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ステマでよさこいソーランを踊る『魔法遣いに大切なこと』

月曜日, 4月 15th, 2013

いきなりだが『こち亀』のステマネタの画像を見てほしい。

こち亀01
こち亀02

『こち亀』の109巻「ハイテクベーゴマ大ブーム!?」より。

両さんがハイパーベーゴマをゴーリキのようにゴリ押しで各メディアに売り出すというエピソードだけど、これをガチでやっている映画があった。デートでよさこいソーランを踊る『魔法遣いに大切なこと』だ。

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『魔法遣いに大切なこと』そのものについては2008年の「この映画はいったい誰が観に行くんだ 大賞」のアッシュさんのコメントがわかりやすく表現している。

五年も前に一度テレビアニメ化して(声優・宮崎あおい!)たいしたヒットもせず、今年もう一度アニメ化してもやはりぱっとせず、にもかかわらずとどめに実写映画化される作品

これの企画者は、いったいどんな超能力を持っているのか教えてください。

調べてみると、『魔法遣いに大切なこと』アニメ版は設定の矛盾などをツッコミ入れられていた。

実写版のヒロインは山下リオで、相手役は岡田将生。この世には魔法使いが実在して、魔法使いたちは日本の公務員として人々のために働いているという設定だ。以下ネタバレ。

魔法遣いに大切なこと1

魔法使いである山下リオと岡田将生は中盤のクライマックスで、座礁したイルカたちを魔法を使って助ける。そこで仲良くなった二人は食事をする。

魔法遣いに大切なこと2

そして二人はよさこいソーランの練習を観に行く。何でだよ!

魔法遣いに大切なこと3

ヒロインがいきなりよさこいソーランを踊り出す。

魔法遣いに大切なこと4

結局みんなで踊り出す。この後、よさこいソーランを踊った二人は急接近するのであった。

ググってネット上の感想を調べるとみんな戸惑っていた。実際このシーンは観るのも辛い珍シーンだった。

このシーンには大きな問題がいくつかある。

  • よさこいソーランに関する伏線が全くないし、このあと二度と出てこない。
  • 魔法使いという映画の世界観をよさこいソーランが完全にぶっ壊してしまった。
  • 二人が急接近するシーンなのに、映画とまったく関係のないよさこいソーランを使った。二人が仲良くなるきっかけはストーリーに関係のあることにすべきだった。おかげで二人が好きになった理由がよさこいソーラン以外に存在していない。

Wikipediaで調べてみると、二人をよさこいソーランに誘ったキャラは原作だと下北沢のストリートミュージシャンだった。なぜそれがよこさいソーランに変わったのか?そして何故主役たちが踊るのか?

調べてみたけれど、ちょっとわからなかった。よさこいソーランは北海道の夏の観光資源で(数年前やたらプッシュしてたね)『魔法遣いに大切なこと』は北海道も舞台なので、そこらへんの関係かもしれない。もしかしたらステマじゃなくて、単によさこいソーランを使いたかっただけかもしれんけど。


こういうステマチックな珍展開は日本映画でよくある。とくにメジャーなタレントを使った低予算映画がやりがちだ。パッと思いついた所だと

  • ファミマのチキンを褒めながら食べる榮倉奈々の『阿波DANCE』
  • バレエの映画なのに東方神起のライブでダンスの勉強をする黒木メイサの『スバル』。
  • 全編に渡ってスポンサーの商品が出てくる石原さとみの『フライング・ラビッツ』

プロデューサーがスポンサーに金を出させるときに「あのタレントに劇中ステマやらせますから!脚本で勝手にシーンを追加するので大丈夫です!」というコントみたいな展開があるのだろう。

何度か破壊屋に書いているけど、こういうのは「ステマ」じゃなくて「プロダクト・プレイスメント」と呼ばれていて、アメリカ映画でもガンガン使われている。しかし日本映画のやり方はセンスが悪い上に、スポンサーの都合で作品が壊されているので、「ステマ」という蔑称ちっくな言葉を使いたい。

なぜ日本映画のステマはこんなに酷いのかちょっと考えてみた。芸能事務所にとってタレントとは俳優というよりもスポンサーをつけて金を稼ぐ商品という側面が強い。さらに事務所にとってお客さんはファンじゃなくてスポンサーの企業たちだ。だから作品の質が軽んじられるだろう。特に原作ファンの想いなんて作り手にとっては邪魔なだけかもしれない。


ちなみに『魔法遣いに大切なこと』のラストは、ヒロインは魔法使い特有の難病でもうすぐ死ぬ。だから死んだお父さんのお墓にいって、魔法の力を使って死んだお父さんを蘇らせて結婚の御挨拶をしたら、ヒロインも死んじゃって残されたお母さん(永作博美)が号泣。しかも花婿はいなかった。という凄いオチだった。


