『あまちゃん』が東日本大震災を描いて大きな話題になった。震災の回はかなりの緊張感を持って迎えられていたね。作品の中で東日本大震災と向き合うというのはまだまだ難しいんだなと感じる一方で、これで「あまちゃん以降」という区切りが生まれたので今後は色々な作品の中で東日本大震災が描かれることになると思う。
ところで阪神淡路大震災はどうやって映画の中で描かれたのだろうか。俺が印象に残っている3本の映画を取り上げます。寅さん以外の2本は両方とも関西映画で日本映画史に残るレベルの大傑作です。
寅さんシリーズの最終作。
まずは阪神淡路大震災と同じ1995年に公開された『男はつらいよ 寅次郎紅の花』から。阪神淡路大震災は1月に起きて、『寅次郎紅の花』は12月に公開された。本作が阪神淡路大震災を取り上げたことは公開大きな話題になった。
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劇中の時期は1995年の夏の終り。オープニングは寅さんへの連絡を乞う新聞広告から始まる。寅さんが1995年の1月に神戸に行ってからというのも、連絡が途絶えていた。神戸では震災が起きたのでみんな心配しているのだ。
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寅さんの妹たちは震災当時を振り返るニュース映像を見る。「ボランティア元年」は実際にある言葉で1995年を意味する。
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倒壊する家屋のシーンで顔を背ける妹のさくら。
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当時をリアルタイムで知っている人は、避難所を訪問する村山首相が印象に残っているであろう。しかしそのとき…。
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村山首相の隣でやたら偉そうな男が…。寅さんだ!
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「テレビを見ていると寅さんが出てくる」というのはこのシリーズが何度かやっている定番ギャグなんだけど、村山首相に馴れ馴れしい態度をとるギャグは破壊的に面白い。
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っていうか首相と知り合いになっているのかよ寅さん!
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こうして寅さんは震災でも死んでいなかったことが判明するのだ。
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映画のラストシーンは1996年の正月。寅さんはボランティアとして活動していた神戸の長田区に再び向かう。長田区は壊滅的な打撃を受けた場所で一部更地になっている。また長田区は在日コリアンの多い街なので、このシーンはずっと朝鮮舞踊が写っている。
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復興を象徴する神戸のパン屋の夫婦を演じるのは宮川大助・花子。
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これはシリーズ全体のネタバレになるので画像を小さくしておきます(クリックすれば大きくなります)。
本来はこのあとに2本作って寅さんシリーズは完結する予定だったが、渥美清は1996年にガンで死去。これが寅さんと渥美清の最後のセリフとなった。それを踏まえると渥美清の笑顔とセリフだけで泣けてくる。まさに「ご苦労様」である。
撮影中の渥美清には肝臓と肺にガンが転移しており、画像からもわかるようにガンの症状で顔がむくんでいる。顔がデカいことで有名な宮川大助と同じくらいの大きさになっている。
渥美清はとてもじゃないけど撮影できる状態ではなかったとのこと。実際、寅さんの登場シーンはだいぶ少なくなっているけど、それでも寅さんらしさを失わないように脚本でかなり工夫している作品だ。
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これが『男はつらいよ』全48作の最終シーン(クリックすれば大きくなります)。50作で完結予定だったので物語的には中途半端な状態で終わってしまった。しかし阪神淡路大震災後の更地と仮設住宅を写しながら、復興に向けた正月を写しながら終わるというのは正月映画『男はつらいよ』の最期に相応しい。
次は阪神淡路大震災の5年後の2000年に公開された『顔』。内容は美人の妹(牧瀬里穂)を殺した引きこもり中年のヒロイン(藤山直美)の逃亡劇が描かれている。
2000年最高の日本映画で、数々の映画賞を受賞している。俺もゼロ年代を象徴する日本映画だと思っている。
予告編はこちら、中村勘三郎がなんとレイプ犯を演じている。
阪神淡路大震災は映画の前半で発生する。殺人犯となった姉はラブホテルの住込み従業員として潜伏しているが、そこで大きな地震が発生する。ヒロインは地震が妹を殺した自分に対する罰だと思い「バチが当たった!バチが当たった!」と揺れの中、右往左往する。
ラブホテルの経営者(岸部一徳)が「家族連れが来たらラブホテルに入れてあげてください」と言う心優しいシーンが印象的だ。だがこのあとに衝撃的なシーンがある。
震災後にヒロインが喫茶店のテレビで阪神淡路大震災の報道映像を見ていると、謎の女(内田春菊)に声をかけられる。二人は震災について会話した後に、大震災で死んだ人のために手を合わせるのだが………。この謎の女のモデルは実在の殺人者:福田和子なのである!つまりこのシーンはヒロインと福田和子という二人の人殺しが震災で死んだ人を弔うという皮肉なのだ!
