終戦の日が近づくとテレビでは反戦映画を放映するが、防災の日が近づいている今日テレビでは『ボルケーノ』を放映する。今回はロサンゼルスで地震・噴火が起きる『ボルケーノ』の話。
トミー・リー・ジョーンズ主演の『ボルケーノ』は1997年に製作されたディザスター(災害)映画であんまり評判良くない。でも『ボルケーノ』の背景には人種衝突があってその観点で観ると意外と面白いのだ。『ボルケーノ』が人種衝突を題材にした理由は、1992年にロス暴動が起きて白人・黒人・韓国人たちの人種衝突が浮き彫りになっていたからだ。以下はネタバレ込みで『ボルケーノ』の各シーンを解説する。
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ロス暴動といったら「黒人たちが商品を略奪している映像」というのが一番有名なのかな?もちろん『ボルケーノ』にもそんなシーンがある。
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もう一つロス暴動で有名なのは、白人の警官が黒人を暴行している証拠映像。『ボルケーノ』でも白人の警官と黒人がケンカしているときにマスコミが来ると、こんなセリフになる。
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このシーンはハッキリとは説明されないけれど、貧困層の住宅街で金持ち白人が高級車で事故を起こし黒人たちが激怒。黒人の牧師が教会に白人を匿ったという状況だ。で、その白人は「俺をパトカーで未開の地から文明国へ戻してくれ!」と黒人に対する嫌味を言っている。
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これは洗濯モノが燃えているシーン……だけではない。アメリカでは「洗濯モノを干す=乾燥機が無い=貧困層」ということになる。中流以上が住む住宅街では「洗濯モノを干してはいけない」というルールが設けられる場合もある。だからこのシーンは「貧困層の住宅が燃えている」というのが正しい解釈。この後の「美術館は守られているのに、貧困層の住宅街は守られない」という黒人の怒りの伏線にもなっている。アメリカ国旗もちょっと見える。
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黒人は白人に協力し、白人は黒人の住宅街への救援に向かう。グッとくるシーンのはずだが、120%わかりきっている展開なので思ったより熱くなれない。
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この韓国系の女性は優秀な医者で、金持ちイケメン白人の恋人から貰ったロレックスを身に付けているという設定。後半だと彼女は全身全霊で人々の治療に当たる。アジア人女性が完璧なエリートキャラを演じているというのは90年代だとけっこう珍しい。そういえばバージニア工科大学銃乱射事件のチョ・スンヒの姉も韓国系エリートだったな…。
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地下鉄の運転手は二人とも非白人。このあと運転手は災害に巻き込まれるが、キリスト教信者の白人が犠牲となって運転手は助かる。宗教的・人種的に重要なシーンだが、それよりも犠牲となる白人がデロデロと足から溶けていく描写のほうが印象に残る。
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ドン・チードルは、この手の映画に必須の「白人をサポートする黒人」を演じる。右にいるタマゴハゲのおっさんはいろんな映画で「タマゴハゲのおっさん」を演じているリチャード・シフという役者。この頭に相応しい役ばっかりだが、実はショーン・コネリー系のカッコいいオヤジである。映画の中で変なキャラを演じている男って、プライベート写真だとすごいイケメンだったりするので油断ならない。
↑リチャード・シフ -
人種問題とは関係ないシーン。この少女はトミー・リー・ジョーンズの娘役。少女の子守がトミー・リー・ジョーンズに「あなたの娘は首が360度回転する」と報告している。『エクソシスト』は首が回転するホラー映画だが少女の反抗期も描いている。という知識があれば、このシーンで娘が反抗期を迎えていることがわかる。知識がなくてもわかるので安心して欲しい。いい映画とはそういうものだ。
でも『ボルケーノ』が批判される原因は、この娘がピンチになる⇒トミー・リー・ジョーンズが助けるというパターンがくだらなすぎる点である。少女を演じたギャビー・ホフマンは最近消えてしまったが、『ボルケーノ』のヒロインのアン・ヘッシュも消えたな。
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で、これが映画のオチ。火山灰のおかげでみんなの人種がわからなくなってしまった!人種を超えた救助活動はなんて素晴らしいのだろう!というワケ。このあとトミー・リー・ジョーンズが「この星の住人たちはお互いの個性を認めることができる」と報告して、ジョーンズ星人がBOSSを飲んでいるというシーンは無い。
2001年におきた同時多発テロによるワールドトレードセンタービル崩壊では、色んな人たちが灰にまみれて救助活動をしたけど、あの事件は中東系に対する憎悪と差別を増幅させるきっかけとなってしまった。非常時になると、人種を超えて人々が協力するのか、人種差別が浮き彫りになるのかはわからない。というか両方なんだろう。『ボルケーノ』は一応その両方を描いたが、人種を超えるシーンの描き方が都合良すぎた。
そして2004年に『ボルケーノ』と同じくロサンゼルスの人種衝突を描いた傑作映画『クラッシュ』が製作された。『クラッシュ』は現代のアメリカが人種衝突の問題に答えを出せない状況になっていることを描いていた。ちなみに主人公は先ほどのドン・チードルである。
追伸:映画評論同人誌「Bootleg」で白人映画の中の黒人について書いたけれど、取り上げられなかった作品は大量にある。『ボルケーノ』はその一本で、俺はなんだかんだ言って『ボルケーノ』が割と好きである、同時期に製作されて競作となった『ダンテズ・ピーク』よりはずっと面白いしね。