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エイベックスの映画なので東方神起が出てくる。

コンビニとタイアップする映画

月曜日, 1月 14th, 2013

エイトレンジャー

コンビニはタイアップの現場だ。日本最大のコンビニチェーンであるセブンイレブンはジャニーズ事務所とタイアップを組んでいて、セブンイレブンに行くと常にジャニーズ関係のキャンペーンをやっている。二番手であるファミリーマートは吉本と韓流と組んでいるし、ローソンは『エヴァ』や『けいおん』といったアニメに強い。

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ファミリーマートとタイアップする初音ミク。

コンビニ各社はコンビニチェーンに加入した店長たちが売り上げを伸ばしやすいように強力なタイアップキャンペーンを用意する一方で、店長たちから売上を容赦なく奪うのだ。

映画とのタイアップだと『キューティーハニー』がファミリーマートとタイアップしたことがある。佐藤江梨子演じるハニーはファミリーマートのおにぎりで強くなるという設定だ。この設定はあまりにも酷くて、佐藤江梨子がファミリーマートでおにぎりを食べてパワーアップするオープニングを観たとき、俺は「これ映画本編なの?CMじゃないの?」と疑ったほどだ。

ついさっき『キューティーハニー』並みに強烈なコンビニタイアップの映画を観た。関ジャニの『エイトレンジャー』だ。『エイトレンジャー』は絶望に覆われた未来の日本が舞台になっている。日本の経済は破綻し円は終了、経済は混乱し治安が極度に悪化、格差社会は極端に広がり、子供たちは人身売買されて臓器を抜かれる。国内は硫酸の運河で分断されたため運河に落ちると死ぬ。警察は役目を果たしていないため警察の代わりにヒーローが活躍する………という設定なのにセブンイレブンのタイアップ映画なので「あなたの暮らしに近くて便利!」という文字をはためかせながらセブンイレブンが登場する。この瞬間、絶望の日本という設定は無かったことになった。

関ジャニ演じるヒーローたちは、一人一人顔がアップになるとセブンイレブンで買った食べ物を口に入れながらセリフを言っていた。劇中の日本の絶望の姿よりも、コンビニタイアップで無残になった映画の姿のほうがずっと絶望できたよ。

エイトレンジャー

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ファミリーマートのスパイシーチキンとタイアップした映画『阿波DANCE』。青春映画なのに、スパイシーチキンを褒めながら食べるシーンがあってこれも台無しに。

発電所で地震が起きる映画『HINOKIO』のスポンサーは東京電力

日曜日, 4月 3rd, 2011

HINOKIO

HINOKIO(ヒノキオ)

東北大震災&原発爆発後の更新ということで、東京電力がスポンサーの映画『HINOKIO』を取り上げる。空想的な設定に子ども同士の純粋なラブストーリーをうまく組み合わせていて、俺は好きな映画だ。でもこういう事態になってしまった以上、ちょっと心苦しいけど『HINOKIO』をネタにする意図で紹介する。

東京電力の提供でお送りします

どういう映画なのかは東京電力のサイトに載っているプレスリリースがわかりやすい。『HINOKIO』が東京電力のコマーシャル的な映画だということがよくわかる。

劇場用映画「HINOKIO(ヒノキオ)」製作への出資、参画について

平成16年4月28日

東京電力株式会社

当社はこのたび、平成17年初夏に公開予定の劇場用映画「HINOKIO(ヒノキオ)」(松竹配給)の製作に出資、参画することにいたしました。

本作品は、明日というイメージの近未来を舞台に、母親の死をきっかけに「ひきこもり」になってしまった少年が、科学者である父から贈られた「HINOKIO」という名の遠隔制御の介護ロボットを通じて、現実の社会に適応し、家族愛や友情、初恋に目覚めていくという感動的な物語です。

当社は、本作品のテーマである「社会とのつながりや人間同士のコミュニケーションの大切さ」という普遍的なテーマに共感するとともに、作品中で描かれるIHクッキングヒーターやバリアフリー住宅、高速インターネットなど近未来の生活シーンの「電化イメージ美術設計コンサルティング」として映画製作をサポートすることにより、オール電化の魅力や情報化されたクリーンで快適な暮らしをPRできることから、出資、参画を決定した次第です。

原発の未来

「IHクッキングヒーター」「バリアフリー住宅」「高速インターネット」が「明日という近未来」だとしているが………これらの要素は『HINOKIO』が公開された2005年でもそんなに近未来的な要素じゃないと思う。そしてオール電化やクリーンで快適な暮らしとあるが、現実の近未来である2011年は原発が爆発して放射能汚染が始まった。多くの人が予想していなかった未来だ。それでは映画の内容を紹介しよう。