あまりにもヤバすぎる内容な上にDVDが絶版となり、中古DVDに高額なプレミアがついている状態だった。しかし今月下旬に祝・再発売!定価で買えるチャンスだ!
全部読むには課金が必要だけど、俺の『シャブ極道』評はWeb雑誌cakesで読めます⇒表現の自由を教えてくれた映画『シャブ極道』
最後は阪神淡路大震災の1年後の1996年に公開された『シャブ極道』。この映画の阪神淡路大震災ネタを解説することは、映画の完全なネタバレになるので注意してほしい。
主人公は「シャブを売って打って売りまくって日本を幸せにするんやー」という超危険思想の暴力団組長(役所広司)。主人公は弱小暴力団の組長なのに、シャブ禁止を掲げる日本最大の広域暴力団松田組(っていうか山口組ですね)と対立する。
主人公は松田組に親友を殺されたショックとシャブの打ちすぎで発狂状態になり、松田組の組長を殺す決意をする!あまりにも無謀すぎるため主人公の妻が止めようとするが、そのとき突然何もかもが揺れ出す!シャブの症状ではない、阪神淡路大震災が起きたのだ。発狂している主人公は地震を神からの祝福と解釈し、揺れの中走り出す。妻は地震で立つことができず主人公を止めることができない。
そして神戸は大打撃を負った。松田組は阪神淡路大震災の被災者を救おうと支援活動を行っているが、主人公はその隙を狙って松田組組長を殺そうとする!。
俺は高校生の頃に『シャブ極道』を映画館で観たとき、この阪神淡路大震災のシーンで全身が震え上がるほどの衝撃を受けた。起きたばっかりの震災を過激なドラマに組み込んでしまうパワーに打ちのめされた。
ちなみに『シャブ極道』は18禁なので、年をごまかして観に行った。今だったらきっと俺のツイッターは炎上しているだろう。
『顔』も『シャブ極道』も強烈な生きる力を持っている犯罪者の主人公が、震災すらもその力で突き抜けてしまう様子を描いている。
東日本大震災で同じことを描くのは難しい。東日本大震災は津波が何もかもを奪い、原発が世界を脅かし、被災地は風評被害で延々と苦しめられ、首都圏への影響も大きかった。悲劇を比べるのは愚かだけど、やはり東日本大震災のほうが傷ついた人が多い。これに取り組んだ『あまちゃん』は確かに凄いと思う一方で、6434人が亡くなった阪神淡路大震災をネタに『顔』や『シャブ極道』を生み出せる関西パワーにも圧倒される。映画だろうがドラマだろうが作品にも災害と立ち向かう力がある。
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『男はつらいよ 寅次郎紅の花』のCG合成は『フォレスト・ガンプ』の影響を受けたのだろう。
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東日本大震災を題材にしたコメディは既に2012年に公開されている!俺の映画評はこちら⇒放射能とレディ・ガガ 東日本大震災コメディ映画『青いソラ白い雲』
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阪神淡路大震災そのものを描いた作品。薬師丸ひろ子も出ている。
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2014年にはシャブい役所広司が『渇き。』で帰ってくるぞ!
こういうエントリ書くと「テレビドラマ○○が阪神大震災扱ってますよ!」っていう情報が大量に寄せられますが、そういうのはいらないです。映画限定だし、取り上げるつもりもありません。