しょう油が垂れたようなフォントも健在
- 面白かった
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『アマルフィ 女神の報酬』を観る会を「アマる会」って呼んでいたんだけど、続編『アンダルシア 女神の報復』が公開されたので再びアマる会が開催された。某日某駅のアンダルシアのポスター前にアマる会メンバーが集合し
「このポスターすげえ!脚本家のところに名前が入っている!」
とくだらないギャグを飛ばしたりしていたけど(『アマルフィ』では脚本の真保裕一が怒って降板したため脚本家がいないことになっている)、映画終わったあとの飲み会ではみんなで『アンダルシア』の良かった点をひたすら挙げていった。それほど『アンダルシア』はふつうに良かった。少女の尿意がすべての始まりだった大駄作『アマルフィ 女神の報酬』から、よくここまでレベルアップできたものだ。今回のエントリはアマる会で出た会話を元に作りました。あとネタバレしまくってます!
- ストーリー
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物語の起点は二つある。パリのサミットで外交官としての仕事をしているオダルフィ(「織田裕二が演じる外交官:黒田康作」の略称)、サミットではマネーロンダリング規制の話があがるが………。そしてアンゴラ公国(人口7万人のヨーロッパの国)のホテルの一室では、投資家(谷原章介)の遺体と銀行員の黒木メイサがいた。いったい黒木メイサは何に巻き込まれてしまったのか?日本人投資家の殺害事件を通じて在外邦人たちが絡み合っていく。前作『アマルフィ』の「ヨーロッパ某国の軍事政権を日本が支援していた」という珍設定は一体なんだったのだか?というくらいちゃんとしている。
- 演出が良かった
- 『アンダルシア』の最大の特徴は気の利いた演出の数々だ。セリフでの説明が少なく演出で語ってくる映画なので、観客は演出を味わいながら意図をかみ砕く必要がある。以下ではそんな演出をいくつか取り上げてみるけど、ネタバレなので注意!
- 演出:黒木メイサはなぜ車の窓を開けるのを嫌がるのか
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伊藤英明と黒木メイサの内面は細かい演出で少しずつ明らかになっていく。黒木メイサは幼いころの交通事故で負った額の傷を見られたくないから窓を開けるのが嫌なんだけど、そのことを劇中一切説明しない。説明しないからこそ、彼女がラストシーンで車の窓を開けるだけの動作に爽やかな感動が生まれる(窓を開ける⇒傷が見える⇒傷が見えても気にしなくなっている⇒トラウマを乗り越えた)。こういう人間の内面の変化をセリフで説明して、ドラマが台無しになっている映画は多い。
- 演出:オダルフィVS伊藤英明
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インターポールの伊藤英明がオダルフィを格闘であっと言う間にのしてしまうシーンは「え!こんなに強いキャラなんだ!」と驚かせてくれるけど、その後彼らが銃撃戦に巻き込まれると、伊藤英明は体がこわばってしまい動けなくなる。「え!このキャラって実は弱かったんだ」と驚かされるれるが、これらの描写もクライマックスで伊藤英明が銃を使うシーンへの伏線になっている。
またこの二人の対決は、『踊る』と『海猿』というフジテレビの大看板を背負っている二人の対決にもなっていて、芸能的な意味でも観ていてハラハラするものがある。以下俺の妄想。
織田「伊藤くん、踊るシリーズのほうが興業収入大きいからって臆することはないよ。」
伊藤「織田さんの大物っぷりには誰も敵わないですよ。共演者トラブルで大ヒットシリーズの続編作らせないなんて!」
織田「伊藤くんは関東連合とつながっているけど大丈夫なの?」
伊藤「っていうか外交官:黒田康作シリーズってあんまりヒットしていませんね、だからこそ俺が呼ばれたんでしょうけど」 - 演出:ユージュアル・サスペクツ
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注意!『ユージュアル・サスペクツ』のトリックのヒントが書かれています!
