1996年、漫画『SLAM DUNK』の連載が終了したのは衝撃でした。終了の理由の一つは作者の井上雄彦が「山王戦以上の試合を描けない」と判断したからです。その最高の山王戦を作者本人が映画として復活させました。
90年代に絶大な人気を誇ったミッシェル・ガン・エレファントのボーカルとドラマーが結成したThe Birthday、彼らの音楽と共に湘北メンバーが一人づつ現れるオープニングは90年代コンテンツの復活を象徴する名シーンです。
この映画の大成功は『トップガン マーヴェリック』『RRR』と並んで「2022年の映画界の奇跡」として今後も語られ続けることでしょう。
無神論者が多く、深刻な治安問題も無く、島国で戦争も無い日本では、日常の中に少し不思議なファンタジーが入り込むジャンルが発展しています。
そのジャンルで頂点を極めた新海誠が、災害大国である日本と向き合うファンタジーを作りました。
かつて「セカイ系」というコンテンツが流行っていましたが、ここ数年のアニメは日本社会と向き合う社会系のアニメが増えています。『すずめの戸締まり』はその代表です。
映画ライターのヒナタカさんの紹介文を引用します。
新海誠と並び新作映画が必ずベストテンに入る湯浅政明の最新作です。
南北朝に、不具の主人公といった危険な題材をぶっこんでいますが、社会から弾かれた者がロックスターとして成り上がるという普遍性のある物語です。
女子高生たちのアウトドアライフを描いた『ゆるキャン△』、マンガやアニメが継続中なのに、映画版は主人公たちが社会人になったアフターストーリーになっています。
彼女たちがキャンプ場を作るというストーリーに関わらず、辛い展開や複雑な心情を描かないという逆に難しい脚本を見事に作り上げました。まさに、ゆるキャン。
日本映画史に残る傑作!では無いけど多くの人が「大好きな映画」として挙げる『サマータイムマシン・ブルース』が、『四畳半神話大系』と合体するという企画です。
日本映画の隠れた良作は無数にあるので、アニメと合体して復活する企画、流行って欲しいです。
アニメ映画ライターのネジムラ89さんの紹介文を引用します。
「サーマル(上昇気流)」を掴んで空高く昇る航空部のグライダーを描くという、邦画アニメの定番ネタ「少女が空を飛ぶ」に物理的に挑んだ作品です。何も知らない主人公がマイナー部活に挑戦するというのも、日本が得意とするコンテンツです。
女性目線の理系体育会系という珍しいコミュニティの描き方や、やたらリアルなグライダーの飛行描写が素晴らしいです。
「少女が歌って踊ればアニメ映画は作れるんだよ!」という昨今の邦アニの状況に、現役最強のコンテンツ『ワンピース』と現役最強の少女歌手Adoがタッグを組んで殴り込みをかけて大成功しました。
配信が主流の時代に「映画は映画館で体験するもの」という基本的概念を打ち出し、世界的大ヒットも達成しました。
ここ数年、恋愛のちょっとした心の機微を取り上げるマンガが流行っていますが、そのジャンルを発展させた本作が劇場版になりました。大スクリーンで尊さを感じる時代です。
翻訳:オギノ오기노さん
後述の得点表を見て頂きたいのですが『THE FIRST SLAM DUNK』が491.5点で『すずめの戸締まり』が490.5点とまさかの1点差です。長年集計企画をやっていますが、ここまでの激戦は初めてです。
別企画の「2022年の映画ベスト100」では『THE FIRST SLAM DUNK』は『すずめの戸締まり』に三千点以上差をつけて勝っていたのですが、この企画では『すずめの戸締まり』が怒涛の追い上げを見せてくれました。
しかし『すずめの戸締まり』はあと1点が及ばず。マンガ『スラムダンク』の神奈川県予選の最終戦で、湘北高校に点差をつけられてから執念で追い上げたけど、メガネ君こと木暮にスリーポイントシュートを決められて負けた陵南高校を見ているようでした。
『鬼滅の刃』ですら一位になれなかったこの企画で、集英社コンテンツが1位になった事が最大の衝撃です。邦アニベストテンはスポーツ映画への投票が少ないのですが、そのセオリーも破りました。
同じ集英社コンテンツの『ONE PIECE』『ドラゴンボール』も高順位な上に、興行成績も大ヒットです。 「王道」にこだわる週刊少年ジャンプの編集方針が邦画アニメの世界でも成功しています。
ベストテン10本中8本でポスターに「空」が使われています。邦画アニメは「空」が大事な要素で、どのアニメも空の描写に力を入れています。
2021年は歌って踊る少女だらけでしたが、2022年は『すずめの戸締まり』の扉、『かがみの孤城』の鏡、『夏へのトンネル、さよならの出口』のトンネルと、 「制服姿の女子中高生が出入り口に立つ、それが冒険の始まり、かつ作品のタイトル」という作品が目立ちます。
数年前まではアニメ映画の興行収入が10億越えたら超ヒットという感覚でしたが、2022年のベストテンには桁違いの100億越えの映画が3本もあります。その一方で『夏へのトンネル、さよならの出口』『ブルーサーマル』は高い評価とは裏腹に厳しい興行収入で終わりました。邦画アニメはハリウッド映画並にハイリスク・ハイリターンな状況です。