以下の文章にはネタバレと不謹慎な東京電力&原発ネタが多く含まれています。


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映画のファーストカット。映画が始まった瞬間にスポンサー企業の名前がズラズラと出てくる公共事業的感覚が日本映画の特徴だ。東京電力の名前もある。

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映画の次のカット。原発政策を推進していた経済産業省もこの映画に関わっている。

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主人公は交通事故で母親を亡くしてひきこもりとなった小学6年生のサトル。サトルはヒノキオ(檜を使ったピノキオ)というロボットで小学校生活を送ることになった。燃料は電気である。

ヒノキオのVFXは不自然さが一切無いように作られていて、日本映画としてはかなりの高レベルだ。

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ヒノキオのクラスには委員長的存在の優等生メガネがいた。この子はどんどんマニアックな設定が後付けされていくので面白い。だがこの子が正式ヒロインではない。

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ヒノキオは同じクラスのワルガキたちに目をつけられていじめられる。野球帽を被っているのがワルガキのリーダーのジュンだ。だがヒノキオはジュンたちと仲良くなりたいと思っている。

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ワルガキたちが廃工場でテレビを見ていると、ヒノキオがやってくる。テレビのニュースでは与野党の混戦と大震災予知の話をしている。映画館で観たときは「ナンじゃこりゃ」としか思わなかったが、東電映画として観るとものすごく緊張感があるシーンだ。この震災予知がクライマックスの伏線となっている。

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ワルガキたちのパシリとなってアビるヒノキオ。っつーか窃盗じゃん。
(アビる:ダンボール箱ごと商品を盗むこと 用例「災害で壊滅した地域ではアビる人が出没する」)。

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ヒノキオは体育の授業で美少女に恋する。演じるのは堀北真希だが、この子も正式ヒロインじゃない。右側に「REC」とあることからわかるように、これは録画モードになっている。っつーか盗撮じゃん。

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サトル(ヒノキオ)の自宅のキッチン。東京電力がスポンサーなので、オール電化キッチンをアピールするCMみたいなシーンがある。

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サトルの父親である中村雅俊が引きこもりのサトルに声をかけるシーン。手すりからわかるように、この自宅はバリアフリーになっている。自宅内に段差がないため車イスがすいすい動くシーンもある。

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釣りを通じてヒノキオとジュンは仲良くなっていく。海から巨大魚が出てくるシーンがあるんだけど、間違いなく放射能の影響。

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ヒノキオとジュンは不良中学生に絡まれる。多重下請け構造で安全軽視したり、被爆する作業を外国人労働者たちにやらせていた東電さんには叶わないっスよ!不良中学生と戦うヒノキオのシーンはかなり楽しい。

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不良中学生たちの親玉はなんとメガネ美少女だった!なぜ彼女がヒノキオを狙うのだろうか?

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ヒノキオとジュンは死について語り合う。ヒノキオの答えは「死ぬと煉獄に行く」というものだった。そしてヒノキオは「煉獄の塔」について語りだす。煉獄の塔とは……衝撃の結論が!

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煉獄の塔とはなんと東京電力の発電所の煙突だった!そりゃまさに地獄を越えた煉獄だよな。

ちなみにこの煙突の火力発電所はとっくの昔に取り壊されているので、川崎の火力発電所とのCG合成かもしれない。

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釣りの最中にジュンは海に落ちてしまう。ジュンは服をかわかすのだが、ヒノキオはジュンの胸をアップにする………うん?ううん?あれ?

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実はジュンは女の子!この映画はヒノキオとジュンのラブストーリーだったのだ。俺もまったく気がつかなかったので、映画館で観たときは本当にビックリした。ここから映画はどんどんマニアックな方向に向かう。

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ジュンを演じるのは今や有名女優となった多部未華子。この映画は多部未華子の長編デビュー作でもある。『HINOKIO』での多部未華子の演技は素晴らしい。

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ジュンの体は汚いらしい。ちょっとくらい放射能を浴びても除染すれば平気だよ!じゃなくて、ジュンは性的虐待を受けていたのだ。このことは大人の観客だけが気がつくように細心の注意を払って演出されている。

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メガネ美少女がヒノキオを攻撃した理由が判明する。メガネ美少女はジュンのことが百合的な意味で好きだったのだ。だから誰もいない教室でこっそりジュンの笛を吹く。ちなみに堀北真希もジュンと特別な関係があることが、後々判明する。すごい展開だ!