伊藤英明が黒木メイサの裏の性格を知るシーンの演出は、『ユージュアル・サスペクツ』のトリックを大胆に使っていて面白かった。黒木メイサは警察官にとある男性の容姿を伝えるんだけど、その容姿が……これもセリフでの説明が無いので観客はカメラワークや伊藤英明の視線を読み取って理解する必要がある。『ユージュアル・サスペクツ』では理解できない観客のためにコーヒーカップをうまく使っていたけど、『アンダルシア』ではTシャツの使い方があからさますぎてちょっとイマイチだった。でも観客全員にも理解させるためにはあそこまであからさまにしないとダメなのかも。
- 演出:ポーカー
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オダルフィが黒木メイサの裏の性格を知るシーンの演出も良かった。二人がポーカーで対戦していて、どんどんレイズアップする。しかしポーカーの最中にオダルフィは寝てしまう(どうして眠くなるのかも伏線が貼ってある)。起きたオダルフィが黒木メイサの残したカードを見ると…めっちゃ弱かった!ここでオダルフィは黒木メイサがブラフをかけていたことを知り、彼女の本当の性格に確信を持つのだ。
そういえばオダルフィってポーカーが強いって設定だったね。もう誰も覚えてないけどアマルフィ・ビギンズってのがあった。
- 演出:コーヒーが飲めない!
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オープニングのパリのレストランで、コーヒーが飲めなかったオダルフィ。これは本編で繰り返しギャグとして使われる。国際会議の舞台でも動じないオダルフィが、コーヒーごときで大きなリアクションしてしまうギャップで笑わせてくれる。
演出として効果的なのは列車内でコーヒーが飲めないシーンで、あのシーンは「オダルフィに寄りかかる黒木メイサを起こさないようにコーヒーに手を出さない優しさ」を表現しつつ、「やっぱりコーヒーが飲めないオダルフィ」で笑わせてくれる。
- 福山雅治
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福山雅治は登場シーンが少ないながらも、設定説明する人&観光地紹介する人&ギャグ&お色気をぜんぶ担当している便利っぷりが笑えた。アマる会では「福山雅治はオダルフィのことが好きで、嫉妬させようとしていつも女連れでオダルフィの前に登場するのでわ?」という腐女子会みたいな会話していました。実際、福山雅治のキャラはオダルフィに献身的すぎるだろ。
- 撮影
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日本映画界の大ベテランカメラマンでありながら、『アマルフィ』ではちょっとイマイチな撮影だった山本英夫だけど、今回のアンダルシアやアンゴラの撮影は大画面で見ると本当に美しい。まあ画質いじっているのはちょっと気に食わなかったけど。
- 外国映画の影響
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ジェームズ・ボンドとボーン・アイデンティティーの影響を受けているこのシリーズだけど、『ザ・バンク 堕ちた巨像』も参考にしたと思われる。インターポール捜査官が部外者とコンビを組んで国際銀行の闇を暴くという点では『ザ・バンク 堕ちた巨像』と設定がまったく同じ。
- 不満点
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細かいところで不満点はある。インターポールに左遷された刑事という設定(銭形かよ)や、警視庁から電話かかってくるとiPhoneの画面に警視庁と表示されるシーンは苦笑してしまう。あ、『アマルフィ』と違ってドコモがメインスポンサーから降りたのでiPhoneがバリバリ出てきます。アマる会では地理的なツッコミも出てきた。100人が見れば97人は見破れる「実は生きていた」トリックはイマイチだったけど、そのあとの本当の大オチが効果的だったのでこれは無問題。それよりも大オチを考えると黒木メイサが監視に怯えていたのがちょっとだけ変だ。
- 最後に
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色々褒めたがけど、俺の評価は五つ星中★★★で普通の良作だと思っている。「外国映画だったらこの程度の演出を当たり前にやっているよ…」と思う人は多いだろう。でもフジテレビの映画が、フジテレビらしさを失わずにここまできちんとやっているところが面白い。
このレベルを維持できるのなら、ぜひ第三作以降も作って欲しい。ところが『アンダルシア 女神の報復』はそれほどヒットしておらず興行収入は20億越えといったところらしい。踊る2で170億、海猿3で80億を稼いだ二人の競演作としてはだいぶ寂しいものがある。でも国内ロケなら次回作も撮れるよね?アタミとかアマガサキとかアがつく地名ならどこでもいいんでしょ?
ところで「女神の報復」というタイトルの意味だけど、花火が見られなかったルカちゃんの復讐ってこと?(違う)
ザ・バンク 堕ちた巨像 [Blu-ray]美術館での銃撃戦が美しい