの子供に会いに行く。これが『そして父になる』のクライマックスだ。
話は変わって、『もしも昨日が選べたら』は自分の生活が魔法のリモコンで操作できるようになるSFコメディ映画だ。
主人公はアダム・サンドラー演じる男で、彼は父親が低所得者(というかヒッピー)だったことがコンプレックスになっている。特にトラウマとなっているのはキャンプだ。子供のころのサマーキャンプでテントを使っているのは自分の家族だけ。他はテレビ付きのキャンピングカーで夏を満喫している。
アダム・サンドラー演じる主人公には二人の子供がいるが、彼は仕事を進めるために土日を犠牲にする。だから妻や子供たちとのコミュニケーションに時間を取ることができない。
そんな彼の目の前に、自分の人生をDVD化するドラえもんの秘密道具のようなリモコンが現れる。ちなみにドラえもんにあたるキャラを演じているのは名優のクリストファー・ウォーケンだ。
彼はリモコンを駆使して、自分の人生の面倒くさい部分を全てすっ飛ばすことにした。ところがこのリモコンには恐ろしい副作用があって…。
『もしも昨日が選べたら』と『そして父になる』には共通点が多い。野々宮もアダム・サンドラー演じる主人公も高給取りで、仕事のために妻や子供とコミュニケーションがとれていない。さらに本人は父親との間に確執があって、それを乗り越えないと自分の子供とも向き合えない。野々宮もアダム・サンドラーも建築関係の仕事という妙な一致もある。何よりも大きな共通点は家族を象徴するモチーフがテントというところだ。
『そして父になる』は子供の取り違い騒動を経て、『もしも昨日が選べたら』はリモコンの副作用を経て、主人公が本当に父親になる姿を描く。
『もしも昨日が選べたら』はコメディアンのアダム・サンドラーが主演なので白人男性向けの内容になっている。エロネタ、人種ネタがやたら多い(特に日本人が標的になっている)。そんな作品が繊細の極みのような作品である『そして父になる』と同じことを描いているのが面白い。
オマケで、リンク先に『もしも昨日が選べたら』のラストシーンの画像を貼っておく。あまりにもサラっとしたセリフなので意味を逃しがちだけど、このセリフでアダム・サンドラーが自分の父親へのテントの恨みが感謝へ転じていることがわかる。『そして父になる』だとこういう感動シーンをサラっとではなく仰々しく描く。
テントが家族のモチーフになるのはありがちなパターンなんだけど、『もしも昨日がえらべたら』はキャンピングカーと対比、『そして父になる』は高級タワーマンションと組み合わせることで、ありがちなパターンからうまく脱却していた。
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テントと家族ネタで俺が好きなのは映画『ホリデイ』。キャメロン・ディアズ演じる未婚の女性が子供たちと一緒にテントの中に入るシーンが好き。