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ジュンと仲が良いヒノキオに嫉妬するメガネ美少女はヒノキオが戦闘用ロボットだという疑惑を見つける。原発作業用のロボット持っていなくて、今になって外国から借りている東電がそんなロボット持ってるわけないじゃん!(注:ヒノキオを作ったのは東電ではありません)

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メガネ美少女は「危ない物が学校に来ているのは問題だと思います」と告発する。いやいや原発の危なさに比べたら全然大丈夫ッスよ!映画の中では彼女は間違っているが、現実では福島原発の問題点を告発した意見のほうが正しかった。だが俺も含めた大勢の日本人がガン無視、あまりにも壮大すぎる後の祭りとなった。

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いろいろ辛いことがあってヒノキオ(サトル)は電車に飛び込み自殺する。いやロボットじゃん、とツッコミたいところだがヒノキオが大ダメージを受けるとサトルも死ぬというマトリックス設定なのだ。そしてサトルは危篤状態となる。天国へと向かうサトルくんのショタヌードをお楽しみください。このあとカメラはぐるんぐるん回って、後ろから前からローアングルとなります。こういう画像をアップするとアグネスに怒られそうだが被災者支援(と折鶴)に忙しいらしいので大丈夫だろう。

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ヒノキオを救うためには煉獄の塔に行くしかない!ジュンはそう決意して、東電の発電所に向かう。しかし発電所の煙突に登りきったとき地震が起きて……ストーリーのネタバレはここまでにしておく。

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オマケ1:ヒノキオを製作しているスタッフの女性を演じるのは牧瀬里穂。

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オマケ2:サトルの母親を演じるのは原田美枝子。熟女マニア的にはこれくらいがちょうどいい。

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オマケ3:煉獄の塔周辺の光景。煉獄の塔とは東京電力の発電所のことなので、原発周辺も将来こんな感じになるのであろう。画面の女性の声優は林原めぐみ。

監督の意図

『HINOKIO』のネタ的な部分ばかりを抜き出してしまったけど、映画本編はもっと良い内容だ。監督&脚本&VFXの秋山貴彦がこの映画で描きたかったのは「コミュニケーション」で、登場人物たちはヒノキオを通じて本音でコミュニケーションをとっていく。ロボットを通じたコミュニケーションというアイデアは監督が80年代から考えていたらしいが、この映画が公開されたのは2005年。当時はケータイを使った新しいコミュニケーションが社会現象になっていた時期であり、相手の顔が見えなくても人と人が深く繋がるのはSFじゃなくて日常だった。時代が進んで『HINOKIO』のアイデアから新鮮さが失われてしまった。それでも俺はこの映画を心に傷を負った子供同士のファンタジーラブストーリーとして高く評価している。

東京電力がスポンサーになったことは、この映画にとって不幸だったと思う。監督は昭和的な世界観とSFを融合させたかったらしく、細かい小道具や演出はアナログ要素をうまく使っている。ところが東電の意図が働いているであろう最新の電化製品ネタが世界観とマッチしていない。

HINOKIOの本当の不幸

ちなみに『HINOKIO』は記録的な不入り映画でもあった。なんせ2005年の夏といえば『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』と『宇宙戦争』が公開されていた。だから『HINOKIO』はSFファンから無視された。運の悪いことにポケモンの新作とも公開時期が被っていたので子供の観客も来なかった。トドメを刺すように『バットマン・ビギンズ』も公開されていた。

『HINOKIO』はヒットしなかったし、俺みたいな一部の人間が支持しただけで世間からの評価も低い。原発が爆発し東電の管理体制や原発政策の問題点が次々に明らかになっている現状では、『HINOKIO』には「東電映画」という見方も出来るようになってしまった。とりあえず『HINOKIO』がテレビで流れることは二度と無いだろう。つくづく不幸な映画である。

ラストシーン

本当のネタバレになってしまうが、この映画のクライマックスでは危篤になったサトルは煉獄に向かう。そこには部屋があって死んだ母親と再会する。この展開は同じピノキオを題材にした某映画と同じだけど、『HINOKIO』が面白いのはジュンの存在だ。煉獄でサトルが母親と再会するためには、ジュンが煉獄の塔で笛を吹く必要がある。ジュンが煉獄の塔(煙突)を登るのは試練であり、塔から落ちるのは死(生まれ変わり)を意味する。母に会いたいサトルと、サトルを助けたいジュンの強い想いが現実となり、それぞれが成長していくクライマックスなのだ。

とあるジャーナリストの『HINOKIO』評論で「ジュンが男装するのは父親と同一化しているから」ってあったけど、全然違うよ!ジュンがボーイッシュなのは性的虐待を受けて女性としての自分が嫌いになったからだよ。だから映画のラストシーンでスカートを穿いたジュンが出てくるのは、性的虐待を乗り越えたことを意味するんだよ。

飛露喜 特別純米 無濾過生原酒 1800ml 2011年2月製造分 要冷蔵商品日本酒は苦手なんだけど、支援するつもりで福島のお酒飲んでみるか。