『ザ・レイド』はすごいアクション映画だった。20人のSWAT隊員たちが、麻薬王が支配する高層マンションに強制捜査(レイド)に入る。彼らは誰にも気づかれないように麻薬王の部下たちを一人一人確保or殺害していく。だがその時、マンション中にあるスピーカーから麻薬王の声が聞こえてくる。
「住人諸君、お気づきのとおり今日は客人が廊下をうろついている、すぐに駆除にしろ。そして楽しむことを忘れるな」
そう、マンション住人全員が敵となったのだ!凄まじい銃撃戦と爆発が始まる。そして敵も味方も弾丸が尽きてくるとき、最強格闘術のシラットが炸裂する!
全編に渡って暴力的なアクションが展開する。設定もストーリーもシンプルでセリフもほとんど無いけど、ネタバレ要素はたくさんあって、観客がアクションに飽きてくるとネタが明らかになっていくタイミングが絶妙だった。この手の設定ではやらざるを得ない「敵の中に潜入捜査官がいた!」をあえてやらなかったのも偉い。
どうしてもシラットに注目がされるけど、音楽や銃撃戦もカッコいい。銃撃戦すら始まっていない序盤のストイックな演出もいい。久々に良い気分になれるアクション映画だった。
2012年は『バキ』と『タフ』という俺がガキの頃から大好きだった二大格闘漫画が終わってしまった。この二つの格闘漫画に限らないけど格闘漫画には「勝つ側の法則」がある、料理マンガの対決は後出しのほうが勝つみたいなやつ。格闘マンガの法則は「身長が低いほうが勝つ」というものだ。例えば『バキ』では32人トーナメントが行われるんだけど、背が低いキャラのほうが勝率高いのでベスト4に残るキャラのうち3人が低身長キャラだったりする。
格闘技はもちろん身長が高いほうが有利なので、格闘マンガの主人公は背が低いことをあえて強調されている。背が高いキャラと対峙するときの「デカい相手にはかなわんわ」という雰囲気を煽るためだ。格闘マンガなら「身長差のハンデキャップをどうやって乗り越えるか」がきちんと描かれるけど、映画の場合はもっと単純。主人公が戦う相手はプロレスラーみたいにデカい男、そんな男と面白おかしく戦うだけで主人公が身長差を乗り越えていることに説得力はない。
で、『ザ・レイド』の場合なんだけど低身長キャラは主人公ではない、敵キャラのマッドドッグという男だ。映画の序盤でSWATの隊長が「強制捜査に入るビルはとにかくヤバいビルだけど、マッドドッグはさらにヤバい」と説明されるほど高い危険度を持つ敵キャラクターだ。このマッドドッグが身長差をものともせずシラットを駆使してSWAT隊員と戦っていく。身長差があるからこそ観客にはマッドドッグの格闘術の凄まじさが余計に印象付けられる。その凄まじさ格闘マンガを実写映画で観ているかの如くだ。『ザ・レイド』は『バキ』と『タフ』の二大格闘マンガの喪失を埋めてくれる作品だ。
オマケ
川崎タカオ(漫画家)、古泉智浩(漫画家)、笹原和也(CGアニメーター/監督)、ジャンクハンター吉田(映画ライター)、早田恭子(日本プンチャック・シラット協会会長)、高橋ターヤン(格闘ライター)、中田圭(映画監督)、わたなべりんたろう(ライター、監督)という豪華なメンバーが参加した『ザ・レイド』の応援ユーストに俺も参加させてもらいました。
立場的に俺が一番下っ端なので「俺がシラットの実験台になったほうがいいんスかねぇ」と言ったところその通りになりました。気分は危険なロケをやらされるお笑い芸人。圧倒的身長差を乗り越えられて女性に倒される破壊屋管理人を紹介します。
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『ザ・レイド』の応援ユーストに集った各界の男たち。唯一の女性は日本プンチャック・シラット協会会長の早田恭子さん。
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見よ、この身長差!早田さんはかなり小柄な女性なのに対して、俺は身長179センチ。
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「グヘヘヘヘ、ちいさい女が好きなんだよぉ」とスパイダーマンの格好には似合わないけど、顔には似合っているセリフと共に襲い掛かる。しかし早田さんの右腕は既に俺に狙いを定めている。
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0.3秒後。
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身長差も性別による筋力差もあっさりと乗り越えられた。このまま右ひじの関節を逆側から押されて無理やりしゃがまされる。
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「こうすれば左手で反撃したくても届かないんですね」と早田さんが解説しているのを聞いて、自分が詰んでいることに気が付いた。
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顔に寸止めで蹴りを入れられる俺。これ実戦で食らったら体のダメージもすごいけど、それ以前に心が折れるよね。
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俺を取り押さえながらシラットを解説する早田さん。スパイダーマンパーカーを着ていなくて会社スーツのままだったら「駅員さん、この痴漢をお願いします」って感じだろう。
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早田さんは暴力嫌いらしいんだけど、ナイフの使い方について説明しはじめた…俺はこのとき「え?ナイフ?どういうこと?」と思ってました。シラットの型にはナイフもあるらしいですね。早田さんは対ナイフの戦い方として「間合いから逃げる」と説明する。ソレ、マジで実戦じゃねえか。
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「グヘヘヘヘ、女の肌切り裂くのが趣味なんだ」とテレビのリモコンをナイフ代わりに襲いかかろうとする。さあ間合いに入るぞ!
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まあ結果は同じで一瞬で右手首を取られました。この日一番歓声があがった瞬間でした。