順位 | タイトル | 得点 | 人数 |
---|---|---|---|
1 位 | THE FIRST SLAM DUNK | 491.5 | 78 |
2 位 | すずめの戸締まり | 490.5 | 83 |
3 位 | かがみの孤城 | 370.5 | 65 |
4 位 | 犬王 | 298.5 | 58 |
5 位 | 映画ゆるキャン△ | 247.0 | 47 |
6 位 | 四畳半タイムマシンブルース | 240.5 | 43 |
7 位 | 夏へのトンネル、さよならの出口 | 212.0 | 41 |
8 位 | ブルーサーマル | 144.5 | 32 |
8 位 | ONE PIECE FILM RED | 144.5 | 29 |
10 位 | 劇場版 からかい上手の高木さん | 143.0 | 25 |
11 位 | 雨を告げる漂流団地 | 115.0 | 28 |
12 位 | バブル | 106.0 | 26 |
13 位 | 地球外少年少女 前編「地球外からの使者」 | 100.0 | 16 |
14 位 | 映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021 | 94.0 | 20 |
15 位 | 映画 バクテン!! | 85.0 | 13 |
16 位 | 地球外少年少女 後編「はじまり物語」 | 82.0 | 15 |
17 位 | ぼくらのよあけ | 79.0 | 15 |
17 位 | グッバイ、ドン・グリーズ! | 79.0 | 21 |
17 位 | ドラゴンボール超 スーパーヒーロー | 79.0 | 19 |
20 位 | 映画 五等分の花嫁 | 73.0 | 14 |
21 位 | 劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM 後編 | 64.0 | 13 |
22 位 | 名探偵コナン ハロウィンの花嫁 | 54.0 | 13 |
23 位 | 機動戦士ガンダム:ククルス・ドアンの島 | 53.0 | 15 |
24 位 | 劇場版『Gのレコンギスタ Ⅳ』「激闘に叫ぶ愛」 | 52.0 | 9 |
25 位 | 劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM 前編 | 48.0 | 10 |
26 位 | かぐや様は告らせたい ファーストキッスは終わらない | 45.0 | 10 |
27 位 | 映画デリシャスパーティ♡プリキュア 夢みる♡お子さまランチ! | 40.0 | 12 |
28 位 | 君を愛したひとりの僕へ | 38.0 | 13 |
29 位 | 劇場版『Gのレコンギスタ Ⅴ』「死線を越えて」 | 36.0 | 7 |
30 位 | 劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ | 35.0 | 9 |
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公開時は大批判された『バブル』でしたが12位という高順位でした。「売れる邦画アニメの要素を全部乗せる」というある意味で2022年の邦画アニメを象徴する作品でした。
いわゆるTVシリーズ形態がベストテン入りするのは『四畳半タイムマシンブルース』が初です。同じくTVシリーズ形態の『地球外少年少女 前編「地球外からの使者」』も13位と高順位。配信が主流になり、TVシリーズ形態と映画版の境目が無くなって来ています。
2021年までたくさんあった「集団ヒロインモノ」が一挙に消えましたが、その中で『映画 五等分の花嫁』は20位と健闘しました。
日テレが強く推していた『鹿の王 ユナと約束の旅』がTOP30圏外に。度重なる公開延期もあったせいで興行収入も厳しい結果になりました。『もののけ姫』と同じ系統の「後世に語り継がれる伝承が生まれる物語」です。でもジブリ路線を狙った非ジブリ映画は失敗する傾向があります。
『クレヨンしんちゃん』がTOP30に入らないのは2017年以来のことです。
『映画おしりたんてい シリアーティ』や『映画かいけつゾロリ ラララ♪スターたんじょう』もTOP30圏外。児童アニメは苦戦しました。
「邦画アニメ」という条件にも関わらず毎年ディズニーアニメへの投票が相次ぐのですが、2022年はゼロでした。ディズニーアニメの『ストレンジ・ワールド』も『ピノキオ』もコケたのが原因だと思います。
ただ日本が原作で日本人が主人公のフランス映画『神々の山嶺』には投票が複数ありました。
表記揺れが一番激しかったのは『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ』でした。